第四話 才能

召喚されてから3日が経った。今は4日目の昼前だ。龍二が勇者として剣や魔法の訓練をしている間、俺は王城に保管されている本を読み漁っていた。本といっても魔道書とかそういう類いのものではなくこの国の歴史書や魔物についての書物、それとこの国に伝わる伝説や英雄譚が書き記された叙事詩等だ。俺は伝説の~とか幻の~とかは基本的にあるものだと思っている。あ、異世界での話ね。その中に何か魔王を倒すのに役立つものがあればと思ったが、今使えそうなのは無かった。まあ、あったら使ってるか。でも話は面白かったから良しとするか。


「もうよろしいのですか?」

「本を読むのは終わりっす」


書庫室?から出てきた俺に声を掛けるこの人は俺の御付きになった可哀想な侍女、イレーナさんだ。イレーナさんは御付きになった時、敬語をやめるよう言ってきたが年上の波動を感じた俺にはタメ口は厳しく、結果として態度が軽い後輩みたいな感じで落ち着いた。そんなイレーナさんは今日も書庫室の入り口で俺を待っていたという訳だ。ちなみに部屋が分からなかった俺達に教えてくれたのもイレーナさんだ。マジ感謝。


「それでは、この後の予定はいかがなさいますか?」

「確か龍二が騎士団長と訓練してますよね?俺も参加できないかと思って」

「確認して参りますか?」

「じゃあ、お願いします」

「かしこまりました。龍一様はお部屋にお戻り下さい。昼食をお持ち致します。それまでに騎士団長様のご返答もお聞きしておきますので」

「了解でーす」



午後、昼食を終えた俺は騎士達の訓練場へ足を運んでいた。其処には訓練をする騎士達、それに龍二の姿もあった。


「龍一。お前も訓練すると聞いたぞ?」

「訓練というか、騎士団長に武の才能を見てもらおうと思ってな。もしクソジジイが俺に何かを与えてたとして、最初に思い付いたのは武器を扱う才能だった」

「クソジジイは呼びは確定したんだな・・・確かに魔王と戦う力となるとその辺が妥当か」


何せ身体能力も魔法適正もないからなぁ・・・

約3日ぶりに会った龍二は体の至るところに痣や傷が見え、相当厳しい訓練をしているのだろうことが窺えた。その後少し龍二と現状報告をしていると後ろから足音が聞こえた。


「さあ、午後の訓練を始めるとしよう。龍二、それに龍一よ」


グランベルグ王国騎士団長キース・オーランド。王国最強の騎士だ。龍二はそんな人と訓練しているのだ。キースさんは見たところ傷らしい傷はない。龍二に聞いたところによるとまだ一撃も入れることができないらしい。勇者の身体能力がどれほどかは分からないが魔王を倒す為の力だ。相当なものに違いない。それを相手に一撃ももらっていないのを考えるとどれほどの・・・うぉっ!!そのキースさんはいきなり俺の足元に木剣を投げつけ、言うが早いか


「まずは龍一。お前の腕を見せてみろ」


俺に切りかかるのだった。




「今日はここまでにするか」

「はい!」

「・・・・・はい」


キースさんが木剣を訓練場の地面に突き刺しそう話す。俺はというと大分前に力尽きて大の字で横になっている。そこからは龍二とキースさんの訓練を眺めていた。それは想像していたより凄まじく、俺は呆然とした。目にも止まらぬ速さで斬りかかる龍二を余裕でいなし叩き斬るキースさん。いくら木剣とはいえ相当なダメージのはずだが龍二は直ぐに立ち上がり再び向かっていく。それを見ていた俺は自分のあまりの非力さに一人、唇を噛みしめるしかなかった。




自分の部屋のベッドで横になる。結論から言うと俺に武の才能は無かった。一通りの武器を試して見たがどれも手応えを感じなかったし、キースさんからみてもそうだったらしい。だが一つだけ誉められたところもあった。どうやら俺は逃げる才能だけはあったらしい。相手の間合いに付き合わずガン逃げスタイル。ビビってるだけなのでは?と思ったがどうにも違うようだ。キースさん曰く戦い辛い、龍二曰くイライラするとのこと。素人の俺には何が何だか分からないがこれは元々の才能なのだろうか?それとも与えられた力なのか?後者だとしたらショボすぎるぞ・・・


しかし、だとしても俺の今分かってる唯一の才能なんだ。これを伸ばすしかない。取り敢えず俺はキースさんの下で逃げ続けられるだけの体力作りと訓練を始めた。













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