第27話 体育祭と切ない真実 ケンメイシャ(懸命者)

 今日は体育祭が開催されている。プログラムは順調に進み三学年のクラス対抗リレーの順番が来た。入場門にクラス別に整列している。


 行進曲が鳴ると歩き出しクラスは二手に別れて進み所定の位置につく。そして先頭走者と二番走者が位置につく。チトセのクラスはリンネが先頭走者だ。


 スターターが台に乗りスターターピストルを上空に向け構える。先頭走者たちもスタートへ向け一斉に構える。そして号砲が鳴り一斉にスタートする。


 リンネがスタートダッシュを決め後続を引き離す。そして1位でバトンを繋ぐ。その後も1位をキープする。しかし、中盤になり徐々に順位は落ちていき4位だ。そして終盤に入り更に順位を一つ落とす。各クラス残り3人での争いとなる。


 ミレにバトンが渡る。運動神経抜群の彼女はドンドン追い抜いていき順位をあげる。1位とほぼ同着の2位でバトンとチアキに繋ぐ。キズナのクラスは3位でコガレバトンを繋ぐ。


 一方のチアキは一位から徐々に離されていく。コガレが彼女を抜き去る。そして一位を猛追し抜き去り、だいぶ差をつけてトップでバトンを繋ぐ。チアキはもう一つ順位を落とす。


「さぁ、チトセはせてくれるのかしらね」


 そう言うとコガレは去って行き待機するクラスの最後尾に座る。チアキは後5メートルの所まで来た。しかし、足がもつれ転倒する。そして後続の3人に抜かれていく。


 チアキは立ち上がり足を引きずりながらチトセへと向かう。チトセは彼女へと駆け寄る。すると彼女が彼にバトンを伸ばす。


「ごめん、チトセ君」


 そう彼女が言った後、バトンが最下位の6位でチトセに繋がる。アンカーはグラントを一周走る。


 チトセは快足を飛ばす。そして残り半周で三人を抜き去り3位に浮上する。そして残り1/4周で一人抜く、チトセがトップの教室から眺めていたあの男子生徒を猛追する。残り5メートル。遂に捉えそうだ。


 ――貴方が体育祭のヒーローだ


 そうチトセは心の中で呟く。ゴール手前2メートルでチトセは彼を抜き去り1着でゴールテープを切る。彼はしばらく走って止まる。


 彼は両手を膝につき前屈みになる。その彼の呼吸は荒い。彼は呼吸を整える。落ち着いてきたので彼は振り向く。チアキを探すが見つからない。すると、あの男子生徒を中心に輪ができて彼をたたえている。


 呼吸の整った彼は腰を起こし背筋を伸ばす。そしてその様子を眺めている。その光景に思わず笑みが漏れる。


 そうしていると彼の周りにも輪ができる。クラスメイトが手を握ったり腕を触ったりして彼を称えてくれる。しばらくして皆はテントへと戻っていく。彼も後に続く。彼は歩きながら充実感で満たされていく。


「これが」

「青春ってヤツだ! チトセッ」


 そう言われ背中を思っきり叩かれる。横を見るとミレが彼を見上げで微笑んでいる。


「あっ、ミレさん」


「ミレと呼んでくれ! チトセ」


「あっ、ミレ」


「よくやったぞ」


「あっ、どうも」


「私が見込んだだけはあったな」


「そうでしたっけ?」


「そうだよ」


「でしたか」


「ほらっ、チアキもなんか声掛けてあげなよ」


 ミレの背中に隠れていたチアキが姿を見せる。彼女は俯いている。


「顔上げなよ、チアキ。私たちのクラスは一位なんんだからっ」


 そう促された彼は顔をあげる。彼女の目は充血している。転んでしまって最下位でバトンを繋いだ申し訳なさからだ。彼は彼女が膝をりむいているのに気が付く。


「ごめん、チトセ君。転んじゃって」


「たとえ何位でバトンを受け取っても一位になるつもりでしたから」


「あっ……うん」


「だから、気に病むことはないですよ」


「ありがとう、チトセ君。走ってる姿、とってもカッコよかったよ。じゃあ、行くね」


 そう言うと彼女は頬を染めた。そして背を向けて小走りで去って行く。


「チトセ〜ッ」


「なっ、何です?」


「チトセ以外なら惚れてたなぁ。じゃあな、チトセ〜ッ。ちょっとぉ! チアキ。怪我してるんだから走らないのっ」


 そう言うと彼女はチアキの元へと走っていく。そしてチアキを止めて肩を貸す。彼も歩いてその後に続く。


「チトセ! チトセ!! チトセ〜ッ!!!」


 その大声に会場の注目が集まる。カコだ。彼女は応援に来てくれていたのだ。彼女はチトセへと向けて大きく手を振っている。彼は軽く手を上げるとすぐに引っ込める。すると、彼女が胸の前で両手でガッツポーズを決める。


 彼はお礼を兼ねて軽く会釈する。すると彼女は再び大きく手を振る。周囲からの視線が痛い彼は足早にテントへと戻る。





 あれから数日後、彼は雑居ビルの事務所のソファに座っている。カントクシャに要請していた結の母親についての報告を彼からうかがう為だ。


「話をしてもいいかい? チトセ」


「はい! お願い致します」


「では始めよう。結論から言うと、すでに彼女の母親は転魂(転生)している」


「あっ……そうですか」


「今から、それにいたるまでの経緯けいいを説明するよ。心の準備はいいかい?」


「……はい」


「母親はお見舞いで病院に向かう途中で交通事故に遭ったんだよ。その病院は総合病院で彼女たちの実家からは随分と離れた所に位置していたんだ。その4日後、結ちゃんは容態が急変し、そこで亡くなった。それは医師ですら予期せぬことだったそうだよ」


「えっ……そんなことが……」


「続けさせてもらうよ。彼女の母親は集中治療室に運ばれて4ヶ月後にこの世を去った。大丈夫かい? チトセ」


「……あっ、はい」


「母親は娘の死を知らない。それで転院したと思ったんだ。それで彼女は近くの総合病院を訪ねた。次はその近くといった感じにね。次第に範囲を広げ全国の総合病院を訪れ彷徨い続けホウコウシャとなった。理解出来てるかい?」


「……はい」


「つまり、結ちゃんは実家を探し続け彷徨い、母親は娘が転院したに違いないと総合病院を探し彷徨い続けたんだ。二人はすれ違いだったんだよ。それでも、何十年も二人は互いを求めあっていたんだ。母親は四年前に境界門を潜り転魂した。彼女は信じたくはなかったが娘は死んでしまったのだろうと。これが私が調査した全てだ」


「そんな……」


「私も胸が痛かったよ、チトセ。大丈夫かい?」


「あっ……はい」


 しばらく放心した後、彼はカントクシャに礼を述べ事務所を後にした。





 彼は自宅に戻ってきた。結がテーブルで漢字の勉強に励んでいる。彼に気付くと無邪気な笑顔を浮かべる。彼は胸が痛いが気取られないように微笑んだ。

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