第96話 天海学院

株式会社ガーベージ。


今や、全世界で活動中の大企業である。


その業務内容は、人員と物資の輸送という普遍的なもの。


ただし……、社用の輸送機は、トラックではなくワイバーンだ。




俺が作ったこの企業は、世界規模で活躍している。


輸送機であるワイバーンは、オスプレイなんかよりずっと凄いぞー。


確かに、最大速度は500キロと遅めだが、巡航速度はオスプレイとほぼ同じ。


生物であり、もちろん垂直離着陸可能。


その上、航続距離は無補給で一万キロを超える!


補給については、1kgほどの魔石を与えるだけで数日動ける!


ついでにブレスも吐ける!


こいつぁお得だね、近所のみんなにも教えてあげよう!


……さて、それで、そんなオーバースペックの輸送機を何に使っているのか?


地方都市との物資のやり取り?もちろんそうだ。


人員の輸送?ああ、そうだな。


制空権の確保?まあ、そんな意図も多少はある。


でも実際、一番使っているのは……。


春先の街を見る。


「グロロ……」


「キィー……」


「フシャー……」


街には、人間と同じぐらい溢れる亜人。


ああ、そうだ。


我が社、運送会社ガーベージは、亜人とのやり取りがある。




亜人。


エルフだとか、ワーウルフだとか、ラミアだとか、その辺の種族。


亜人は、人間と比べるとレベルが高く、独自の生存域を確保しているケースが非常に多い。


例えば、福島県の安達太良高原。


ここにはスキー場があるのだが、その建物には現在、イエティ族が住み着いている。


北海道、ナイタイ高原。


ここには牧場があったのだが、牛馬は全て近所のケンタウロス族に確保され、こいつらが建物に住み着いている。


沖縄県那覇市。


沖縄県周辺は、マーメイド族の住処となっている。


つまりは、そんな亜人達と、物資や人員のやり取りがあるのだ。


現在、日本の人口は恐らく、一千万人から三千万人ほどと言われている。


それは、石油を使わずに養える人間の最大の数なのではないか、などとも言われているな。


江戸時代の日本の総人口が三千万人くらいだから、一千万人から三千万人の間というのは恐らくは間違っていないだろう。


ただ……、その人口とは別に、亜人が存在している。


亜人の数は?


