第二話 転移先は
まどろみの中、不意の明るさに目が覚める。
「ここは・・・何処だ?」
目が覚めて最初に目に入ってきたのは高い天井と煌びやかな装飾の施された壁や窓だった。
起き上がると周りからザワザワと声が聞こえる。
「召喚、成功しました!」
「おお、目を覚まされたぞ・・・!」
「あの方々が勇者様か!」
周りには白いローブを来た男達。いやよく見たら一人だけ女だな。誰だこいつら。
足元には青白く光る魔法陣。え、魔法陣?
起きたばかりの回らない頭を無理やりフル回転させる。ああ、思い出した。異世界に飛ばされたんだっけか。だとしたら近くに龍二がいるはずだな。探そう。と思ったら普通に隣に寝てた。やっぱ頭回ってねーや。
「おーい。龍二~、起きろよー」
寝ている龍二の頬をぺしぺしと軽くはたく。起きなければどんどん威力を強くしていこうと考えていたら龍二はすぐに目を覚ました。
「ここは・・・何処だ?」
俺と全く同じ反応。さすが兄弟だね。龍二は起き上がり周りを見回すと直ぐに硬直した。頭の中で状況を整理しているのだろう。
俺の方は大分頭が働いてきている。転移してきた俺達が今いるのは王城、それも王様の御座す謁見の間だ。だってよく見たら奥の方に玉座あるしそこには王冠被ってる御仁が座っていらっしゃる。そしてその隣の老人は明らかに位の高い人物だ。宰相とかだろうか。その御仁の前には、鎧で身を包み腰には剣を携えた騎士が並んでいる。
「龍二。状況の整理はできたか?」
「あまり・・・」
「まあ、説明してくれると思うぞ」
そうやって軽く話していると白ローブ、多分魔術師の男の一人が声をかけてきた。
「勇者様方、王の御前へ。国王、レクス様が直接ご説明なされます」
レクス様、それがこの国の国王の名前か。まあ、そのレクス様直々にこの異世界転移の説明してくれるそうだ。俺達はその男に促されるまま歩き玉座の前で足を止めた。その男は一礼をして後ろへ下がっていった。
さて王の御前だ。この国の作法はわからないが棒立ちは無礼な気がする。まあ無理やり呼ばれた側だし無礼でもいい気もするが。しかし間近に感じる王の圧に屈した俺は取り敢えず片膝をついて跪いた。隣では龍二も真似をするように同じ態勢をとった。
「そんなに畏まらなくてもよい。立ち上がり面を上げよ」
王様に言われた通り立ち上がり王様へ顔を向ける。いや無理!怖い!完全に気圧された俺は一瞬で目を反らし下を向くが、それも失礼なので王様の首の辺りを見ることで落ち着いた。人の顔を見れない人がネクタイをみて話すようなものだ。
「私はレクス・ボルド・グランベルグ。この国、グランベルグ王国の王だ」
グランベルグ王国。それが俺達が転移した国の名前か。
「お主達は勇者として魔王を討伐してもらうべく我が国に召喚された」
「勇者・・・魔王・・・」
龍二は何かを考えこんでいる。まあ心当たりはあるよな。選ばれし勇者よ、とかいって召喚された訳だし、勇者といったら魔王はセットみたいなもんだ。
「数年前に復活を果たした魔王は魔物の軍を率いて我が国へ侵攻を開始した。我が国の精鋭達の尽力もあり奇跡的に撃退できたが、次の戦いは魔王軍も戦力を増強してくる。そうなれば我が国の敗戦は免れないだろう。私は国王として国を滅ぼすわけにはいかんのだ。そのために私は、」
「そのために俺達を召喚したんですか」
「ああ、そうだ。神の御力をお借りしたその魔法陣でな。こちらへ召喚される前に神の声が聞こえたはずだ」
「ええ、選ばれし勇者よ、と。勇者なんて聞こえはいいが要は魔王軍を倒せる駒が欲しかったんですよね?」
「確かに、その通りだ」
龍二、なんか怒ってる?まあ余程異世界に行きたい奴じゃなきゃ無理やり連れて来られたら怒りたくもなるよな。
「どうせ今すぐ帰らせてくれといっても無理なんでしょう。それじゃ召喚した意味が無いですから。俺はまだいい。だけど、龍一は・・・」
どうやら龍二は俺のために怒ってくれてるらしい。お兄ちゃん感動して泣きそう。
それを聞いた王様はこっちを見やる。自分はまだ許せるが、隣の男を連れて来たのは許せない。王様からしたら良く分からないだろう。だからその張本人の隣の男、つまり俺の話を聞きたいらしい。まあ遅かれ早かればれる訳だし早い方がいいだろう。
「えーと、自己紹介が遅れました。私の名前は岡崎龍一。隣は岡崎龍二。私の弟です。王様、貴方は私達を勇者と呼びましたがそれは間違いです。勇者に選ばれたのは龍二だけ。俺は神の声も聞こえずその転移に巻き込まれたに過ぎません」
俺の言葉の後に更に言葉を紡ぐ龍二
「王様。龍一だけでも帰してもらうことは、出来ませんか・・・」
転移前に言った異世界楽しみっていう俺の言葉。嘘だって気付いてたんだな・・・
しばしの沈黙、それを破ったのは王様だった。
「お主達にそんなことが・・・・巻き込んでしまったのはこちらの不手際。帰してやりたいのは山々だが、魔法陣はこちらから送り返すことができない。本当に申し訳ない。私が責任もってお主達が帰れるよう方法を見つける。だから、頼む・・・」
玉座に座りながらとはいえ王様が、俺達に頭を下げた。それはとんでもないことだ。事実その場にいた全員が驚愕していた。それは俺もだ。王様、怖いって思ってごめん。めちゃくちゃできた王様だったんだな。
それに帰れないのも予想はしていた。
「龍二、もうやめようぜ。ありがとな。俺のために」
「別にお前だからじゃない。巻き込まれたのが父さん母さんだったらもっとキレてた」
龍二の肩を叩く。龍二も王様の真摯な対応に毒気を抜かれたようで
「王様、顔をお上げ下さい。俺がどれほど役立つかは分かりませんが勇者として魔王軍と戦います」
龍二は、覚悟を決めたようだった。そしてそこからは早かった。龍二と王様と偉いじいさんの話し合いでポンポンと話が進んでいった。脇役に出番はない。俺は三人の会話をボーッと見ていた。
決まったのは俺達の待遇、最上級の国賓扱い、更には城の施設を自由に使用でき毎日お金までもらえるという厚待遇。それが勇者でもない俺にまで適用されるとは・・・
他には魔王軍はしばらく攻めて来ないとのことでその間に龍二を鍛えるらしい。俺は自由行動。お金貰って働きもしない、いやもうニートじゃん・・・
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