雷撃の魔女
誠
転生から魔境へ
第1話 運命
「ハァ……ハァ……ハァ……」
恭子は追われていた。
(クソッ!しつこい!!)
彼女の前にいるのは、警察の男たち。
「こら待ちなさい……!!」
「ハァ……ハァ……ハァ……!!」
恭子は、ひたすら逃げる。だが、彼女の体力はもう限界だった。
恭子が追われる原因、それは1週間前に人助けをしてしまったからだ。知らない少女にしつこく絡んでいたを外国人から助けてしまったのだ。普段であれば見て見ぬふりをする恭子だが今回はなぜか手を差し伸べてしまった。それは、彼女が両親を亡くして1人で暮らしているからだろう。表面では一匹狼の不良を気取っているが内心では孤独を嫌った。人の暖かさを求めてしまっていた。
それがいけなかったのだ。その外国人とは俗にいう外交官の一人息子だったらしい。警察はもちろん、公安、あまつさえどこぞのエージェントまでしつこく恭子を追う。彼は、父親の権力を使い恭子を指名手配したのだ。
そして今に至る。
(何で私がこんな目に……!!)
確かに恭子の素行は悪い。両親は恭子が5歳のころ事故で他界し施設送りにされ、施設では毎日のように喧嘩があった。自分よりも年上の子供ともやりあった。挙句に施設から抜け出し街を彷徨った。街では不良に絡まれそのたびに叩きのめし、警察の世話になる事も多かった。そのたびに施設に戻されまた抜け出すの繰り返し。そんなことを繰り返している内に、恭子は不良の道を歩んで行った。
だからなおさら捕まるわけにはいかない。いつもの喧嘩とはわけが違う。捕まればよくても女子少年院送り、最悪消されるか。自由を求めて毎回施設を抜け出しているのだ。ここで警察に捕まり挙句に女子少年院に行くなんてなんてたまったものじゃない。恭子は走る。とにかく走る。
(あの道に出ればなんとか行ける!?)
恭子は、細い路地に入り込む。そこは、幅1メートルもない狭い路地だった。人が2人も通れば狭く感じるような通路だ。だがここは、地元民しか知らない抜け道で誰も使わないため、人通りも少ない。その道を恭子はひたすら走る。後ろから警官たちの声は聞こえてくるが気にも留めない。気にしている暇はないという方が正しいだろう。
(よし、あと少し!!)
恭子は、一気に路地を駆け抜けようとする。だが、その瞬間足元が崩れた。
(えっ、嘘!?)
地面が陥没していたのだった。恭子の体は、そのまま落下する。
恭子はそのまま頭から地面に落ちてしまった。思いっきり頭を強打した恭子は走馬灯なんてもの見る暇もなくそのまま生涯を遂げるのだった。榊原恭子、享年15歳。若すぎる死である。
「どこ、ここ……?」
恭子の意識が覚醒すると見知らぬ空間にいた。あたり真っ白で無い場所。感覚が可笑しくなりそうだが地に足を付けている感覚はちゃんとある。恭子は自分が置かれている状況を少しでも理解する為に今いる何もない空間を歩き始めた。しかし答えはすぐに訪れた。
『やあ!』
恭子は周りを見渡したが、やはりそこには白しかない。
「……誰?どこにいる?」
『ここだよ』
恭子には声の主が分からなかった。しかし声はすれども姿はない。そんな状態だと言うのに、恭子は不思議と恐怖を感じていなかった。むしろ安心感すら覚えていたのだ。
しばらくすると朧気なら姿が見えてきた。
(女の子?)
