第24話 狐のお面の君 カクニンシャ(確認者)
祭りの当日、チトセは待ち合わせ場所から少し離れた所にいる。彼の
あの日以来、チアキは露骨に彼を避けている。そんな彼にとっては
一方、頼みの綱として淡い期待をしていたカコはメッセージの一つすら
彼は二人が自分を
「兄上!」
そんな敬称で呼ぶのは一人しかいない。一応、彼は振り向く。キズナが立っている。その横に予想だにしなかったモノがいる。リンネだ。
「なんでいるんだよ?」
「いやぁ〜、僕も初めは理由が分からなかったよ。だから最初は断っていたんだけど熱心に何度も誘ってくれるから根負けしたよ。ツンデレってやつだよ。本当は僕と友人になりたくて仕方なかったんだけど痩せ我慢してたのさ」
「本当かっ! キズナ」
「えっ……まぁ、そんな所ですかね」
「気でも触れたのか? あんなに嫌ってたのにか!」
「私は正気です」
キズナは勝手に気を利かせたのだ。あるモノをチトセから遠ざける為だ。ある人の為に一肌脱ぎたいと思っている。最近、親しくさせてもらっているので有頂天気味なのである。
あれこれ対策を彼が考えているとそのモノが彼らの方へと優雅に歩いてくる。その姿に通行人の中には惚れ惚れしたり振り返る者が多数見られる。その注目の的はコガレだ。
「あ待たせぇ〜、チトセ」
「待ってねぇぞ」
そう彼女が言うとチトセの背中に隠れていたユイが顔を出す。彼女はキズナたちと初対面だったので人見知りしていたのだ。
「コガレだ」
「あらっ、おチビちゃん」
「おチビちゃんじゃない! ユイだよ」
「あっ、そうだったわね、おチビちゃん」
「ユイって言ってるでしょ! コガレ」
「コガレ、止めてあげろよ」
「チトセが言うならそうしま〜す」
「なんでいるんだよ」
「あらっ、祭りがあるからに決まってるじゃないの」
「どうして俺達がここにいるのを知って知ってるんだよ。まさか! キズナ、お前か」
「違いますよ。こんな邪魔者に……失礼致しました。コガレ殿に教えるわけないじゃないてすか」
「邪魔者って何よっ!」
「そんなことは言っておりません」
「言ったじゃない。聞いたでしょ? チトセ」
「うん、うん。分かった、分かったら落ち着いてくれ」
「仕方ないわね」
「じゃあ、誰からなんだ?」
「あっ、こっちこっち」
そう言うと彼女が手を振る。その方向を見るとミレとカコが歩いてくる。彼はチアキが二人から離れて歩いてくるのに気付く。
「チトセ同学生、どうして待ち合わせ場所にいないのよ?」
「まだ時間があったので」
「今さっき、私たちは着いたところだけど。偶然、気付いたからいいけどね」
「あらっ、ミレさん」
「あっ! コガレさんも来てたんですね」
「奇遇だわ」
そう言った彼女がミレに目配せしたのをチトセは見逃さなかった。そういうことかと理解する。ミレとカコだけでなくコガレも企みに一枚噛んでいるんだと気が滅入る。
「チトセ同学生?」
「なつ、何ですか?」
「少し話があるので、ちょっと付いてきてくれません?」
「ここではダメなんでしょうか?」
「ちょっと」
「わっ、分かりました」
「兄上、私もお供します」
「絶対に付いて来ないでくれ」
「そう兄上が仰られるのであれば」
「カコも付いてきてね」
「分かった」
ミレとカコが歩き出す。彼は重い足取りで二人の後に続く。しばらくすると立ち止まり向き直る。
「チトセ同学生?」
「見て欲しいものがある」
そう言うと彼女はスマホを取出し彼に見せる。それは彼が送った自分の浴衣姿の画像だ。
「この帯はアンタのものよね?」
「そっ、そうですが? それが何か?」
「いつから持ってるの?」
「三年前くらいですかね」
「合ってるみたい、カコ」
「そうみたいね」
「それがどうかしましたか?」
「チトセ同学生だったのかぁ」
「アナタだったのね」
「何のことですか?」
「今は知らなくていいの。すぐに分かるから。戻りましょ」
そう彼女が言うと二人はそそくさと戻っていく。さっぱり訳が分からないが彼は後に続く。そして皆が待っている所まで着く。
「今から別れて行動しましょうよ?」
そうコガレが言った。するとミレが賛同する。そうするとカコもそうする。これは示し合わせているなとチトセはすぐに気付く。そして気分が重くなる。これから、どんな仕打ちを受けるんだろうと。
