夢見来/yumemirai
十名 武
見来のはじまり
初夏の休日の早朝。
丹沢登山の玄関口である県立秦野戸川公園の風の吊り橋の上から、川遊びのための小さな日よけテントの準備に忙しい家族連れを見下ろしていた。
一年前には想像もしなかった、現実に起こったとはとても思えない、まるで夢の様な出来事を思い返し、これからの「見来」はどうなるのか……。
脳裏に宿った不思議な映像と感覚を、純粋な感情と共に受け止めていた。
今日の天気なら山頂の景色はきっと最高だぞ。
気持ちを新たにし、登山靴の紐を縛り直す。
「この暑さだと結構きついけど、頑張って頂上目指しましょう」
連れに声を掛け、自分にも気合を入れ、公園を後にした。
出世欲もなく、結婚願望もなく、まったく将来に夢を持たずに人生をのほほんと生きている、「
会社で建築模型設計の仕事を日々淡々とこなし、プライベートではゲーム三昧の平凡な毎日の繰り返しであった。
一年前のある日ベットの中で、幼少期にレゴブロックを組み立て、おじいちゃんおばあちゃんに「はい」と届けては、「よくできたね」と何度も褒められている懐かしく面白い夢をみる。普段夢の内容はすぐ忘れてしまうが、何故か鮮明に覚えていた。
翌日、昨日見た夢の続きが見たいと願いながら眠りについた。
期待通りに、小学校の時に自身の作ったミニチュア模型が創作デザインコンテストで賞を貰い家族からメチャクチャ褒められる内容で、もし現実に起こっていたら、きっと楽しかっただろうな…………思いを巡らしていた。
時々見る夢が、段々と現在の
そんな航は、自身の潜在意識が反映する楽しい夢の中の映像を、見た通りの場面が現実に来ることから、未来にかけて「
やがて、「見来」に登場する映像と現実のストーリーとの間で、想像もしなかった未来「見来」へと展開していく……。
大規模な工場の撤退に伴う川崎の臨海部の広大な跡地に、日本の国内における国際観光拠点として、壮大な計画案が紆余曲折を経て決定した。
羽田空港にも近く、東京や横浜といった観光名所への利便性もよく、ディズニーリゾートへはシーバスを使えば短時間で移動可能な観光拠点として最適な場所である。
第一次計画は宿泊施設の建設とインフラの整備。第二次計画は大規模商業施設と総合レジャー施設の建設を予定し、第一次計画の宿泊施設エリアの敷地内にランドマークとなるような大型ホテルを建設する事になった。
そこで市は、市民への周知目的と市民参加の思惑で「国際色豊かなゲストが集う観光拠点」をテーマにしたアイデアを幅広い層の市民に募集した。
一般市民からは、市の運営する公共施設に意見箱を設置し、ネットでも気軽に提案できる様にし参加を促した。
企業、団体向けにはコンテスト形式での選考会を開催し、具体性・実現性に富んだ企画を公募した。
そんな中、航の勤務する川崎市に本社を置く中堅ゼネコンでも、この選考会に参加する為の社内コンペが始まる。
ある日、直属の上司の屋敷課長が航の所に近寄ってくるなり、資料を振り向きざまの航に渡した。
「えんしゅうさん。この社内コンペの企画書作って」
課長は航のことをあだ名で「えんしゅうさん」と呼んでいる。
航は、人付き合いが苦手で、普段は寡黙で大人しいが、真面目な性格で酒を飲むと気が大きくなり饒舌になるタイプ。過去に何度も失敗している。大学で建築設計を勉強し、昔からミニュチア模型が好きで、建築模型を専門に手掛ける部署を希望しこの会社に入社した。
営業や広報・企画部署でないので、特にプレッシャーもなく、命令なので、やる気のない中、仕方なく企画書作成の準備に取り掛かる事となった。
航の両親は、小さな居酒屋「
航と海は、一人暮らしをしており、休みの前にはたいてい「笑集」に立ち寄り自宅のように飲食させて貰っている。
何かにつけ、両親と妹を頼りにしている航は、今回の企画のアイデアについても相談していた。
そんなある日、海からの提案で「世界一のバーを作れば」との言葉から、とんでもない物語が始まる…………。
酒を飲み強気になり壮大なスケールの想いを巡らしていた航は、その夜「見来」の中で、巨大なバーカウンターの建築模型の中で世界中の人々が笑顔になっている、摩訶不思議な楽しい映像を観ることになる。
その夜を境に、「見来」の中で今後の出来事を暗示するような不思議な映像を見ることになる航だが、現実との狭間で様々な困難と喜びを味わうこととなる。
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