18の瞬間をキミに~チアキとチアキ~

涼風雫

第1話 チトセ ボウカンシャ(傍観者)

 彼の日課は教室で右斜め前に座っている彼女を数秒間だけ眺めることだ。過度に彼女に干渉することはない。


 彼の名前はチトセで、彼女の名前はチアキだ。彼らは高校生だ。


 彼らは会話を交わしたことはない。といえば、語弊があるのかもしれない。彼女から挨拶や事務的な言葉を交わす以外ということだ。


 彼からは決して喋りかけることはない。それは彼が彼女を嫌悪しているという意味ではないのだ。彼は休憩時間や昼食時や移動教室時、放課後に無意識に彼女を目で追っている。


 己に課したルールで禁じている。破ってしまえば、もう二度と彼女と会えなくなってしまう気がするからだ。ただただ彼は、それをずっと守り続けている。そうなりたくない一心で。


 彼は移動教室や体育の授業、手洗い以外は椅子から離れることなく過ごしている。


 彼には友人と呼べるような人間は、この世のどこにも存在しない。そういう場合はイジメられていると思われがちだが、決してそういう訳ではない。顔立ちは中性的で高身長だ。成績も上位層である。


 クラスメートに壁を作り拒絶する事はない。喋りかけられたら気さく受け答えする。なので、男女両方からの評判は悪くはない。


 入学当初は女生徒から人気があったが、二つの理由であっという間に急落していった。彼は、憧れの対象だった事にすら気づいてない。というか、あるモノを除いて興味が全くないのだ。


 ホームルームの時間、高度が落ちてきた太陽の光が彼女に当たり、彼女の黒髪を赤みがかった茶色に変える時が稀にある。その彼女の横顔は憂いを帯びてるように見え、ハッとさせらせる。この時ばかりは、彼が己に課した数秒ルールは破られる。


 ホームルームが終わると、校門を出て、彼女とえて真逆の方へと歩き出す。



 夕暮れ、彼はあるモノを廃工場まで追い詰めた。それと対峙する。


「お縄についてもらいますよ。いい加減、もう終わりにしましょう」


 そう言い放った彼は、攻防の末にそのモノを確保した。といっても彼の一方的だった。彼の目の前には男性が倒れている。彼は男性の生存を確認する。どうやら無事のようだ。


「遅れました! すみません!!」


「かまわないよ。今、終わったとこさ」


「以後、気をつけます!!!」


「ああっ、彼を頼むよ」


「はっ!!!」


 チアキは相棒、いや腐れ縁の男にそう言うと現場を後にする。

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