[B級ホラー小説]デス畳
七谷こへ
第1話 プロローグ――恐怖の館
「死にたくねぇ、おれぁ死にたくねぇよ……」
野生の動物さえも「田舎すぎてくそわろた」と
木々にも負けぬ
その
そうした
それにイラ立ったように、別の若者が吐き捨てる。
「うるせぇな、そんなのみんないっしょだよ。おまえだけが、死にたくねぇんじゃ、ねぇんだ……」
「でも、でもよ……楽しい合宿になるはずだったじゃん! なんで、どうして、こんなことに……」
そう糸をつらねるように
若者はビクリとからだをふるわせるが、その後、なんの物音もせず、その場にいた4人の男女は汗をにじませながらただ息を殺した。
そう――楽しい合宿に、なるはずだった。
つぎの春には大学を卒業し、就職してからもこのサークルの仲間たちと集まって、ふと「あの夏の合宿、最高だったな」と笑い合うような、青春の熱い一ページになるはずだったのだ。
それが、いまの自分たちにのしかかっているのは「もうすぐ、自分たちはあの
「こんなことなら、こんなことなら……」
若者はおさえた
みっともなく涙を川のように流し、すぐとなりに女子がいることも理解しながら、
「あの伝説の作品『大室リリAV引退! ハァンペイジ 巨乳大乱交』を見ておけばよかった……!」
「おい、“AVソムリエ”」
ひとりが彼に呼びかける。
「最後に『童貞捨ててみたかった』とかじゃなくそれなの?」
「だって、これだけは見られなかったんだ!! おれがこれまでに小遣いやバイト代をそそぎこんで見てきた
“AVソムリエ”は周囲がひくほど顔をゆがめて号泣している。
「こんなところで死にたくない」という気もちは全員が持っているものの、「アダルトビデオを見損ねた」が理由である人間はほかにひとりもいなかったため、どんななぐさめのことばなら彼にとどくのか、
――そのときであった。
『おぎゃーん』
どこかから、女性の
「この声は、大室リリさん……!?」
即座に反応する“AVソムリエ”。
「しかも、このあえぎ声は『スパイにしてはでかすぎる~悪の組織にとらわれて~』とも『巨乳メンズエステ嬢のみだらな誘惑』とも似ているが、語尾のあがりかたに大室リリさん後期に見られる円熟さ、快感というコーヒーに溶かしたひと
いったい、どこからながれてきたのか。
困惑する一同。
まさか、気を利かせたサークルのだれかがインターネットでくだんのAVを取得し、“AVソムリエ”に最後の
しかし、後述するがこの地には電波が通らぬ。
「おれは、『ハァンペイジ 巨乳大乱交』が見られるなら、いま死んだっていい……!」
“AVソムリエ”は魂の
そうしているあいだも、強く、弱く、ときには獣の
“AVソムリエ”は、「ここかっ」とひときわ高い声でさけぶと、ガラリと和室の引き戸をひらいた。
「ばかっ、おまえ、そこには……!」
かたわらにいた男がさけんだのもムリはない。
そこにはあのバケモノが――このサークルの何人もの人間の命を
「やはり、『ハァンペイジ 巨乳大乱交』……!!」
“AVソムリエ”が
――それは、一種異常な光景であった。
畳のすぐ真上へ、しごく立体的なホログラムが、幻想的に
そこには、最新の8Kの映像かと思うほどに
なるほど、たしかにタイトルに恥じぬ巨乳である。
「畳から、ホログラムが……!?」
「最近の畳にはそんな機能が」
「んなわけないでしょ」
「やめろ“AVソムリエ”、ワナだ……ッ!」
それを見て口々に制止する一行。
が、砂漠を何日も放浪しているがごとき
命も危険もその存在をなくなした。
『もう、がまんできない。きて……!』
ホログラムのむこう側で、
「リリさん、いま行きます……!」
“AVソムリエ”は
バグンッ
すでにくりかえしきいたその音とともに、二枚の畳が“AVソムリエ”を
「ばかやろう、“AVソムリエ”……」
「でも、あいつ、最期にいい顔してたな……」
畳は“AVソムリエ”の血で真っ赤に染まり、そんな気休めのなぐさめ合いが静まったころ、ひとりがそののどに絶望を宿してポツリとささやいた。
「何人の命をうばえば満足するというの――」
くちびるとともに
「デス畳」
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