独女は温泉巡りしていると御曹司と出会い、溺愛に包まれる

一ノ瀬 彩音

第1話 イケメン青年との出会い

私はある日、山奥にある温泉宿に向かっていた。

そこは知る人ぞ知る秘湯として有名で、

仕事帰りに疲れた体を癒すため、その噂を聞きつけてやって来たのだ。

到着した頃にはすっかり日が暮れていて、辺りはすっかり暗くなっていた。

そんな中、私は一人、露天風呂を満喫していた。

この静かな雰囲気がたまらない。

まるで、自分だけが別の世界にいるような気分になる。

しばらく入っていると、誰かが入ってくる音がした。

振り返ると、そこには若い男性がいた。

歳は20代前半くらいだろうか?

背が高く、引き締まった体つきをしている。

顔立ちも整っていて、いかにもモテそうな感じだ。

そんな彼を見て、私は思わずドキッとする。

「こんばんは」

と言いながら、彼は私の隣に腰掛けた。

近くで見ると、ますますカッコよく見える。

こんな人と付き合えたら最高だろうな……と思いながら、私は彼に見惚れていた。

それからしばらくの間、私たちは他愛もない話をしたり、景色を眺めたりして過ごした。

会話が途切れると、沈黙が訪れる。

その間、私はずっとドキドキしていた。

隣にいるだけで緊張してしまい、何を話せばいいのか分からなくなる。

そんな時、彼が口を開いた。

「あの、もし良かったら、この後二人で飲みに行きませんか?」

突然のお誘いに驚きつつも、私は喜んで承諾した。

こうして、私たちは一緒に居酒屋へ行くことになった。

席に着くと、早速注文をする。

お酒を飲みながら、色々な話をした。

仕事のことや趣味のこと、家族のことまで、とにかく色んなことを話した。

そして、話題は次第に恋愛の話になっていった。

そこで、ふと気になったことを聞いてみた。

どうして私のことを誘ってくれたのか、その理由を知りたかったからだ。

そうすると、意外な答えが返ってきた。

どうやら、彼も私と同じ悩みを抱えていたようだ。

つまり、お互い似たような境遇にいることが分かったのである。

それを聞いた瞬間、私は嬉しくなった。

彼と共感できたことが嬉しかったのだ。

そんな気持ちを伝えると、彼も嬉しそうに微笑んでくれた。

「僕も同じ気持ちです。あなたと出会えて本当に良かったと思っていますよ」

そう言って、私の手を取る。

その瞬間、心臓が高鳴るのを感じた。

顔が熱くなるのを感じる。

恥ずかしくて俯くことしかできなかった。

それでも、彼の手を振り払うことはできなかった。

むしろ、このまま時間が止まってしまえばいいと思ったほどだ。

「そろそろ帰りましょうか」

と彼が言った。

私は小さく頷き、立ち上がった。

そして、私たちは手を繋いで宿まで戻ったのだった。

「今日は楽しかったですね」

と言うと、彼も笑顔で頷いた。

その後、駅で別れたのだが、別れ際に彼から手紙を渡された。

中を見ると、連絡先とメッセージアプリのIDが書かれていた。

驚いて彼の顔を見上げると、照れくさそうに笑っていた。

それを見て、私も自然と笑みがこぼれる。

そして、最後にもう一度だけキスをして、その日は解散した。

家に帰ってからも、その時のことを思い出して悶々としてしまったのは言うまでもないだろう。

翌朝、目が覚めると、真っ先にスマホを確認した。

通知が来ていないか確認したかったのだ。

しかし、残念ながら何も来ていなかった。

がっかりしつつも、気を取り直して支度を始めることにした。

出勤途中、電車に揺られながら、昨日のことを思い出す。

(ああ、幸せだったな)

