世界は、たまにおかしい
桜桃(さくらんぼ)
第1話 諦めた時に人は何を食べたくなるのか
2020.7
この世界はおかしい。
夕方、窓から見えるピンクと赤と黒が入り混じったような
変な色の夕焼けを見ながら俺は思った。
でもきっとおかしいのはこの世界じゃなくて、俺。
どこかでこの空を見て「きれいだ」と思えるやつがいるんじゃないか。
思い切って東京に戻ってはきたものの、
何一つ目的のないまま生きている。
「…あぁー。」
最近、俺は何のために生きてるのかわからなかった。
死にたいくらい辛いことがあるわけではない。
でもこんな日々がこの先何十年続くんだと考えたら
ここで終わろうと爺さんになって終わろうと変わらない気がした。
” 苦しくない死に方 ”
スマホで検索しかけた俺は手を止める。
「…あー。死ぬことにさえ楽を求めんのかよ。」
馬鹿らしすぎて、少し笑えた。
結局なんもできないんだな、俺。情けねー。
数秒で変わる夏空の色を横目に再び検索欄へと目を移す。
” 死ぬ前に食いたいもの ”
「人生の最後に食べたいものランキングトップ10!」という怪しげなサイト。
トップ10かぁ。
1日1食で最低あと10日は生きねーと。
てかこれ、誰の基準のランキングなんだ?
そんなことを考えながら画面のスクロールをする。
「おっ。まじかよ!」
近所のラーメン屋がトップ7にランクインしていた。
爺さんが1人で切り盛りしていた古ぼけたラーメン屋、
小さい頃父親に連れられてよく行ったが、
小3で地方への引っ越しをきっかけに行かなくなった。
最後に行ってから…もう約13年か。
とはいえ死ぬまでに食べたいものに選ばれるとは相当な味なんだな。
そう思うとすぐに腹は減ってくる。
さっきまで人生の終わりを考えていても腹は減るんだな。
「行くかぁ」
さっきより少しだけ軽くなった気持ちで立ち上がる。
寝ぐせでボサボサの髪の毛とジャージ姿の情けない自分を確認したが、
今は早くあの爺さんのラーメンが食いたかった。
もうどうせ俺のことなんて覚えてないだろう。
俺はそのまま、家を出た。
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