天穹は青く

梅林 冬実

朝が来て

8階建てのビルの屋上。展望のいいこの場所からは、広い街並みが見渡せる。

夜が明けて暫し。雲はまだらに浮かんでいる。

隙間から覗く薄い青はじき、その色を深め一面に広がるだろう。雲はどこかへ消えていく。太陽が威力を増し、人々はヒステリックな暑さに圧されながら、各々の役割を果たす。


色んな人。色んな服。色んな方向。色んな仕事。

様々な命が様々に時を彩る。

夏の朝はいい匂いがする。これ以上ゆるり過ごすわけにはいかない。太陽はすぐ天穹の中央に座する。


「今日も暑くなりそうね」


男の子は空を見上げている。瞳をほんの少し緩ませて


「そうだね」


心が解れる。とても不思議な、男の子。

ユカよりよほど背が低いのでちょっと見下ろした程度では、緩いウェーブのかかった少し長めの黒髪と丸みを帯びた鼻先、柔らかそうな口元が覗ける程度だ。


 彼がユカの元を訪れた日。慰めてくれるわけではないのにユカの涙に心寄せてくれていることが伝わってきて、ユカは涙が枯れるまで泣いた。

泣きすぎてこめかみに疝痛が走る。次第に座っているのも辛くなり横になる。

その子は跪いて、ユカの目に小さな手の平を翳した。

深い闇がユカを覆う。とても心地いいと感じてユカは、するり眠りに落ちた。

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