マチカドの泡沫
花園眠莉
マチカドの泡沫
ここはマチカド。
生も死も分からないところ。
これはそんなところにたどり着いた一人の少女の話。
彼女は何となく見つけた廃れた水族館に来ていた。彼女の持ち物は携帯だけ。寧ろ、なぜ携帯を持っているのかも分からなかったが気にしないことにした。
彼女は携帯のライトを照らし室内に入っていく。元々営業している水族館は暗いが光はある。しかしここは全く光が無く、人によっては怖いと感じる人もいるだろう。けれど彼女には光の無い水族館は神聖に見えていた。上機嫌に鼻歌を歌って生物のいない水槽を見ている。
奥に進んで、階段を登って少し進んだ先には円柱の水槽が並んでいた。その中の一つにふわふわと浮かぶものが見える。彼女は駆け足でその水槽に向かった。
浮かんでいたのは海月だった。
「海月だ。」円柱の上の方からはぼんやりとした光が降り注いでいる。その中で何を考えているのか分からずふわふわ浮かんでいる海月は彼女を酷く喜ばせた。
「なんでここにいるんでしょうね。」なんて誰に話しかけるでもなく呟いた。そしてそっと海月の水槽に手を伸ばして触れる。海月はそんなことも知らないまま相変わらず水に浮かんでいた。
「私ね、ここに来てから話し相手がいなかったの。だから今は貴方達が話し相手になってね。……私ね、ここに来る前も来た後も一人だったの。一人が嫌いなわけじゃないけど、どのグループにも上手く馴染めなかった。でも、家にいる時は海月が話し相手になってくれていたから寂しくはなかった。うん、寂しくはなかったよ。」言葉を詰まらせて彼女は俯いてしまった。彼女が黙ってしまえば何の音も無い。体感二分程度が経ったであろう時、彼女は再び話し始めた。
「本当はお友達が欲しかったなぁ。皆でわいわい出来るような友達が欲しかった。海月達は私のお友達だったんだけれどそうじゃなくて…。なんてもうどうしようもないことを言っても意味ないのにね。もっと友達作ろうと頑張ればよかったのかな。……でもさ、私なりに、私なりに頑張ったんだよ?」彼女は彼女なりの過去の努力を思い出して涙を零した。
「……まだ私を変えないとだめだったのかな。これ以上変えたら私じゃなくなっちゃうのにね。」乾いた笑いをこぼしながら天井を見上げた。天井には彼女の影がゆらゆらと映っている。
「あーあ、私も海月みたいに海に溶けて死んじゃいたい。」彼女はそのまま目を閉じて深い眠りについた。
ここは待ち角。
誰かを、何かを、死を待つ所。
友人も、居場所も、希望も全て捨てた人しかいない。
マチカドの泡沫 花園眠莉 @0726
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