第12話 レオンハルトの策略(3)
究極過ぎる2択を突き付けられた俺は、少し深呼吸をすると、確認するように口を開いた。
「あの……ちなみに――なぜ、他国の令嬢なのですか? この国の令嬢ではダメなのですか?」
俺の言葉を聞いたレオンハルトは、呆れたように言った。
「当たり前だろ? お前は16歳になったら、正式に私の婚約者として皆に発表されるのだぞ? もしも、この国の令嬢がお前と恋に落ち結婚ということになってみろ。その娘は大公になる私から婚約者を略奪、さらに婚約破棄をさせた悪女ということになり、恐らく、この国では生きてはいけない。まぁ、そうなる前に『お前が、誰か特定の相手と懇意になった』と、王家の諜報の者の耳に入った瞬間、相手が消される可能性もある」
未来の大公閣下の相手を略奪、そして婚約破棄?!
誰かと親密になった時点で、消される?!
それは、随分と恐ろしい話だ。そんな恐ろしいこと、分別のある令嬢ならしないだろうし、俺も女の子にそんなことさせたくない。だが……それならば、他の国の令嬢は、いいのだろうか?
「レオンハルト殿下、それならば、他国の令嬢はいいのですか?」
俺が尋ねると、レオンハルトは、すぐに答えてくれた。
「ああ。ルークの相手が、他国の高位貴族の令嬢であるならば話は、全く変わってくる。公爵子息のお前が、どこかの国の高位貴族とくっつけば、国同士の繋がりができる。それは我が国にとって、かなり喜ばしいことだ。それなら王家も公爵家も喜んで、私との婚約を破棄して、お前を他国に婿にやるだろう。だからこそ、ルークの相手は他国の高位貴族の令嬢でなければならないのだ」
なるほど、外国との繋がり。それで、高位貴族の令嬢を落とせとレオンハルトは言ったのか……。それならば納得だ。
「あれ? それならば、レオンハルト殿下が、他国の高位貴族の令嬢と仲良くなれば、全てが上手くいくのでは?」
それならば、レオンハルトが他国の高位令嬢と結婚しても他国と繋がりが出来るので、俺との婚約を破棄されるはずだ。
素晴らしい提案をしたにも関わらず、レオンハルトに凍てつくような視線を向けられてしまった。
「よく考えてみろ!! 私が他国の高位令嬢などとくっついたら、他国と組んで王座を奪還しようと目論んでいると、謀反を疑われるだけだろうが!! 許可される訳がない。それに……私は兄に何かあった時のスペアだ。外に出されることもない。少なくとも……兄の子供が18になるまでは、この国で飼い殺しだ」
他国と組んで謀反……。
確かにそう思われても仕方ない……でも、それは……全く気づかなかった。
しかも、次期国王のベルンハルトの子供が18歳になるまで飼い殺しって……。大変だな……王家の次男も……。
「つまり……。俺が他国の令嬢と懇意になるしか方法はないと……」
「まぁ、イサークとお前の関係が最悪になるという手もあると言っただろう? 私はどちらでも構わない」
兄と最悪の関係……。
正直なところ、父には、俺という存在は無視されているようなので、父に俺を切り捨てさせるという判断をさせることは、そう難しいことではないように思った。
だが……。
短い時間だが、これまで一緒にいた兄のイサークは、どちらかと言うと兄バカと言われる人間のように思えた。イサークは、俺が入れ替わるまでのルークの嫌がらせにあまりダメージを受けていた様子はなかった。それどころが『自分が悪かった』と泣きついてきたほどだ。だからこそ、漫画の中のルークも女の子に媚薬を飲ませたり、服を破いたりと恥辱することで、兄に嫌われようとしたのだろう。
だが、兄のイサークは、ずっとルークに冷たい視線を投げかけながらも、漫画の3巻までルークの悪事を許したのだ。つまり、あの人は、3巻分のルークの悪事を許し続けたのだ。その間、エロいことをされるために登場した女の子は、俺が覚えているだけでも両手を使うほどだ。それほどの人数に悪事を働いても、兄はルークを許すほど、弟のルークに甘いのだ。だから漫画の中のルークは、最終的に牢に入ることになるほど、罪を重ねてしまったのだろう。
幼少期に木刀で向かって行った時点で、兄がルークを嫌ってくれていれば、話は簡単だったのに!!
兄よ、どれだけルーク大好きなんだよ!!
――でも、俺も……自分をとても可愛がってくれている兄に、かなり絆されている。今更、あの人から徹底的に嫌われるなんてことができるだろうか?
