放逐された元奴隷(ダークエルフ)は聖騎士(パラディン)でした
神無創耶
第一章 聖騎士の誓い
第一話 『放逐された奴隷』
『
迷いの森の深奥にて、冒険者のリーダー格である戦士ファトゥスは
「っ、ぁ……!」
傷口を抑えようとすしたら、首輪の鎖を
それに逆らえず泥に塗れ、傷口に入り全身に激痛が走る。
「ぁぁぁぁあっ!!!」
傷口が広がり、激痛で悶える僕を冒険者達は冷淡に見下ろす。
切り裂かれ、殴打された全身から血が流れていく。
「っ、い"、が、ぅ……!」
草の混じった泥水を吐き出しながらも痩せて骨張った手で身を起こそうとするとお腹を蹴られ、空っぽの胃の中身を吐き出す。
「ここまで痛めつければもう囮としては充分だと思いますわ」
メイスを持った黒い長髪の女神官のアフマクは嘲笑う。
「これでアンデッドも
ファトゥスは剣にこびりついた血を拭い、吐き捨てる。
「コイツがアンデッドになったらどうする?」
「その時は俺の聖なる力で一撃だろ」
「ええ、ファトゥス様のお力は神様に選ばれた証ですわ。この穢らわしい
全身の激痛に歯を食いしばり冒険者達を見上げる。
彼らの表情はあまりにも醜悪で悪意に満ちており、あまりにも邪悪な魔物にも見えた。
ずっと奴隷として仕えさせられていた数年間、彼らは僕をストレス発散や囮にしたりといったことは日常茶飯事だった。
けれど、数年前に奴隷商人によって彼らに売り払われてからというものの、彼らはその知名を欲しいままにしていた。
そして何より今日この地の領主に呼び出されたらしい。
らしい、というのは馬小屋の奥で隠すように繋がれていた僕の所にきたファトゥスから聞かされたからだ。
それで話があると言われて何故か仲間の冒険者と共にこの迷いの森の深奥まで連れてこられて、冒頭に至る。
「俺たちの為にここで囮になって死ねるなんて最高の栄誉だろ、ダークエルフ。」
鎖を放り投げた手を拭いながらイディオは微笑う。
「悪いな、領主様に面会するのにお前のような
「そん、な、理由で……」
今まで奴隷として何があろうとも仕えてきたのに、と言外に息も絶え絶えになりながらも吐き出す。
生きる為にどんなに最悪でも助けになる為に働かなくてはならなかったのにこんな結末なのかと思うと悔しい。
「奴隷商人からお前のような
「ご、ほっ……!」
革のブーツが腹部にめり込んで、視界が歪む。
「ファトゥス様、そろそろ」
「おお、そうだな。じゃあなダークエルフ、これでお前とはおさらばだ」
女神官のアフマクが時間を告げられ、長剣を僕の前に放り投げてファトゥス達は逃げていった。
微かにアンデッドの呻き声が聴こえる、僕の血の匂いに惹かれたのだろうか。
陽の光が差し込む森の中ではあるが、
奴隷の証としての枷がひどく重く感じた。
生きたい、死にたくない、
ずるり、ずるり
陽光によって照らし出された古い大樹まで放り捨てられた長剣を支えにしながら這いずるように歩いてふらついて倒れる。
森の隙間から見える太陽の光に照らし出された身体は、血に塗れた黒い肌、両手足には自由に動く事を制限する鎖、首には奴隷であると示すための印が刻印された鉄の首輪。
それらはあまりにも冷たく、僕は奴隷であるという事実を突きつける。
「死にたく、ないな……」
血が混じる僕の声は静寂の中に溶けて消える。
数年前に奴隷として買われたダークエルフとしての僕はずっと
陽光に晒されてもダークエルフ特有の日光過敏によって焼け爛れたり、拷問に等しい激痛がある筈なのに僕にはなかった事から奴隷商人によって普通の人間よりは頑丈だという事で高値で売り払われたのだ。
こうして陽光に身を曝しても僕の身体を灼かず、血塗れの身体を照らし出していた。
「ねえ、神様、僕を」
その言葉の続きは声にならず意識が混濁し始める。
走馬灯が脳裏をよぎり、視界が狭まる中アンデッドの半透明の
ここで過去に死んだ
ボロボロの外套を羽織った悪霊は口の中で何かを唱えてるが一向に効果を現さない。
魔導士の憎悪に満ちた赤い双眸は効果を現さないのに苛立ち混じりに長いかぎ爪を振りかぶる!
杖代わりにしていた長剣を反射的に振り抜き斬り払おうとするが、力が入らないままで振ったからか手からすっぽ抜けた。
だが、その剣は薄い金色の光を放ちながら曲線の軌跡を描きながら悪霊を刺し貫くと同時に悪霊は絶叫しながら消滅した。
心臓がバクバクと音がする。
赤い血が流れるのが止まらない。
遠くから、泥を跳ねさせながら走る人間の足音が聴こえて、暗くなる視界の中目を向ける。
そこには神官の服を着た少女が駆け寄るのが見えた。
何かを言って、いる?もう聴こえない、でも
少女の必死に声をかけるのを傍目に意識が薄れていく。
今までいい事なかったけど、こんな幻覚を見るくらいだ、もう僕は長くないのだろう。
ああ、でも
「よか、った」
最期に、誰かに看取られるなんて。
【カリス】
誰かが、僕を呼んだ、気がした。
確認する間もなく、その言葉を最後に意識が闇へと落ちた。
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