心霊スーツ

「おい! テメエ!」

 ぐっと肩をつかまれた。


「今、ガン飛ばしてただろ?」

 俺は無視した。


「おい! こら!」

 男はさらに力をいれたようだが、その手はすっと俺の体をすり抜けた。


 まあ、相手は幽霊なので、つかめたことの方が驚きだ。

 その後も何やら叫んでいた半透明の男を置き去りにして、俺は帰路を急ぐ。


 いつものことだった。

 道を歩くと大抵、幽霊に話しかけられる。


 俺はそんなに話しかけやすい人相なのだろうか。

 ちなみに、ケンカを売られたのは今日が初めてだった。


 帰宅してから、俺はネットで検索を始める。

 正直、半透明の輩に声をかけられるのはゴメンだった。




 後日、俺は名付けて「心霊スーツ」を作り出した。

 ネットで注文した護符や呪符などをスーツのジャケットにベタベタと貼り付けたのだ。


 もちろん、表に付けるとヤバいヤツなので、ちゃんとジャケットの裏に貼り付けてある。


 ルンルン気分で出社した。

 視界の端には幽霊たちの姿が見える。


 だが、いずれも指をくわえて見ているだけだった。

 成功だ。


 ヤツらを撃退できた。


 これで俺の平和な通勤時間が確保された!


「おはようございます!」

 会社に入って元気よく挨拶する。


「おはようございます先輩!」

 後輩が振り向いて答えた。


「なんか今日、やる気っすね」

「まあな……天気良かったし」


 幽霊を撃退できたからとは言えない。


「確かに、異常な暑さでしたね」


 まだ冬なのに、今日は春のような気温だった。

 ジャケットを脱いで、椅子の背もたれにかける。


「えっ……先輩……それ……」

「うん?」


 後輩の視線の先には、ヤバそうな御札がびっしり貼られているジャケットの裏地があった。


 俺は「心霊スーツ」で幽霊を遠ざげることができた。

 だが、社員たちも俺を遠ざけるようになった。

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