『そう!僕はミスカ。あなた達が言うところの女神様ってヤツかな?』
「女神……」
『うん、そうだよ!よろしくね!』
「……私は恭子」
『うん!知ってるよ!』
恭子は女神と名乗ったミスカの事を警戒していた。だが、ミスカの方から敵意のようなモノは感じられなかった為、ひとまず自己紹介をする。
警戒心を解く事は出来ないが、それでも会話する事でほんの少しでも得られる情報もあるだろうとの判断だった。ミスカも恭子が少し緊張している事が分かったのか、先程より柔らかい口調で話しかける。恭子に質問される前にミスカは自分の事を話し出した。自分が地球とは違う次元にある世界を創造し管理する神である事。恭子は黙ったままその話を聞いていた。ミスカは恭子が理解してくれたと思い説明を続ける。
恭子は何となく話の内容からよくあるファンタジーの一種であるだろうと先読みした。しかしミスカの次の言葉は恭子の想像を上回っていた。
『でもね100億年も見守っていたら飽きちゃったんだよね~』
「……は?」
恭子は驚きの声を上げた。
『最初は良かったんだ、最初は……。でも勇者やら魔王やら始まったらさぁ、あの世界の生き物は進化が鈍化しちゃって、成長をやめちゃったんだよね』
ミスカは残念そうな表情を浮かべながら恭子に語った。地球上でいえば生物の歴史は長い。人類が誕生してから今現在でおよそ50億年以上の歴史があると言われている。しかしそれはあくまでも人類誕生から現在までの話で、それ以前はどうなのか?そしてこれから先も続くのか?という疑問が浮かぶ。しかし恭子はそれよりももっと大きな衝撃を受ける事になる。
『恭子ちゃんにはぜひ僕が作った世界に転生してもらいたいんだよね』
ミスカの話を聞いて恭子は言葉が出てこなかった。自分の事を女神と名乗る存在がとんでもない事を言い出していたからだ。恭子は考えた。仮にこれが本当だとしたら自分はとんでもない事に巻きこまれたのではないか、と。そもそも女神を名乗る者が言っている事が真実かどうかも怪しい。
『あ~、そっか……』
ミスカは手をポンッと叩いて納得したというジェスチャーをした。恭子はこんな状況ではあるが少し可愛いと思ってしまった。
「恭子ちゃんがいた世界、そこでの人生はもう幕を閉じちゃったんだよ。死んじゃったって事」
恭子は言葉を失った。自分が死んだ?いつ?どこで?なんで?様々な考えが頭の中で駆け巡っていた。実は恭子はまだ自分が死んだことを知らない。これは死んだ直後の感覚を思い出させないためのミスカの配慮だった。それが恭子を激しく混乱させた。ミスカは恭子の心中を知ってか知らずか話を続けた。ミスカの説明を聞き終えた後、大きくため息をつくと一言だけ言った。
「意味わかんない」
『あはは、そうだよね!ごめんね!』
ミスカは苦笑いをしながら謝罪した。
「……でも嘘じゃないみたいだし信じるしかないんでしょ?」
『うんうん、ありがとう恭子ちゃん!』
しかし恭子はまだ釈然としていない。現時点で最大の謎が残っている。
「……なんで私なの?」
『特に理由はないかなぁ~』
恭子は、女神を名乗る存在が何か思惑があって自身を転生者に選んだのだと考えていた。理由が無いと聞かされて恭子は困惑する。そしてミスカを怪しんだ目で見た。しかしミスカは意に介さない様子であっけらかんとしている。
(こいつ……)
やはりどこか胡散臭い、そう思い始めた時、ミスカが人差し指を立てて左右に振りながら話し出す。どうやら、この仕草はよく使われているらしい。恭子は、ミスカのその仕草がまた可愛いと思ってしまった。
「……仮にその提案を拒否したらどうなるの?」
「今の姿、記憶は消滅して無に帰する。僕たちみたいな存在から言わせれば、人間も動物も物質の一つにしか過ぎないから。でも感情や魂は別さ!それは人間自身が自身で獲得した物。物質にはなりえないのさ。ちなみに今回は特例も特例」
もし恭子が転生を拒否するという行為は恭子の魂は無に帰すという事になる為、恭子は提案を受け入れるしかないと言う結論に至る。それに恭子にとってこの提案は非常にメリットが多かった為、断る理由もなかった。恭子はしばらく考えた後、ミスカの申し出を受ける事にした。
「わかった。その提案、受けるわ!」
『ありがとう!じゃあ早速行ってもらうね』
「え?もう!?」
ミスカは、恭子の返答を聞くとすぐに異世界への転生を決行した。恭子は大きな光の玉に包まれ次第に意識が遠くなっていく。
(ああ……なんか頭がボーっとしてきた)
『それでは新たな人生を楽しんでね!』
ミスカのその言葉を最後に恭子の意識は途切れた……
『起爆剤になる事を期待しているよ!恭子ちゃん!!』
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