そう思いながら、口元を緩めた。

職場に着いてからも、その余韻に浸っていた。

同僚たちに心配されたが、なんでもないと言って誤魔化しておいた。

昼休みになり、食堂へ向かう途中で、例のイケメン青年と出会った。

彼は私に気がつくと、笑顔を浮かべて近づいてきた。

そして、いきなり手を握ってきたのだ。

びっくりして固まっているうちに、そのまま連れて行かれてしまった。

人気のない場所まで来ると、ようやく解放された。

ほっと胸を撫で下ろす暇もなく、今度は抱きしめられてしまう。

パニックに陥りながらも、必死に抵抗しようとするが、力が入らない。

結局されるがままになってしまった。

しばらくして解放されると、その場に座り込んでしまった。

そんな私を見下ろしながら、彼が言う。

その言葉を聞いた途端、背筋がぞくりとした。

恐怖のあまり身体が震え出すのが分かる。

だが、逃げ出すこともできないまま、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

その時、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。

そちらに目を向けると、そこにいたのは上司だった。

助かったと思い、慌てて立ち上がり、頭を下げる。

そうすると、上司は私の肩に手を置いて、優しく声をかけてくれた。

その言葉に感動していると、不意に後ろから声をかけられた。

振り返ると、そこには例のイケメン青年がいた。

彼はにっこりと微笑み、こう言った。

「こんにちは、お久しぶりですね」

その言葉を聞き、一瞬思考が停止した後、すぐに思い出した。

そう、この人は以前、仕事で訪れた山奥の温泉宿で出会った人物だ。

そして、私が恋に落ちた相手でもある。

まさかこんなところで再会するとは思わなかったので、動揺を隠しきれない。

そうすると、彼は近づいてきて、私の手を取った。

そして、じっと見つめてくる。

その視線に耐えられず、顔を背けようとしたが、できなかった。

なぜなら、彼が私の顎を掴んで強引に自分の方へ向けさせたからだ。

至近距離にある彼の顔を見ていると、だんだん恥ずかしくなってくる。

頬が熱くなり、鼓動が激しくなるのを感じた。

やがて、満足したのか、彼は手を離してくれた。

「またお会いできて嬉しいです」

私は恥ずかしさのあまり、まともに顔を見ることができなかった。

そんな様子を見て、彼はクスクスと笑ったあと、耳元で囁いた。

それを聞いて、私の顔はさらに赤くなる。

「今度、二人でゆっくりお話ししませんか?」

と言われ、私は黙って頷くことしかできなかった。

それから数日後、私たちは会うことになった。

待ち合わせ場所に行くと、すでに彼が待っていた。

声をかけると、こちらを振り向いて笑顔を見せてくれる。

それだけで幸せな気分になった。

それから、私たちはカフェに入ってお茶することにした。

最初は緊張していたが、次第に打ち解けていき、楽しい時間を過ごすことができた。

「あの、実はあなたに伝えたいことがあるんです」

突然そんなことを言われて、私はドキッとした。

なんだろうと思って身構えていると、彼は真剣な表情になって話し始めた。

その内容を聞いて、私は言葉を失った。

なんと、彼は私と付き合いたいと言うのだ。

しかも、結婚を前提に、というおまけ付きである。

あまりのことに頭が真っ白になる。

混乱しながらも、なんとか言葉を絞り出した。

「えっと、それはどういう意味でしょうか……?」

恐る恐る尋ねると、彼は少し困ったような顔をした。

「言葉通りの意味ですよ。僕はあなたのことを愛しているんです」

私はしばらく黙り込んでいたが、意を決して答えた。

「ごめんなさい、今は誰ともお付き合いするつもりはありません」

そう言うと、彼は残念そうな顔をしたが、それ以上食い下がることはなかった。

その後、しばらくは沈黙が続いたが、やがて彼が口を開いた。

「……そうですか、分かりました」

それだけ言うと、席を立つ。

私はホッとした反面、寂しさを感じていた。

もう少し話していたかったなと思いつつも、引き留めることはできなかった。

仕方なく会計を済ませた後、店を出ることにした。

外に出ると、外はすっかり暗くなっていた。

街灯に照らされた道を一人で歩くのは少し心細い気分だったが、

仕方がないことだと自分に言い聞かせることにする。

しばらく歩いていくと、後ろから声をかけられた。

振り向くと、そこにいたのは例のイケメン青年だった。

どうやら私を追いかけてきたようだ。

彼は私を見るなり、にっこりと微笑みかけてくれたが、私は複雑な気分だった。

なぜ彼がここにいるのだろうかと思い、思わず首を傾げてしまったほどだ。

しかし、そんなことはお構いなしに、彼は私に近づき、手を握ってきた。

私は慌てて彼の手を振り払うと、距離を取った。

それでも尚、彼は私の手を握り続け、離してくれなかった。

仕方なく諦めた私が抵抗を諦めると、嬉しそうに笑みを浮かべていた。

そのまま喫茶店へと連れて行かれたのだが、その間も彼はずっと手を握って離さなかった。

店に着くまでの間、私達は一言も会話をしなかったが、なぜか気まずい感じはなかった。

むしろ、心地よかったと言ってもいいくらいだ、 席に着くと、早速注文をする。

店員が来て飲み物を用意すると、ようやく一息つくことができた。

その間も、彼は私の手を離さなかったため、私は困惑していた。

どうしてこんなことをするんだろうと思いつつも、されるがままになっていた。

それからしばらくして、彼は手を離してくれたのだが、結局食事が終わるまでずっと握られたままだった。

食事が終わり店を出ると、次はどこへ行こうかという話になった。

彼の行きたい場所について行ったのだが、どれもこれも私好みの場所ばかりだった。

彼は私のことをよく知っているんだと思った。

それほどまでに、私のことを観察していたのだろうか?

