第13話

 一方その頃、ヴィクトリカが実質的に仕切る混成騎兵、プロテゴ城でへの移動があった事が報告されていた。


「敵の一団が南側から東側に動いています。その数約30!」


 主家の嗣子に武器は向けられない。なんて殊勝な人間が離反してくれたらいいな。などと理想の未来を考えたくなるがここは現実。


 逃亡でもなければ裏切りでもない。

 ただ目端の利く騎士が奇襲を警戒しての行動だ。


「アーク様の予想が外れましたな……」


 ヴィクトリカは勉強になりましたねとでも言いたげだ。

 

 はて? プロテゴ城内にそこまで優秀な騎士がいただろうか? 


 筆頭のヒル騎士爵父子は父子共に優秀だと訊いている。  

 しかし、それは武功の話。

 ヴィクトリカと同様に “戦略” の域には達していない。

 ホーン、マガジン、ハイブリッジ、ジョイと記憶にある範囲で叔父上の重臣の名を思い出すが、心辺りはない。


「しかし、数は30にも満たないとのこと。未だに優勢と言っていいだろう」


「ですな……」


 ヴィクトリカは肩を竦めて見せる。


……ん? 何だこの違和感は、なぜ敵は僅か30人ほどしか兵数を東側の防衛に割いていないのだ? 純粋に人数が足りない。または、30人で事足りると考えたのだろう。


……確かにそれでも筋は通る。

『攻撃三倍の法則』に則れば、防衛兵数30でも拠点防衛を行えば兵数90に匹敵するとされている。

そのため、我らの奇襲部隊総数110で攻めれば十分に勝機がある。


 それに俺は自分の教育係である爺を信頼している。


 ピューっ、パン。


 夕暮れの空に華が咲いた。

 魔術の炎を用いた華、戦闘開始の合図だ。


「ヴィクトリカ!」


 俺は、名代に声を掛ける。


「承知しました」


「我らが友軍より戦闘開始の合図が出た! これより戦を始める総員武器を取れ!!」


「「「「「うぉぉおおおおおっ!!」」」」」


………

……


 時は少し遡る。


【scene:フロシュ城 side:マザール・フォン・フラット】


 アークが爺と呼ぶのは、フロスト城城主のマザール・フォン・フラット男爵だった。

 白髪の混じった灰色の頭髪に、堀の深い顔立ちは威厳と風格を感じさせる。


「クラウド殿も苦労されますな……」


「いいえ。俺など若輩の身。『猛将』ヴィクトリカ殿が居ないからの将です。フロスト男爵の差配に従いましょう」


「それは重畳」


 文化人として知られるマザールは、若くして城代を努めるコープ騎士爵の言葉に満足げに頷く。


「では付近の農民を武役で招集しましょう。兵を……」


「お待ちください!」


 クラウドは声を上げ陣から出て行こうとする兵士を静止する。


「クラウド殿、先ほど私の差配に従うと言ったばかりではありませんか?」


「お言葉ですが、我ら貴族は税を徴収することで民を庇護する役しているのです。敵国や他領からの侵略に対抗するためならば、民の徴兵にも同意しますが此度の戦は同じアーク家そこまですることでしょうか?」


「……クラウド殿は勘違いをされている。我ら領主貴族とは、血統書付きの由緒ある盗賊だ」


「……なっ!」


 クラウドは驚きの余り二の句が出てこない。


「領地を持たぬ法衣貴族は、より文化的になった血統書付きの由緒ある盗賊に過ぎない」


 クラウドは苦し紛れに自身のアイデンティティを擁護する。


「系図を辿れば土豪や亡国の王侯貴族という者もおりますが……」


「元を辿れば皆平民だ。平民の中で力を付けるには神官か武人になり皆の頭目となる者が出て来る。一番身綺麗な貴族はコレだろうが、多くは山賊、海賊と言った暴力集団に過ぎん。傭兵という線もあるがな」


「……」


「つまり君はこう言いたいのだろう? 『民から税を得て食っている。その代わりに、義務がある。領民を守り、支配を認める国を守る義務がある』と……だが私は敢えて君の考えを否定しよう。それは理想論だと」


「……ならばせめて、近隣の領主に声を掛けては?」


「此度の戦は領内の戦、しかもこれはバナー子爵家内部のこと一枚岩ですらないノーヴル伯爵家内で不要な混乱は避けるべきだ


「ですが……」


「これは貴殿の主君ロード様の初陣でもあります。大軍で小軍それも身内を攻めて功を得たとあっては、評判に関わります。それに意味の無い死を農民にさせるつもりはない。彼らには旗を持ってもらうだけだ」


「旗ですか? そう、隊列を組みニーベル、フロシュ、フロスト、オールド、ベソルと言った旗を掲げ兵数を多く見せ相手の戦意を削ぐ、戦いとは外交手段に過ぎないのだ」


「フロスト男爵。俺は……いえ、私はあなたのことを勘違いしていました」


「謝罪は不要。戦場でのことは結果で示して下さい」


「はい!」


「訊きましたね? それでは兵役で村民を集め兵に偽装が出来次第プロテゴ城前の川まで進軍し、我々が渡河を始めプロテゴ男爵軍が釘付けとなった所で、タイニーバナー男爵軍が挟撃その隙を衝いて我も攻撃を仕掛けます。では仕事を始めてください」




============

『あとがき』


 読んでいただきありがとうございます。

 執筆部分はここまでとなります。

 戦記物のウケが悪そうと言う理由でボツになった作品です。

 お気付きの方も居ると思いますがこの作品の主人公の元ネタは、第六天魔王こと織田・弾正・信長です。


 あとこれ信長の生涯を改変した戦記物って面白そうじゃね? と言う発想で書き始めた作品なので、タイトルが決まるまではノブナガと呼んでいました。

 悪役=魔王→信長 見事な連想ゲーム。


 史実で言うと1555年(弘治元年)守山城攻略が元ネタです。

 私個人が歴史大河好きなんですよね。源義経と北条時行とか二人とも長野あたりに逃げて力を付けて都だったり、幕府を奪うと言う貴種流離譚系のエピソードもってて物語向きなんですよ。小さいとことから始められると言うと、信長あたりが無難かなと思って題材にしました。


 北の毒蛇とか東の弓聖とか後から設定したから、反映できてない部分も多いし、熱田神宮の七本の宝剣の話とか書きたい話は多いけど人気で無さそうなんだよなあ……


 読者の皆様に、大切なお願いがあります。

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「続きがきになる!」

「主人公・作者がんばってるな」


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