急にキズナがチトセとコガレの間に割って立つ。それにコガレが気付く。明らかに不自然な動きだったのでチトセも気付いている。面倒事は勘弁してくれよなと彼は思う。
「アンタ、なぜそこに立ってるの?」
「偶然です、コガレ殿」
「本当にそうかしらね〜?」
「そっ、そうですぞ、コガレ殿」
そう言うと彼女はチトセを見る。それに彼が気付く。すると彼女は彼に目配せする。すると彼女はミレの方を見る。彼が理解できずにいると彼女は鋭い目つきで見る。そして、もう一度ミレを見る。
「じゃあ、私は誰と行動しょうかしらね。そうね〜、ミレさんのお友達、お名前は何というのかしら?」
「カコですけど」
「私と一緒に見て回らない?」
「えっ……私ですか?」
そう彼女が反応するのも仕方ない。実は彼女はコガレとは接点がないのだ。今日が初対面である。彼女はミレには示し合わせるように言われていた。だから、先程はそうしたのである。
彼女はミレを見る。しかし、ミレにとっても予想だにしないことなので驚いている。彼女はコガレとあることについては打ち合わせした。しかし、それだけなのだ。だから、どうして良いか分からないのだ。
二人がそうしているとコガレは歩き出しカコの手を取る。そして彼女は微笑む。女性のカコではあるが、彼女の美しさに
「カコさん、御一緒しましょう?」
「……あっ、はい。ぜひ」
「嬉しい。私たちは決まったわ〜。皆さんはどうするのかしら?」
そう言うと彼女は再びチトセに目配せする。そしてミレを見る。今回は彼女の意図を彼は理解し頷く。
「ミレさんはどうする?」
「えっ……私は……一人で」
「なら、私と御一緒しましょうか?」
そうチトセが言った。思いも掛けないことにミレは目が点になる。一番驚いてるのはチアキかもしれない。この間の一件はミレたちから説明を受けていた。彼が二人のことを何とも思っていないと。
「兄上、ミレさんとは私が御一緒致します」
「あっ、そうか」
「ミレさん宜しいですか?」
「あっ…………」
彼女が戸惑っているとコガレが近付き耳打ちする。事情が呑み込めたミレは頷く。
「コガレ殿!」
「何よっ!!」
「邪魔する気ですか!?」
「ハッ、何を言っているのかしら?」
「許しませんぞっ!」
「キズナ君?」
「何でしょう? ミレさん」
「一緒にお願いしてもいいですか?」
「もちろんです、ミレさん」
「あっ、ありがとう」
「とんでも御座いません」
「よしっ、これで二組目が決まったわね。」
そうコガレは言うとミレに目配せする。これは事前に二人が打ち合わせていたことだが少しだけ違う。先程、コガレが耳打ちした時にそのことを告げていた。なのでミレがカコに目配せし近付く。そしてカコに耳打ちする。そういうことかと彼女は納得する。
「ミレさん?」
「はい」
「もうすぐ
「あっ、そうですね。先に行っとこ、カコ。キズナ君も行きませんか?」
「私は兄上が」
「行って来い、キズナ。待たせるのは失礼だぞ」
「そうですね。畏まりました、兄上。それでは行って参ります」
そう言うと彼はミレたちを先導しながら去って行く。しばらくすると振り向きチトセに一礼する。チトセは追い払う手の仕草を見せる。もう二度と振り返るなよという合図のつもりだ。キズナは理解してしまう。そして、少し傷付く。
「チアキさんはどうする?」
「私は……」
「別に希望がないなら私とカコさんの三人で回りましょうよ?」
これはミレとの打ち合わせ通りではない。本来ならミレとカコ、コガレとキズナの組み合わせだった。コガレはキズナをチトセから引き剥がす役目だった。ミレがキズナのことが好きなのを知っていた彼女が気を利かせ急遽独断で変更したのだ。
それでもチトセとチアキの組み合わせは決まっていた。本来ならチトセたちを残し四人で去るはずだったのだ。彼女はチアキの彼に対する気持ちを確かめたくなったのだ。
「チアキさんはどうしたいのかしら?」
その問いかけに彼女の心は決まっている。どうしても彼女にはチトセに聞きたいことがあるのだ。
「私はチトセ君と一緒に回りたいですっ!」
「そっ、分かったわ。チトセ!!!」
「なっ、何だよ」
「アンタはどうしたいの?」
