第94話 冒険者対BIG4 中編

私、五条院椿は、『黄昏の魔女』である。


けれど、そんなものは、BIG4の前では何の意味もありませんわ。


「『黄昏の魔女』、五条院椿さん?聞いていたよりとても素敵な人だね、驚いたよ」


「あ、ありがとうございます……」


私の相手は、『アルスマギカ』、アーノルド・ガルシアさんだった。


究極の大魔導師……。


軽薄に笑って見せていますが、それは表面だけ。


何より恐ろしいのは、その力が全く読めないところです。


私達、魔導師は、ステータスには記載されていませんが、相手を見ればどれ程の魔力を持つかを察することができるのです。


魔力は万物に宿ります。


老人から小さな子供にも一定の量の魔力があり、草木や動物、虫にすら魔力はあるのです。


あまり大声では言えませんが、私ほどの魔導師にもなれば、相手の得意とする属性や、苦手な属性なども何となくわかります。


しかし……、BIG4からは、魔力が一片たりとも感じられないのです。


草木や虫にすら宿る魔力が、全く、一切感じられない。


それが、本当に恐ろしい……。


「あの、もしもーし?」


「へあっ?!あっ、あ、はいっ!」


「そろそろ始めようか、かかっておいで」


「い、行きますっ!」


ああ、始まってしまう。


こうなったら仕方がありませんね、せめて、無様な姿を晒すことのないように、力を出し切りましょう。


「焔火よ、燃えよ!『ファンクション:リムファイア』!!!」


三千度を超える熱線ですわ!


これで様子を見る……、なあっ?!!!


「ふん」


す、素手で弾いた……?!


「おいおい、様子見はやめなよ、全力でやった方が良い」


「〜ッ?!!『ファンクション:コロナボム』!!!」


軍用プラスチック爆弾を超える威力の爆轟を放つ!!!


「目眩しかな?」


効いてないのは想定内ですわ!


「太陽よ、遍くものを照らすものよ、地に墜ちたまえ、焼き尽くしたまえ!『ファンクション:プロミネンス・ノヴァ』ッ!!!!」


魔法で作り出した小さな太陽をぶつけます……、殺す気で。


殺す気でやらないと、殺されるかもしれませんから。


死んでも恨まないでくださいね……!


「へえ!やるね!じゃあ、僕も少し見せようかな。『プロビデンス:クリエイトマジック』、『プロビデンス:燎原の火』」


「なっ……?!!!」


黄金の火球……?!!!


ああっ?!!!


アーノルドさんの黄金の火球は、みるみるうちに膨れ上がり、私の太陽を『燃やした』!!!


火を燃やす炎?!あ、あり得ないっ?!!!


でも、どの道、もう打つ手がないわ……。


「こ、降参です!」


「素晴らしい、黄昏の魔女とは名前に負けてなかったね!グッドゲーム!」


は、ははは……。


グッドゲーム。


ゲーム、ですか。


最強の魔導師にとっては、この程度、ゲームなんですね。


ああ、本当に……。


「恐ろしい……」




次の試合です。


劉飛龍(リィウ・フェイロン)……、中国の、『九頭龍』と呼ばれる冒険者。


「BIG4最強の剣……、是非味わいたいところデス、一手、稽古を頼みまス」


狐のように細い目、爬虫類のように大きな口、黒の長髪を後ろで一つに結び、中華風の赤い服を着た小柄な男性。


飛龍さんの膨大な魔力が稲妻のように迸ると、飛龍さんの手には、片刃の中華剣が握られていた。


噂に聞く、『九頭龍』の『武器創造』スキル……!


「キターイェツ(中国人)、貴様、稽古などと思うな。殺しに来い」


対するは、セラフィーマ・ポチョムキナさん。


少し癖のある黄金の美しい髪、大きな胸、背も高い、抜群のプロポーションに、凛とした佇まいの美女。


一瞬だけ放たれた魔力、そこから、様々な剣を創り出して、周囲に滞空させる。


あれが、最上級レアスキル、『剣操術』……?


「行きまス」


……っ!


は、速い!


私の目には、殆ど捉えられませんでした!


「ちぇえいやぁ!!!!」


あまりにも速い踏み込みから、身体ごと回転させ、遠心力を込めた強烈な一撃を放つ飛龍さん。


「『ファンクション:護衛剣』」


それに対して、太めのグラディウス二本を即座に創造して、ハサミのように交差させ、飛龍さんの一撃を受け止めたセラフィーマさん。


返す一撃で、音速ほどの勢いで短剣数十本を飛ばすセラフィーマさん。


まあ、音速ほどの攻撃であれば、我々程度の冒険者ならば簡単に対処可能です。


「『ファンクション:六尺棒創造』」


鉄棒を生み出し、回転させ、短剣の弾丸を防いだ飛龍さん。


「『ファンクション:武装変幻』」


そして、棒の先端に穂先を創り出して、槍にする。


「しぇい!はあっ!」


鋭い突き……、私のような術師タイプでは、あそこまで接近されれば打つ手はない。


そんな一撃が……、当たった!


「『ファンクション:肋剣』」


と、思いきや、恐るべき速さで、肋骨のように剣を創造して、突きを防いでいたセラフィーマさん。


「バカな!早過ぎル!」


そう……、創造のスピードが余りにも早過ぎるのだ。


飛龍さんが武器を創造するのに必要な時間は大体二、三秒。


創造系スキルって、極めても、物を創るのに時間がかかるんです。変化させるならまだしも……。


しかし、セラフィーマさんの剣の創造は、反応できないほど早い。


「オオおっ!!!」


飛龍さんが吼える。


そして、武器を槍から三節棍に変化させ、セラフィーマさんの頭上から襲いかかる。


しかし、セラフィーマさんは、それを、迫り来る三節棍ごと蹴り上げる。


「があぁっ!!!」


思念鋼の三節棍はへし折れるが……。


「まだだッ!『ファンクション:武装変幻』!!!」


折れた三節棍を即座にトンファーに変形させ、今度は低い位置からすくい上げるように打撃を放つ飛龍さん。


「よく動く……」


けれど……、その打撃も、まるで足蹴にされるかのように、足の裏で受け止められる。


否、セラフィーマさんは、打撃を踏んで後ろに飛んだ。


そして、セラフィーマさんが着地した時には、飛龍さんは既に、武器を戟に変化させていた。


「はあああああっ!!!『ファンクション:崩龍突破』ァ!!!!」


す、凄い……!


古来から、中国では、龍は権力者の象徴であり……。


「水神、か」


水神でもある。


相当量の……、それこそ、船舶を転覆させるほどの大瀑布を降らせて、水を集め、ぶつける。そう言う技だと思います。


こんな圧倒的な質量……、剣を即時に創造しても防ぎきれない!


「ほう、やるな、キターイェツ。ならば、私も少し力を見せようか。『プロビデンス:地獄のオルフェ』」


その瞬間、巨人が大瀑布を切り裂いた。


いえ……、あれは、ただの巨人ではありません。


膨大な、それはそれは膨大な数の剣の集合体!剣で作られた巨人!


百メートルはあろうかと言うそれが腕を振り降ろすと、大瀑布はズタズタに斬り裂かれ、霧散しました。


セラフィーマさんは葉巻に火をつけて、一言。


「まだやるか?」


飛龍さんは、倒れたまま、一言。


「……降参デス」




恐ろしい戦いでしたね……。


あ、次の試合が始まるようです。

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