弟の異世界転移に巻き込まれました

BES

第一話 巻き込まれて異世界

俺の名前は岡崎龍一おかざきりゅういち。何処にでもいる平凡な19歳の大学生、ではなくフリーターだ。浪人している訳でもない。何故大学に行かなかったのかといえば、家から遠いとか、金がかかるとか、俺の学力じゃ絶対落ちるとか、しようと思えばいくらでも言い訳が出来るが、結局のところ俺はバカだったって話だ。就職?うん、まあ・・・察してくれ。

だから俺の今の肩書きは19歳、フリーターだ。バイトしてるしニートではない。と思う。


そんな俺は今、街灯も少ない夜の畦道を歩いていた。

俺の住んでる町が田舎ということもあって誰にもすれ違わない。聞こえてくるのは虫の声だけ。うるせえ。

鳴くだけの虫ならまだしもの腹立つのは飛んでる虫共あいつら顔面突撃とかかましてきやがるからな。


何故それなのに家を出ているかと言うと、部屋でくつろぎながら本を読んでた時に、弟に近くのコンビニにブラックコーヒーを買いに行ってきてくれと頼まれたからだ。そして今はその帰りだ。近くといっても歩いて20分は掛かる位には離れているからあまり近いとは思わない。最寄りのコンビニがそこなだけだ。だけど俺の住んでいる田舎町は電波も通っていない森の方に建っている家も多い。それと比べると俺の家は近い方だとは思う。


「はあ、もうすぐ家だ」


ようやく家まで数分の所まで来た。

コンビニまで歩いて行くのは遠いし単純にめんどくさい。弟よ。次からは父さんか母さんに頼んでくれ。っていうかスーパーで買い貯めしとけ。それかネットで箱買い。

そんな感じのことを頭で考えてたら家の目の前についた。普通の2階建て一軒家。内装は和洋折衷、畳の部屋もあればフローリングの部屋もある。トイレは洋式、そこはよかった。便座は冷たいしウォシュレットもないけども。目に入ってくる「岡崎」と書かれた表札。昔は名字だけでなく家族の名前まで書いてあったらしいが今はない。


「ただいまー」


玄関を開けて家に入る。返事はない。代わりに俺の耳にオフトークの音声が入ってくる。グランドゴルフがどうとか孫を名乗る不審人物に気を付けましょうとかさすが老人ばっかの町だ。というか、まずオフトークと聞いてピンとくる人はあんまりいないかもしれない。要は地域の情報とかを放送してくれる機械。田舎にしかない旧時代の遺物だ。


玄関の靴を確認する。弟はいるな。父母はまだ帰ってきていない。

今日も残業でしょうか?お疲れ様です。お父様、お母様。

靴を脱ぎ階段を上がる。上がってすぐ右が弟の部屋だ。ちなみに奥が俺の部屋だ。俺は部屋にノックもせず入る。


「ほれ、買ってきてやったぞ。龍二。」


俺の弟、岡崎龍二17歳、高校2年生だ。勉強そこそこ、運動そこそこな真面目くん。至って普通の高校生だ。そんな弟、龍二はこの田舎町をでて都会(当社比)の大学に入るため絶賛勉強中だ。高二から受験勉強なんて偉いな~俺なんて・・・まあいいや。


「ああ龍一か、そこ置いといてくれ」

「はいよ」


龍二は俺の事を名前で呼ぶ。それかバカかどっちかだ。名前呼びは昔からだし、バカは合ってるので特に不快感はない。嫌われてる感じもしないし。

コーヒーをレジ袋から取り出し机の横に並べる。ちなみになぜブラックコーヒーなのかというと勉強の眠気覚ましで単純にコーヒーが好みだそうだ。エナドリは糖分大量だしカフェイン薬は危険だと聞いたから、らしい。勉強の邪魔しちゃ悪いと思い俺はそそくさと部屋を出た。さて、本を読んでる途中だったな。俺は廊下の奥の自分の部屋に戻った。



本を読み終えた後、喉の乾きを感じ一階の台所まで行き水を飲もうと思い部屋を出る。二階の廊下を歩き龍二の部屋を通り過ぎようとした時、

「誰だ!?」

不意に聞こえる龍二の困惑するような声。何だ?誰だって俺だよ。勉強のし過ぎで遂におかしくなったか?と少し心配になった俺はドアを開けて確認する。


「龍二、大丈夫か?」


龍二は立ち上がり部屋を見回している。


「龍一、この声は何だ?何か知っているか?」

「声なんか聞こえないぞ?」

「俺だけしか聞こえないのか」


声なんか全く聞こえないけどなあ・・・

龍二は片手で頭を押さえながら真剣な顔でこちらを見つめる。俺や他の誰かを疑っている様子はなく、俺の意見を待ってる感じだ。声・・・俺には聞こえず龍二にだけ聞こえる・・・可能性はあるか?


「それ厳かな感じの爺さんとか女の声とかだったりする?」

「老人の声だ。それがどうしたんだ」

「選ばれし勇者よ、とか言ってる?」

「ああ、さっきから呪文のように繰り返してる」

「それ多分異世界転移だわ。後は魔法陣とか来れば・・・ほら来た」


龍二を中心に突如浮かび上がる見たこともない文字と紋様で構成された円状の図。THE魔法陣といった感じだ。


「何だこれは・・・体が動かない・・・!?くそっ!!」


龍二は必死に体を動かそうとするが指一本動かないようだ。

体が動かないってそんなパターンもあんのかよ。対象に逃げられないようにするためとかかな?その魔法陣はどんどん範囲を拡大していき・・・ってでけぇ!入り口にいた俺まで陣の内側に収まっている。そして俺も動けねぇ!確実に巻き込まれるじゃねーか!くそっ!!龍二の異世界転移を頑張ってこいよーって見送る予定だったのに・・・

あせる俺を横目に体を動かすのを諦めた龍二は一度大きく息を吐き冷静さを取り戻す。


「異世界転移、話は聞いたことがある。龍一、俺は今から異世界に召喚されるのか・・・!?」

「ああ、多分俺もな!」

「お前も!?」

「魔法陣に捕まっちまった。体が全く動かん」

「何だって!?悪い、お前まで巻き込んでしまって・・・」

「お前のせいじゃないんだし謝んなって」

「龍一・・・」

「それに、異世界行ってみたかったしな!」


嘘だった。俺なんかが異世界に行っても碌な目に遭わないという確信がある。

しかし現実からは逃げられない。行くしかないんだから腹を決めるしかない。

上等だ!!異世界でも何でも行ったらぁ!!!

そんな話をしている内に魔法陣は輝きを増し俺の意識はそこで途切れるのだった。


















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