亜人の数は……、『天海学院』の調査によると、日本には最低でも一千万人は存在するらしい。


下手したら生存している人間と同じくらいの数だけ亜人がいるのだ。


うんまあ……、それを見て、金の匂いを嗅ぎ付けられないような奴は、商売人を名乗る資格はないよね、って訳よ。


そんな訳で、俺は、亜人とも交易を始めて、天海街の経済圏に組み込んでやった。野蛮人共は光栄に思って感謝してほしいね。


もちろん、経済という概念がない種族も存在しているので、問題は起きているが、それをどうにかするのは俺の仕事じゃない。


経済圏を広げ、利権を独占し、上前をはねる。これが俺の仕事だ。


その結果、経済活動に馴染めない亜人が困窮したり身持ちを崩したりしようと、金銭を狙った事件が起きようと、俺の知ったことではない。


まあ、社会の存続に関わるくらいの、あまりにも大きな事件が起きるようなら適度に介入するが……。


とにかく、俺は俺の仕事をやっている。




それで……、先程、『天海学院』と言った。


そうだな、うん。


作った。


以上。


……と、言いたいところだが、もう少し説明しておこう。


まず、天海街の隣町である『地陰街』という都市がある。


ここは、揚羽、羚、昌巳が通っていた附属高校と大学がある都市なのだ。


そこの校舎を大幅に改修して、特大の学院とした。


学長は、この大学の学長をそのまま使う。


また、現在は、亜人の各国の部族から、賢人達が留学に来ている。


公営の組織で、研究費と給金の類は天海街の元老院から降りてくる。


そこで、今最も注目されているのは……、人類学者である大倉教授の『亜人研究会』と、それに関する国営の機関『亜人局』だ。


亜人研究会では、大倉教授が招いた亜人の賢人達から、多くの知識を共有し、書物に編集して保管するという研究会だ。


各部族の賢人(人間であれば教師や教授)が集まって、定期的に他の部族の生存圏に足を運び様々な調査をする。


また、賢人達は生徒としても活動しており、定期的に開催される他の賢人の授業などに出席するそうだ。


今現在は、人間の文字を読むための学習会がアツいらしい。


それだけじゃなく、この大図書館には沢山の人が集まって、色々とディスカッションしている。


見て飽きない空間だ。


亜人局は、国営の、亜人の社会生活をサポートする団体だな。


例えば、金銭の使い方や人間の街でのマナーなどについて教える講習会なんかをやっているそうだ。


これは、俺が国に要請して金を出させた。


「おや、羽佐間さん!いらっしゃったのなら挨拶したのに!」


ディスカッション中の大倉教授がこちらに手を振る。


「ああ、いえいえ、ちょっと様子を見に来ただけなんで」


俺は手を振り返す。


「いやいや、どうぞこちらへ!」


呼ばれたので行ってみると……。


『これはこれは!タツ陛下!』


『陛下!』


『おお……!このような場をお作りになるとは、さぞや偉大なお方であると思っていたが……!』


『こ、これは!隠されてはいますが、奥に眠るのは……、何たる魔力なのかしら!』


『素晴らしい武人でいらっしゃると聞き及んでいましたが、まさかこれほどとは……!』


亜人達に代わる代わる挨拶される。


『ワーウルフのヴルルだ』


『ケンタウロスのミーシャです』


『エルフのヤーヤです』


『アークデーモンのバジーラでございます』


『ラミアのカリリアよ』


『エントのパロブロですぞ』


そんな名乗られても困るんだがな。名前を覚えるつもりがないから。


「で?何の話をしてたんです?」


俺が訊ねる。


「はい、今回は、亜人種の色彩感覚について色々と調査していたところです」


あー?


「虹は何色か、みたいな話ですか?」


日本人は七色と答えるが、国によって色を表現する言葉がない地域がある、とか。


台湾なんかでは虹は三色と答えるらしい。


「はい!面白いことに、色彩感覚が豊かな種族……、例えばエルフ族なんかは、虹は十四色あると言います。しかし、ワーウルフは二色だと言うんですよ」


ふーん、面白い話だな。


「ワーウルフはアレじゃないですか?犬と一緒で、青と黄色しか見えてないとか」


「流石は羽佐間さん!ご名答です!そうなんですよ、ワーウルフは青と黄色しか見えない種族なんです!また、動体視力は高いけれど、視力そのものは低く、嗅覚が敏感なんですね!」


なるほど……。


「そうだ!羽佐間さんは、経済学部の修士をお持ちだとか?」


「ええ、そうですが」


「折角なので、数学に関する講義とか……」


んー?


まあ、いいか。


「少しだけなら……」


という訳で、統計学のほんの触りの部分、グラフの書き方と読み方を教えた。


エルフ、エント、エンジェル、デーモン、ヴァンパイア、メカノイド辺りは、似たようなものを知っているらしい。


会社でやっていたニューラルネットワークと統計解析についての話をした時、殆どはギブアップしたが、数人のエルフやメカノイドはついてきて話を聞いて、そこそこに理解したようだ。


「ふむ……、信号を受け取って回答を返す『脳細胞』をモデル化し、それを電算機に代替させ、擬似的に人間のような学習能力を発揮させる、とな?実に面白い!」


「っと、少々急ぎ過ぎたようだ。この話は難解で、理解できない方も多いでしょう」


「まあ、確かにのう。じゃが、妾はそこそこに理解した。できれば、関連書籍などを読んでみたいのじゃが?」


「ああ、はい、これで良ければ差し上げます」


「なんと!いくらじゃ?」


「タダで良いですよ」


「おおっ!気前の良い!陛下がこのように、国内の賢人に多額の資金を提供してくれる上、貴重な書籍までくれるとは!誠に賢王であらせられる!このアジール、感服した!」


そんな感じでロリババアエルフとやりとりをして、俺は学院を去った。

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