第13話 ローヴェリア侯爵家へ

 あーあ、子犬のようなお父さまに絆されて、ローヴェリア侯爵家に来てしまった。


 アンディお兄さまの十五歳のお誕生日パーティーにお呼ばれしたのだ。

 それに合わせて一週間、侯爵家にお泊まりすることになってしまった。それというのも……お父さまが、「ね? ね? いいでしょう? リチェル。アンディも誕生日だし、折角だからうちにお泊まりしてね。リチェルお願いだよ。パパはリチェルが大好きで、本当は一時も離れていたくはないんだ。でも、ほら? 我慢しているでしょう? 偉いでしょう?」と、何時にも増してウルウルの瞳でシュンとしながら懇願してきたのだ。


 大の大人が泣き落とし……

 しかも、アンディお兄さまの誕生日をだしに使っているのがまるわかり。


 お母さまとルイスは、「甘やかすのはよくありません!」って、言っていたけれど、何だか、お父さまが情けなくなっているのが、可哀想になってしまって、お誘いをうけてしまった。

 それに、お父さまが、お母さまに言い訳をしているのを偶然聞いてしまったの。


 お父さまは……

 もう長く生きられないことを悟った奥さまから、『貴方は、さみしがり屋なのですから、私が逝った後に泣き続けることのないように、後添えとなる女性を見つけてきなさい! 良いですね! 私が生きている内にですよ!』と、一喝されていたそうで……たまたま職務中に知り合ったお母さまといい仲になったのも、奥さまの気持ちを汲んで突っ走ったところもあったみたい。とはいっても、その時点でお母さまに、奥さまのことを告げなかったのだからアウトなのだけれど。

 

 だからね、自分たちのお母さまが望んだことだったから……お兄さまたちには、私たちに対して蟠りがなかったみたいだったの。


 



 侯爵家に足を踏み入れた途端、私は、来たことを後悔しそうになった。


 ずらっと執事やメイドが勢揃いで両脇にならんでいた。

 その中心にはお父さまとお兄さまたちがいて……


「「「リチェルお嬢さま、お帰りなさいませ!」」」


「リチェル! お帰り! パパは嬉しくて……ウッウッウッ」


「リチェル、待っていたよ。お帰り」


「リチェル、お帰り! 来てくれてありがとう!」


 って、挨拶されてしまった。


 ……いやいや、帰ってきたわけじゃないです。

 侯爵家の皆さまに圧倒されて、私は、顔が引きつりそうになった。


「……あの、リチェル・ミルフィーエです。よろしくお願いします」


 戸惑いながらも、なんとか笑顔で挨拶すると、ざわめきが起こった。


「「「なんてお可愛らしい!」」」


「ああ! 私のリチェルは可愛いすぎるね! パパの心臓を止めるつもりかい? いいよ? リチェル! 本望だ! さあ! 止めてごらん!」


 ……なんだか、お父さまが可笑しくなっている。


「私の妹は立派すぎるね。そして、愛らしい」


「可愛いリチェル! ここは、リチェルの家でもあるのだから、もっと気楽にしていいんだからね?」


 ……大歓迎ムードに何だかムズムズして居心地が悪い。



 すると、レオンは私の右手をアンディは私の左手を手に取った。

 

「リチェル、本当に来てくれてありがとう」


 二人は、とても嬉しそうに笑った。

 

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