第四十五話 『聖騎士の帰還』
オルキッソの作った転移の水鏡を潜ると浮遊感と耳鳴りがする、
ようやく通り抜けた先で頭がグラグラと揺れるような違和感を感じてふらつきそうになるが先に出ていたイグニに受け止められる。
「気持ち悪い……」
「吾も初体験でしたが、脚がふらつきますな……」
「慣れなさい、私もこれは初めてなんだから……」
「初めてであんなこと出来るの?すごい……」
オルキッソが出てくるのと同時に水鏡が霧散して消えたが、オルキッソも気分悪そうにしていたのを見ると僕よりも重く見えた。
オルキッソの背中を撫でながら何とか癒せないかなと思っていたら突然身体から力が抜けるような感覚に襲われる。
同時に視界が揺れて身体が重くなり気持ち悪くなってるとオルキッソに支えられる。
「カリス、あなた何をしたの?」
「カリス殿?」
オルキッソの顔は先程とは違って血色も良く、体調不良になってたのが嘘のようだ。
イグニも突然崩れ落ちた僕を心配して近づく。
「な、んとか癒せないかなと思いながら撫でてたら突然力抜けて……」
「……癒しの手」
「んむ?」
オルキッソは呟いて考えて、紡ぐ。
「聖騎士の力には様々な物があるとは聞いてる、癒しの手は人を癒し、救う為の力を持つと。」
「癒しの手……」
オルキッソの言葉を口の中で呟く。
「素養もあるだろうけど、心当たりは?」
「心当たり?」
「例えば誰かの病気を治したとか軽くしたとか」
そんな力があると分かったのは今だけど、心当たりと言われ過去の事を思い浮かべる。
「10年程前におじいさんの背中を撫でてたら軽くなった、というのなら?」
10年ほど前にあの吟遊詩人さんおじいさん、老吟遊詩人さんがうずくまり苦しんでる所に出会ってしまい何とかしたくて声をあげながら背中をさすっていたのを覚えている。
その際にも似たような疲労感が起こり、倒れそうになったけど老吟遊詩人さんの様子は良くなったが、逆に介抱されてしまっていたのを思い出してしまい恥ずかしくなる。
「……確定ね、これ」
「兎も角、カリス殿を休ませるために街へと行きませんかな?」
「……そうね、掴まってなさいカリス。」
「え、うわっ」
ヒョイとオルキッソに軽く抱き抱えられて動けなくなる。
オルキッソの顔にはもう疲労の色は見えない。
「あの、自分で歩けるよ?」
「倒れそうなんだから、甘えておきなさい。」
「せ、せめて横抱きだけは」
女の人に横抱きでされるのは小さな子供扱いのように思えて恥ずかしくて抵抗しようとする。
だが脱力感が大きくて、抵抗虚しくそのまま連行される。
明け方の朝の光を受けた門の前には衛兵さんが佇んでいる。
衛兵さんの目は訝しげに僕を見ているのに気づいた。
「お、降ろしてくれない?あの衛兵さんが、ものすごく訝しんでるよ?あの?」
「お帰りなさいませ、貴方の言う通りあの者は捕縛しましたが……」
抗議の言葉は衛兵さんによって遮られる。
おそらくここを発つ前にオルキッソが言っていた事を実行したのだろう。
「そう、なら後はギルドに任せるわ。報告があるから通るわよ」
「ええ、構いませんが……ダークエルフを何故連れておられるので?いや、彼らは日光の下に出てこられないはずですが。」
訝しげに僕を見る目は警戒をしているようだ。
「私の恩人でもある仲間だけど悪いの?」
それに対してオルキッソは強気に上から目線で対応する。
「い、いえ、ですがダークエルフは非常に狡猾で危険な種族だと言われております、ただでさえ最近魔物が活発化してると言うのに、それだけで通すにはあまりにも。」
慌てて一般人のダークエルフに対する一般的な共通認識を口にする。
オルシアとここに来るまでの道のりでも魔物と出会う確率は高かったのを思い出せば警戒するのは当然だろう。
衛兵さんは困ったようにしながらも僕をチラチラと見やる。
なんか居心地悪い。
「本当に邪悪ならばこのようにされてる筈がないでしょうや、吾々が保証しますぞ。」
それに対してイグニは援護するように紡ぐ。
ずい、と竜人特有の厳つい顔を近づけられた衛兵さんは後ずさる。
「通してやれ」
どうしようと悩んでいると声が聞こえた、そちらの方を見れば小さな扉から出てきた衛兵隊長さんが手紙を持って佇んでいた。
「隊長、ですが」
「彼の身元は村の領主のワイズ氏によって保証されている。通しても問題ない。」
手に持っていた手紙を広げながら衛兵隊長は読み上げる。
「『ダークエルフのカリス・プレッジの身元を我が名の下において保証する。』門番から手紙は受け取って読ませていただきました、貴方を歓迎しましょう。」
「し、失礼しました!!」
隊長にそう諭されて衛兵は門を開かせる。
その際衛兵隊長にオルキッソは声をかけられた。
「アフェク殿、冒険者ギルドのギルド長がお呼びですので向かわれてください。」
「……このまま神殿へと向かいたいのだけど、ダメ?」
「もちろんその後で構いません。」
「分かった、わざわざありがとう。」
「ではお気をつけて。」
衛兵隊長はお辞儀をして僕達を見送る。
僕のこの様子には触れなかったのを見ると突っ込んだらいけないと思われたのだろう。
色々と恥ずかしいんだけどなぁ!
しかしながらオルキッソと領主様のおかげで入れたので文句は言えないのでそのまま連行された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます