砂の霊に恋をする

月井 忠

砂の王国の砂

「それでは賢者たるお主でも、砂を止める術はないと申すのか?」

「はい。この都を放棄することをお勧めします」


「ううむ……」


 王の顔は、お気に召さないご様子だった。


 この王都は今、舞い込む砂によって沈もうとしている。

 それは、過去からの必然でもあった。


「我らに、そなたのような流浪の民になれと?」


 その言葉は、私のことを賢者ともてはやしながら、一方で蔑むような矛盾をはらんでいた。


「はい」

「……そうか、もう良い」


 そう言って王は右手を払った。

 近くにいた衛兵が近づき、私に退去を促す。


 立ち上がると私は今一度、この豪奢な謁見の間を見回した。


 黄金をふんだんにあしらった玉座。

 細かな装飾が彫り込まれた柱。


 それら全てはじきに砂に覆われる。


 衛兵に押し出されるように私は玉座の間を後にする。


 石畳の街には未だ活気があった。

 民衆にとって、砂の脅威は薄い。


 だが、石畳の隙間には砂があり、風によって運ばれる砂の量が増えていることには気づいているだろう。


 これより西には、砂によって滅んだ王国の跡がいくつもある。

 そうした歴史を伝え守るのが我ら砂の民だった。


 街道のそばには井戸があった。

 水を汲む子供たちの姿がある。


 やがて井戸は枯れ、水を巡って人々は争うようになるだろう。

 豪華な宮殿も、野党と化した民衆の襲来によってめぼしいものは奪い去られる。


 なぜ、ここの民は一所にとどまるのか。

 そうすることで、富が生まれ階級が生まれてしまう。


 特権を得るものたちには利益があっても、民には虐げられる苦しみしかないように思う。

 いつだっか、それを問うた所、彼らはそれでも流浪するよりましだと言った。


 どうやら私とは意見が合わないようだ。

 私はラクダに乗って王国を後にする。


 人は砂に勝てない。


 だから、砂と同じように流れながら生きるしかない。

 私はそう思っている。

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