「俺は……」
「ハッキリしなさいよっ!!」
「……彼女と行きたいです」
「よしっ、これで決まりね」
そう言うと彼女は振り向く。その先には完全に
それには理由がある。彼は彼女が好きなのだ。彼が他国の将軍だった時、チトセの国の即位式に招待されたのだ。その時は両国は友好関係だった。磐座で彼女を見て心を奪われたのだ。
彼は縁談を彼女の父親に持ちかけた。しかし、断られたのだ。それもそのはず彼女の眼中にはチトセしか映っていなかったのだから。彼は思いを
「そこの人」
「
「その呼び方止めてくださらない」
「畏まりました」
「仕方ないから私たちと三人で回りましょう?」
「宜しいですが?」
「断ってくれた方がいいんだけど」
「何を仰らるのです。どこまでもお供しますよ」
「あっ、そう」
そう言うと彼女は歩き出す。慌ててリンネは後に続く。彼女がチトセの横を通過しようとする。
「感謝なさい、この私に。思い出作ってくるといいんじゃない?」
そう言って彼女は通り過ぎて行った。ゆっくりと彼は頷く。
「チトセ君、行こっか?」
彼女は背を向けて歩き出す。
「はい」
そう言うと彼は屈む。そしてユイを見る。
「行こっか? ユイ」
「うん。おんぶしてもらいたいな、ユイ」
「うん、もちろんさ」
更に彼は姿勢を低くする。ユイが彼の肩に乗ると彼は立ち上がる。そして彼はチアキを追い後ろを歩く。しばらく歩き続けていると人混みで溢れ始める。そっと彼は彼女の前に出る。そして彼は人混みを掻き分けながら常に後ろの彼女を気にする。
前の方に出た。目の前では
「お腹空いちゃた。チトセ君は?」
「あっ、そうですね」
「なんか食べようか?」
「あっ、はい」
「あっ! あそこの出店で買おうかな?」
彼女か指差す。彼は彼女の前に出る。そして歩き出す。彼の後を彼女が歩く。出店に着くと彼女かお目当ての物を買う。
「はい、どうぞ」
彼女はりんご飴を二つ差し出す。彼は戸惑う。彼女は左手にもう一本持っている。
「ふたつですか?」
「そうだよ。いっぱい食べるかなと思って。迷惑かな」
「ありがとう御座います。お幾らでした?」
「いいよ。この間のお詫びだよ。この間は本当にごめんなさいっ、チトセ君」
「気にしてませんでしたので。お気になさらずに、はい」
「良かったぁ。はい、これどうぞ」
彼女が差し出すと彼は棒の上の部分を掴み受け取る。彼女に触れないようにそうしたのだ。それがチアキには気になった。気取られてはいけないと彼女は食べ始める。
「甘くて美味しよ」
「あっ、はい」
「そう言えば、りんごの花言葉って何だろうね?」
「さぁ……」
「あっ、ううん。何でもないよっ。気にしないで食べて」
「あっ、はい」
彼も食べ始める。すると、ユイが腰を曲げ彼の顔を覗き込む。
『いいなぁ〜、お兄ちゃん』
彼はチアキに背を向ける。ソシテ精魂を込める。そしてその一本をユイに手渡す。
『やったぁ〜』
そう言うと彼女は舐め始める。彼はりんご飴について何も言えない。いや、言ってはいけないのだ。
『お兄ちゃん、甘くて美味しいね』
その言葉に彼はハッとなる。シンショクシャである彼と違いメイコンシャであるユイには味覚はないのだ。それを知ったるからこそ何も言わなかった。せっかく貰ったので小さなユイが気を遣ってるのだと思うと胸が締め付けられる。
『お兄ちゃんもそうでしょ?』
彼は頷く。そしてりんご飴を舐める。今の彼には
「チトセ君、もう一本食べたんだね」
「あっ、はい」
「棒はどうしたの?」
「あっ……そのう……あっ! 浴衣の袖に入れたんです」
「行儀がよくないかな?」
「すみません」
「あっ、ううん。そう言う理由があったんだよね?」
「えっ……」
「あっ……ううん、気にしないで」
「あっ、はい」
「歩こうか?」
「はい」
「あっちの方へ行こっか?」
彼女が指差す。すると彼は歩き出す。彼女は彼の後に続く。あれからずっと彼は変な奴だと思われたんじゃないかと気になりながら前へ進んでいる。人混みから離れた所に来た。ふと後ろを歩く彼女を気にかけてなかったと振り向く。
「おっ!」
「びっくりさせちゃったね?」
彼が驚いたのは彼女が狐のお面を被っているからだ。買ったことに全く気付かなかった。それほど自分は物思いにふけていたんだと彼は気付かされる。
