おまけ《ルーカスと大理石》
その後。
リラは、なんとか屋敷に辿り着くと、数人の下僕を呼びつけて、ルーカスを馬車から引きずりおろした。
移動中は、ルーカスは馬車の揺れのせいで、更に酔いが回ったのか、時折、うっぷと具合が悪そうにしていた。
(この酔っ払い。粗相でもしたら、その場で捨てていくんだから!)
せっかくクライヴから頂いた上物のドレスなのだ、なんとしても死守しなくてはならない。
リラは屋敷に辿り着くまで気が気でなかった。
そんなことは梅雨知らず、もうすぐ屋敷というところでルーカスは、ガーガーと高いびきをかいて眠ってしまった。
「お嬢様、これは一体…。」
帰宅の出迎えをしに、玄関ホールに来た侍女頭と執事が慌てふためいた。
長年仕えるふたりでも、ルーカスのこの醜態ぶりは初めて見るのだろう。
「ただの酔っ払いです。そこらへんに捨て置いておいてくださいませ。毛布も不要です。」
リラはそうきっぱり告げると自室へ向かうために玄関ホールの階段を登ろうとした。
「けれど、お嬢様…。(やりすぎでは?)」
侍女頭は、何かもの言いたげに心配そうな表情を浮かべるが、リラからするとこれでも足りないくらいだ。
どんだけ振り回されたと思っているのだ。
路上でも、馬小屋でもなく、室内なのだから、なんて寛大な妹なんだと感謝してほしいくらいだった。
「決して、お兄様を自室などに運ばないでください。悔しかったら、自分で歩けばいいのだわ。(明日はたっぷりお話しを聞かせてもらわないと。)」
リラは、ルーカスを睨みつけながら、そう言い残すとすたすた歩いていった。
深夜。
玄関ホールに、そのまま放置されたルーカスはあまりの寒さで目を覚ました。
起き上がると、頭はがんがんし、お望み通りめでたく二日酔いであった。
「寒い…。」
あまりの寒さにルーカスは身震いしながら、そう呟いた。
時刻は丑三つ時を回った頃、誰もが眠って寝りかえっていた。
屋敷内は薄暗く、廊下にわずかばかりの明かりが灯してある程度だった。
本来は、すべての火を消してから就寝する。
これは、侍女頭のせめてもの配慮だろう。
ルーカスは寝ぼけた頭をかきながら今の状況を整理していた。
今頃、皇宮のふかふかベッドの予定だったのだろうか。
それとも、自室のベッドの上だったのだろうか。
せめて、サロンの上等なソファの上と予想しただろうか。
どうやら、ここはそのどれでもなく自宅の玄関ホールの冷たい大理石の上らしい。
リラの言いつけに反し、心優しい侍女頭が毛布を一枚かけてある程度で、まだ寒いこの時期をここで安眠できるわけはなかった。
「はは。やられたな。」
ルーカスはなんとなく状況を察したのか、そう呟くと、誰もいない階段をひとりよたよたと登り自室へと向かった。
しかし、辿り着けたかは、定かではない…。
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