だとしたら怖いが、それにしては随分と優しい気がするし……と思っていたのだが、

目的地に着いてそれが間違いだと気づく。

彼が選んだのは、いわゆるデートスポットと呼ばれる場所だったのだ。

それも、かなりの高級なところだ。

そういった場所は私には無縁だったので、初めて訪れることになる。

それなのに、彼は当たり前のように入っていくものだから驚いたものだ。

さらに驚いたのは、彼が予約していた席だった。

そこは最上階にあるスイートルームだったのだ。

それも、貸し切り状態である。

あまりの贅沢さに眩暈がしそうだったが、彼の好意を無下にもできず、渋々付いていくことにした。

席に着き、一息ついたところで、彼が話しかけてきた。

「実は今日、君に伝えたいことがあったんだよね」

と言いながら、彼は鞄の中から小さな箱を取り出した。

そして、ゆっくりとそれを開ける。

中から現れたのは、指輪だった。

シンプルなデザインのシルバーリングだ。

それを見て、私は感動したと同時に混乱してしまった。

どういうことなのかと尋ねると、彼は照れ臭そうに微笑んだ後、ゆっくりと説明を始めた。

曰く、その指輪は私への婚約指輪であるという。

結婚を前提に交際して欲しいと言ってきたのだ。

そんなことを言われて、私は断ろうと思っていたものの、

彼の真摯な態度に惹かれてしまい、思わず受け入れてしまったのである。

「嬉しいよ、ありがとう」

彼はそう言って、私の手を取り、薬指に指輪をはめてくれた。

その瞬間、胸の奥が熱くなるのを感じた。幸せだと感じた瞬間だった。

こうして私たちは恋人同士になったのである。

「せっかく此処へ来ているんだし、何か頼むかい?」

「はい、いただきます」

彼は店員を呼び、注文をしてくれた。

しばらくすると、飲み物と軽食が運ばれてくる。

それを食べながら、私達は談笑していた。

「それにしても、まさかこんなことになるなんて思いませんでしたよ」

私がそう言うと、彼も同意するように頷いた。

それからしばらく話をした後、そろそろ帰ろうということになり、店を出たところで別れた。

帰り際、ふと振り返ると、彼が手を振っているのが見えたので、私も手を振り返したのだった。

「ただいまー」

家に帰ると、母が出迎えてくれた。

そして、心配そうな顔で私に尋ねる。

何かあったのかと尋ねられたので、正直に話すことにした。

そうすると、母はホッとしたような表情を浮かべて言った。

「まあ、良かったじゃない! 素敵な相手が見つかったみたいで!」

そう言って喜ぶ母を見て、私も嬉しくなった。

これで安心して眠ることができるだろう。

そう思いながら、私は自分の部屋へと向かった。

ベッドに横になり目を閉じると、自然と眠気がやってきたので、そのまま眠りについたのだった。

翌朝目が覚めると、私は枕元に置かれていたスマホを手に取った。

そうすると、一件のメールが届いていることに気がつく。

送り主は彼からだ。

一体何だろうと不思議に思いながら、内容を確認すると、そこには信じられないことが書かれていた。

なんと、昨日の告白は全て噓だったというのである。

私を陥れようとしていたことが発覚し、一気に目が覚めた気がした。

ショックのあまり呆然と立ち尽くしていると、今度は着信が入ったため、急いで出ることにする。

相手はやはり例の青年だった。