「それを買ったんですね?」
「買う時、声掛けようと思ったんだけど悪いかなって邪魔しちゃ。すぐに買って追いかけたの! リレーの練習になるかなって」
そう言うと彼女は彼の頭上を見上げる。そして彼女の顔から笑みが溢れる。一点を見つめる表情に彼はハッとさせられる。そして見入ってしまう。
『お兄ちゃん?』
我に返り見上げる。
『ユイ、一人で遊びに行ってくるね?』
「どうして?」
思わず彼から声が漏れる。そのことに彼は気付いてない。
『神社を探検したくなっちゃた。行ってもいい?』
「あぁっ、行っといで」
そう彼が言うとユイは精魂に戻る。そして、浮遊しながら前進していく。しばらく彼は目で追う。
「それは独り言なのかな?」
「あっ……そっ、そうです。すみません」
「ううん、私気にしてないよ。むしろ新鮮だった。そんなチトセ君が見れて」
「あっ、そうですか……」
「チトセ君の頭上で流れ星が見えたし」
「あっ、そうでしたか」
「うん、可愛い流れ星だった」
「可愛い流れ星ですか」
「うん、私にはそう見えた」
「あっ、そうなんですね」
「そうっ」
そう彼女は言うとお面を脱ぎチトセにかぶせる。何が何だか分からないが受け入れた。というよりも体が動かなったの方が正しいのかもしれない。
「チトセ君っ!」
「……はい」
「2年前、高校一年の時のこのお祭りで私とミレとカコの前を歩いて私たちの道を作ってくれて変な人に絡まれそうになった時に助けてくれてのはチトセ君だよね?」
「…………人違いだと思いますよ」
「違わないよっ」
そう言うと彼女はスマホを取出し操作する。そして画面を彼に見せる。そこには浴衣姿の男性の後ろ姿が写っている。
「気になって撮ったのっ。ほらっ、この帯。チトセ君が今してるのと同じだよね?」
「…………市販の物なので他の人も持ってると思いますよ」
「チトセ君ならそう言うかなと思った。チトセ君?」
「よく見てっ! この人、不鮮明だけど小指に
「うざきのキャラクターの絆創膏なんてどこにでも売ってますよ」
「どうしてこれがうざきのキャラクターの絆創膏だって言い切れるの? 不鮮明なのに。絶対に私があげたやつだよっ!」
「…………」
「チトセ君だよね!」
「あっ、はい」
「前の日の放課後、チトセ君が指切った時は受け取っただけでしてくれなかったけど、してくれていたんだね?」
「あっ、はい」
「キャラクターものだから嫌だったのかと思ってたんだ」
「全くそんなことは」
「よかった」
「あっ、はい」
「チトセ君?」
「あっ、はい」
「あの時、私がお礼を言おうと引き留めようと強く掴んでチトセ君が走り去って行った時に破れた浴衣の袖を明日にでも返すね。いつか返そうって持っていたんだ。キズナ君からまだ持ってるって聞いたよっ」
「えっ……」
その彼の言葉に彼女は気まずさとともに気恥ずかしくなる。しかし彼女にはどうしても確かめたいことがある。なのでそれを捨て去り強行突破するとキメる。
「返すね!」
「あっ、はい」
「チトセ君?」
「あっ、はい」
「私たち三人の間では狐のお面の君って呼んでたんだよ」
「あっ……そうなんですね」
「チトセ君!」
「……はい」
「どうして私たちにそうしてくれたんですが?」
「あっ……それは
「えっ……」
それしか言えず彼女は俯く。それは彼女の期待していた言葉以上だったからだ。
「お気に触る言い方でしたか?」
「ううん。そんなことないよ」
彼女は俯いたまま答える。それが彼には気になって仕方がない。何が悪かったのだろうかと。彼は気付いてない。貴女と言ったことにだ。彼は貴女達と言ったつもりでいる。つい本心が出てしまったのだ。
彼女は、それがたとえ言い間違えだったとしても嬉しかったのだ。それを気取られてはいけないと俯いているのである。それでも構わないと彼女はゆっくりと顔を上げる。
「助けてくれてありがとう。そろそろ集合場所に戻ろっか?」
そう言った彼女は頬を染め微笑む。その表情に彼は心を奪われる。二人の目が合う。気恥ずかしくなった彼女は彼のお面を取りかぶる。
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