俺はぐっと両手を握りながら言った。
「レオンハルト殿下。俺、他国のご令嬢と結婚できるように頑張ります」
レオンハルトがニヤリと笑いながら言った。
「まぁ……当初の予定では、問答に無用で公爵家から絶縁してもらう予定だったのだが……ルークが努力するというのなら様子を見てもいい」
そして、レオンハルトは鋭い視線を向けながら言った。
「いいかルーク。16歳になっても、お前に見込みがなければ、お前には公爵家から絶縁してもらう。如何なる手を尽くしてもな」
レオンハルトのまるで獲物を狙う猛獣のような視線に冷や汗が流れた。心臓が早いのに全身に冷たさを感じる。凍り付きそうな身体を溶かすように俺は、あえて大袈裟に言った。
「やります。俺だって、可愛い女の子と、結婚する未来が欲しいですから」
「そうか……」
レオンハルトは、口角を上げると、再び口を開いた。
「16歳になり、私とお前が社交界デビューをしたら、私は正式に外交を任されることになっている。その時、お前を側近として同行させる。かなり多くの令嬢と知り合える機会があるはずだ。そうなったら……他国の令嬢を……きっちりと落とせよ?!」
俺はレオンハルトの言葉にまたしても、唖然として聞き返した。
「あの……レオンハルト殿下? 今、なんと?」
「きっちりと落とせと言ったが?」
俺は、大きく手を振って、身体を乗り出しながら言った。
「いえいえ、今、俺を側近にするとかなんとか、言ってませんでした?」
俺は『婚約者』とは聞いていたが、『側近』とは聞いていない。
確か……将来、王族の側近になるのは、9歳になる時に、厳しい『側近候補』試験があると言っていた。そして、試験に合格すると10歳になると、レオンハルトと一緒に勉強が始まるのだ。
側近にならなくても、試験を受けて、側近候補になるという貴族もいる。知識に、教養、マナーに剣術という貴族にとって必要な知識を、王子と一緒に学ぶことができるし、王子との仲も深めることが出来るので、高位貴族にとってこの側近候補はかなり魅力的だ。その分ライバルも多いのだが……。
ちなみに兄のイサークは、すでに側近候補の試験に合格しているので、詳しく話を聞いたのだ。
そして側近候補は15歳の時に、正式な側近の試験に合格すると側近になれるのだ。王子の側近になるためには、この世界の超難関試験が2回。ちなみに兄は、公爵家を継ぐ必要があるため、15歳で行われる側近試験は、受けないらしいが……。
――俺、それを受けるの?!
『どうか、違うと言ってくれ』という願いを込めて、レオンハルトを見ると、彼は非常にあっさりと言い放った。
「ああ、そっちか。確かに言ったな」
間髪入れずに、レオンハルトに聞き返していた。
「俺、側近になるんですか? 仮の婚約者ってだけではなく?」
「そうだ。外国の高位貴族の令嬢と懇意になりたいのだろう? そのくらいの肩書は必要だ。推薦状は用意してやるから、試験に受かれば問題ない」
問題……ないのだろうか?!
――他国の高位貴族の令嬢と懇意になる。モブ人生を送ってきた自分に随分とハードルの高い条件が付けられてしまったと思ったが、それだけではなく、俺はレオンハルトの側近にまでなる必要があるらしい。
今世が、厳し過ぎる……。
俺は自分の未来をすでに重い感じていると、レオンハルトがソファーから立ち上がり、俺を見下ろしながら言った。
「ふっ。私も出来る限り協力はしてやる。家庭教師も用意するし、私も一緒にお前の勉強や剣術にも付き合おう。お前の――」
そしてレオンハルトは、俺の隣に座るとニヤリと笑った。
「お前の必死に、もがく姿は嫌いじゃないからな。これからもすぐ近くで見物することにする」
は?
俺のもがく姿?
うっわぁ~~?
この人やっぱり、腹黒王子だね。
性格破綻してない??
俺が、怖くなって少し距離と取ろうとすると、レオンハルトに肩に手を回されて、逃げられなくなった。
「逃げるな。私は苦しそうにしながらも、必死で私から逃れようとするお前を絶対に捕まえたいと思った。だから、これからもどれだけつらくて逃げようとしても……必ず捕まえるから、覚悟しろ」
きっとその時の俺は白目むいていただろう。
俺、ルーク。7歳の――未来の上司兼、仮結婚相手が鬼畜過ぎる!!
「善処します……」
こうしてその日から、俺は腹黒王子様監視の元、無謀な挑戦が始まってしまったのだった。
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