星川学園へようこそ!
雄哉
入学式前日 1
私、七川音美は、胸の赤いリボンをきゅっとむすんだ。鏡の前に立って、自分の姿を見る。青色のブレザーにスカート。明日から通う星川学園中等部の制服。
よし、どこも乱れてない。
私は本棚の上の、妹の写真のところにむかった。
「じゃーん、明日から中学生だよ」
笑顔の妹の前に、制服姿の私は立った。背中も見えるように、ひらりと体をひとまわりさせる。
入学式は明日だけど、早くこの姿を見せたかった。
写真の中の妹は、ツインテールの髪型に白いワンピースを着て、ほっぺを赤くして笑っている。両手で大事そうに持っているのは、金色にかがやくフルート。この子が初めて音を出せたときの写真だ。
でも、今日はいつも以上に笑顔がまぶしい。
「制服、にあってるかな? 中学生になった私を見てみたいって、言ってたよね」
私は写真の妹に問いかける。うん、と言ってくれている気がした。
写真の妹の名前は、七川律歌。みんな、りっかちゃんとよんでいた。笑顔がかわいくて、音楽が好きだった子。フルートを習っていた私を応援してくれて、よく好きな曲を演奏してほしいとせがんできた。
たった8歳でいなくなった。
私の11歳の誕生日に。
その日、お父さんは誕生日プレゼントに新しいフルートをくれることになっていた。車でりっかちゃんといっしょに、楽器屋さんにフルートを受け取りに行っていて、その帰りに事故に巻きこまれた。
だから今の私の家族は、お母さんと私のふたりだけ。
「私、中学でもがんばるよ。たくさん友だち作って、すてきな恋人も見つけるんだ」
私は写真のりっかちゃんに語りかける。
「りっかちゃん、言ってたよね。姉さんだったらすてきな恋人できるよって。そうなったら会ってみたいって、3人でたくさんおしゃべりするんだって」
とにかく、いっしょにいると笑顔になれる子だった。りっかちゃんがいれば全部うまくいく気がした。私にとって楽しいことが、そのままりっかちゃんの楽しいことで、りっかちゃんにとって楽しいことが、私にとって楽しいことだった。
だから、中学生活も全力で楽しむんだ。
「それに、いつかまたフルートきかせたいな。そうしたら、またほめてくれるかな」
ぜったい、ほめてくれるはずだ。
「……本当は吹奏楽部に入って、立派なホールで演奏聞かせてあげたかったんだけどね」
そのときだった。
「音美、来なさい」
下の階にいるお母さん――七川めぐみっていうの――に呼ばれた。
「はーい」
私は返事をする。「じゃあね」と写真のりっかちゃんに言って、私は階段を下りていった。
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