怒りに任せて怒鳴りつけようとしたが、何とか堪えることに成功した。

「もしもし?」

努めて冷静に返事をすると、向こうから返ってきた声は意外にも謝罪の言葉だった。

拍子抜けして黙っていると、続けてこう言ってきた。

要約すると、最初から付き合うつもりなどなく、ただ弄んでやろうと思っただけだということだった。

要するに、騙されたのだ私は……。

そう考えると無性に腹が立ってきたが、同時に自分が恥ずかしく思えてきた。

そんな私の心中を察したのか、相手が口を開く。

「……騙すつもりはなかったんだけど、結果的にそうなっちゃってごめん」

彼は本当に申し訳なさそうな声で謝ってくれたので、怒る気も失せてしまった。

そこで私は彼に一つ提案をした。

「あの、もしよろしければ、私とお友達になってくれませんか?」

そう言うと、電話越しに戸惑う様子が伝わってきたが、やがて承諾してくれることになった。

それからというもの、私達は頻繁に連絡を取り合うようになったのである。

最初はぎこちなかったものの、だんだんと打ち解けていき、

お互いの身の上話などをしていくうちに意気投合するようになったのだ。

彼とは色々な話をしてきたが、中でも一番面白かったのは中学時代の話だろうか。

なんでも彼は学校中の女子からモテモテだったらしいのだが、

本人は全く相手にしていなかったというのだから驚きである。

それどころか鬱陶しいとすら思っていたらしい。

そのため、誰とも付き合わなかったのだそうだ。

今考えると勿体ない話だとは思うが、本人からすれば余計なお世話だったのかもしれない。

また、それ以外にも色々と教えてもらったことがある。

例えば、趣味は料理だとか、スポーツ観戦が好きだとか、

好きな音楽は洋楽ばかりだとか、そういう些細な事ばかりだが私にとってはとても新鮮で楽しい時間だったと思う。

そんなある日のことだった。

突然彼から呼び出しを受けたので行ってみることにした。

待ち合わせ場所に到着すると、すでに彼が待っていた。

こちらに気がつくと駆け寄ってきて挨拶をしてくれる。

そんな彼に向かって、私は笑顔で挨拶を返した。

そして、そのまま並んで歩き出す。

どこに行くのかと尋ねてみると、内緒だと言われた。

一体どこへ行くのだろうかとワクワクしながら付いて行くと、到着したのは大きな公園だった。

そこにあるベンチに座り、二人でお喋りをすることにした。

彼はいつになく真剣な面持ちで語り始めた。

「あのさ、ちょっと大事な話があるんだけど聞いてくれるかな?」

何だろうと思いながらも頷いて見せると、彼は大きく深呼吸をしてから話し始めた。

その様子を見る限りでは余程重要なことなのだろうと思われた。

緊張しながらも待っていると、ついに本題に入ったようだ。

彼は真っ直ぐにこちらを見つめてきたかと思うと、静かに口を開いた。

その言葉に耳を疑ったが、聞き間違いではないようだった。

それでも信じられずに聞き返すと、もう一度同じ台詞を繰り返したのである。

(どうしてこんなことに……?)

心の中で呟くと涙が頬を伝っていくのが分かった。

だが、拭うこともできないまま嗚咽を漏らしていると、不意に抱き締められたような感覚があった。

驚いて顔を上げると、目の前に彼の顔があり、キスをされていることに気づく。

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