序盤で焼かれるエルフの村に転生した。死にたくないので死にものぐるいで強くなる

年中麦茶太郎

第1話 ふと気がつくと序盤で焼かれるエルフの村だった

「うわぁ……このままじゃ私、二百年後に焼死するじゃありませんか」


 ロザリアは生まれ育った村を眺めながらふと呟いた。


 やたら時間のスケールが大きいのは、長命種たるエルフゆえだ。


 二百年後の予言ができるのは、前世の記憶が蘇ったからだ。


 ロザリアの前世は日本人で、二十代の女性。一人暮らしの会社員だった。

 地獄の三十連勤を乗り越えて、やっと辿り着いた三連休。

 絶対に休むと半年前から決めていた。休めなかったら暴力も辞さない覚悟だった。

 なぜなら、ずっと楽しみにしていたゲームの発売日である。

 パッケージ版を予約したが、届くまで待ちきれない。結局、DL版を買って日付が変わった瞬間に開始。

 徹夜でプレイし続け、急に心臓が痛くなり、息が苦しくなって、意識が飛んだ。


 その記憶を今、思い出した。

 どうやら異世界転生したらしい。

 なにせ耳が尖ったエルフである。その時点で地球じゃないのは明白だ。

 もう百歳になろうというのに、見た目は小学校低学年。老化が極端に遅い。千年とか二千年とか平気で生きる。それがエルフという種族だ。


 ロザリアの家族は両親と、妹。それに自分を加えた四人暮らし。

 全員美形だが、ロザリアたちが特別というわけではない。

 このウィスプンド村のエルフがみんなそうだった。


 美形で長命。

 まことに結構な話だ。

 森に囲まれた村は平穏そのもの。

 ロザリアは幸せに暮らしていた。

 だが、それも二百年後に終わる。


 前世で死ぬ直前にプレイしていたゲームは、エルフが暮らすウィスプンド村が邪教団によって焼かれる場面からスタートする。

 その炎の中で唯一生き残った主人公が、復讐の力を求めて魔法学校に入り、仲間を増やしたり、恋に落ちたりする乙女ゲーム。


 主人公の名前は、イリヤ。


 ロザリアは、冒頭で死ぬイリヤの双子の姉である。


「お姉ちゃん、一緒に遊ぼ」


 と、天使のように可愛いイリヤが駆け寄ってくる。

 名前が一致しているだけでなく、容姿もゲームと同じだ。

 村の風景も、見覚えがある。

 ここまで同じなら、歩む歴史だけが違うなんて考えにくい。

 おそらくロザリアは三百歳の誕生日に、村人たちと一緒に焼死する。


 嫌だ、死にたくない。

 それから、イリヤに過酷な運命を歩ませたくない。


 あのゲームでイリヤは、どのルートを選んでもボロボロだった。

 邪教団との戦いで命を落とす結末もあった。

 プレイしながら「もう休んでいいんだよ」とボロボロ泣いてしまった。


 あんな戦いを妹にさせるなんて無理だ。

 もはやロザリアにとってイリヤはゲームの主人公ではなく、可愛い妹。

 守るべき対象。

 邪教団を必ず返り討ちにして、妹を守るのだ。


 そう決意したロザリアは、ウィスプンド村の図書館にこもって、独学で魔法を学びまくった。

 二百年はあっという間だった――。

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