金沙後宮の千夜一夜 砂漠の姫は謎と踊る
干野ワニ/角川文庫 キャラクター文芸
前夜 砂かぶり姫、後宮へゆく①
──これは、
ファリンは
ここは謁見の
大陸の中央に広がる砂漠地帯。その全域を擁するバームダード帝国を治める皇帝は、身の丈六尺五寸(二メートル近く)の偉丈夫である。ひとたび戦となれば自ら敵将の首を狩り、常に返り血にまみれた若き覇王を、人々は
一方で
内小姓とは、謁見の間や皇帝の私室などがある『
そんな内小姓たちを導く長たる内小姓頭は、
──いつも威厳に満ちた皇帝陛下が、こんな風にくつろぐこともあるなんて!
その理由は、深く考えるまでもない。きっと今ここが、唯一心許せる相手と二人きりの場所だから……。かつて何度も妄想した
ファリンは優美にひだを描く薄絹の陰にうずくまったまま、二人の姿を少しでも鮮明に脳裏へ焼きつけようと重なった布地の隙間から凝視した。やがて斜めに伸ばした首の痛みが、限界に達した頃。ファリンはようやく満ち足りて、きしむ身体をゆっくりと起こした。乾いた
──今回の取材は、もう充分かな。何より、とっても良いものが見られたし!
ニマニマとゆるむ頰に手を当てて、ほうっ、とため息をついた瞬間──深すぎた吐息が、薄い
「誰だ!?」
ファリンは逃げることも忘れて、
──推しが
今さら強い後悔が押し寄せて、ざぁっと血の気が引いてゆく。瞬時に駆け寄ってきたサイードが目の前の帳を
「いっ!」
思わず苦痛の声を上げたが、サイードは構わず問いかける。
「そのお仕着せは内小姓だな!? 所属と名を言え!」
見上げた先には
「ぼぼ、僕は、第二妃マハスティ様付で、名はアフシンと申します!」
「第二妃の? 見覚えの無い顔だが……
怒りに満ちた声が響き、捻り上げる手に一層の力が込められる。この様子では、どうあがいても言い逃れはできそうにない。ならばあまり粘っては、いつも取材に協力してくれるマハスティにも迷惑をかけてしまうだろう。ファリンは観念すると、本当の名と身分を明かすことにした。
「私はロシャナク族のアーファリーン。偉大なる皇帝陛下、第十六の妃にございます。本当に、申し訳ございませんでしたーっ!!」
アーファリーンことファリンは手首をつかみ上げられたまま、精一杯頭を下げる。すると手首は変わらずガッシリ拘束されたままだが、捻る方の力がわずかに緩んだ。
「お前……いや、
「アーファリーンという名には、余も聞き覚えがある。だが、かの第十六妃は顔を覆わんばかりの豊かな黒髪だった気がするが」
奥でくつろいだ姿のまま
だが
「お前っ、やはり偽物かッ!」
「お、お待ちください! 私は本当にアーファリーンで、黒髪の方がカツラなんです!」
「仮に本当に妃本人だとしても、わざわざ外見を偽るなどと……初めから、
「ちっ、違います! あのカツラには、事情があるんです……」
こうして弁明を始めたファリンは、
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