第76話 新世界インターネット計画

俺はスマホの電源をつける。


「んー……、やっぱり繋がらない、か」


wi-fi通信が繋がらなくなっている。4G5G通信も駄目だ。噂によると、軍用などの特殊な衛星通信は繋がるみたいだ。


恐らくは、光回線が物理的にどこかで寸断されているのだろう。


東京は今、施設も含めてまるまる吹っ飛んでるようなもの。


ママゾンのデータセンターなどのサーバ機器も完全に破壊されているだろう。


人類の叡智たる『インターネット』は壊滅状態にある訳だな。


ふむ。


俺は、チームクズを集めた。


「やっぱりネットないと辛くない?」


「辛いねえ」


「不便だ」


アーニーとヴォルフがそう返した。


「そんな訳でネットワークを構築することにした」


「はぁ?」


「む」


俺はアイテムボックスから文庫本ほどの厚さと、スマートフォンほどの面積のあるタブレットを出す。


「これは?」


「シーマと月兎が冬の間に作った改造タブレットだ」


「へえ、どうやって作ったの?ダンジョン内で使える?」


「作成方法は錬金術、ダンジョン内でも使える。魔法で電力が供給されるデータセンターと接続してある。ここのアンテナのところに小さな転移門を常に展開していて、常に天海街のサーバと繋がる強制wi-fi接続だ。因みに、デカい分頑丈」


「電力」


「雷魔石発電カートリッジ式だ」


「ふむ……」


「俺は思った。現代ファンタジーものなら、タブレット片手にダンジョン探索とか良くね?と」


「インターネットって言っても、どんなサービスを想定してる訳?流石に一から全部作るとかだったら協力しないよ僕」


と、アーニー。


「『ずかん』だ」


「図鑑?」


「モンスター、武具、アイテム……、色々なものの図鑑を作る」


経営者だった頃の癖が染みついているのか、PowerPointでプレゼンを始めてしまう俺。


そして、アーニーとヴォルフも、ビジネスマンの目になって、俺に質問をぶつけてくる。


「……つまりは、情報インフラを握って、今後の世界の主導権をも握ると?」


「ああ。どう考えても、これからの世界では、強い奴が正義になる。そして、俺達は強い。……だがもしかしたら、俺達に追いついてくる冒険者もいるかもしれない。そんな時に、保険として、情報インフラを握っておきたいんだよ」


「既に屑籠屋で冒険者からの支持は稼げていると思うけど?」


「この新世界インターネット計画は、やがては冒険者以外からの支持も欲しいと思っている」


「支持を集めてどうするんだい?」


「世界への影響力を確保するんだ。さっきも言ったが、俺達より強い奴が現れないとも限らない。そんな時に、世界に対して影響力があれば、俺達よりも強い存在に対抗できる」


因みに、これとは別に、既存のコンピュータに接続することで、天海街のサーバに繋げられるようになる『MagicNet』と、電力を魔石カートリッジから供給できる『MagicStone PowerSource』を用意した。


魔石カートリッジ自体は、初級の錬金術スキルでもあれば作れるな。


しかし……、工業力よりも人の技能で左右されるとは、人治国家じみてきたなあ。




屑籠屋の大盛況を見て貰えば分かるように、俺たちは金を持っている。


この金を使って、タブレットを持たせた冒険者に図鑑を作らせる。


図鑑の編集は誰でも可能で、しかも、簡単だ。


HTMLよりも簡単な独自の言語で編集可能な『図鑑』は、鑑定持ちの冒険者のいい小遣い稼ぎになっているようだ。


小遣いってのは、試験的にだが独自の電子通貨を導入しているからだ。この電子通貨は『DP(ダンジョンポイント)』と名付けておいた。今後は、有料記事の閲覧などに使えるようにしようと思う。


で……、そう、鑑定である。


鑑定は、俺達が調べた限りでは、『集合無意識の見解』ってところか。


例えば、長さ70cmの金属の剣と、長さ80cmの同じ金属の剣があったとする。


それを鑑定すると、結果は、両方とも『ショートソード』だ。


例えば、HP5のゴブリンと、HP6のゴブリンがいたとする。


それを鑑定すると、どちらも『ゴブリン』だ。


つまりは、例え誤差があれど、『何者か』が決めた基準により、ものの名称が決められているのだ。


そして、同じ名称のモンスターやアイテムは、性能もほぼ同じ、と。


しかも、誰も手にしたことのないアイテムなら、最初に手にした人に命名権があることも分かっている。


この『何者か』が神なのか、集合無意識なのか、それは分からないが……、俺達、チームクズは無神論者の集まりなので、仮に、『超知性』としている。『存在X』でも良いか?


そもそも、HPやレベルなどの数値もよく分かっていない。


例えば、HP5でVIT5のゴブリンを、STR10の人が、ATK10の棍棒で殴ったとする。


しかし、当たりどころによって、ゴブリンが死ぬかどうかは分からないのだ。


ならば、TRPGのように、クリティカルなどがあるのだろうか?


色々と考えたが、サンプルが足りない。


今回の図鑑作りでは、そんな足りないサンプル集めをしたいと思っている。


例えば、HP100でVIT100のモンスターにSTR50の自分がATK100の武器で全力攻撃したらHPを50削れた!などのサンプルが集まれば、この世界の所謂、『内部数値計算式』を解き明かせるかもしれない。


それも興味深いだろう。


どうして、モンスターが、ダンジョンが現れたのか?


その謎を解き明かすことができたら、面白いと思わないか?


そんな本気になって能動的に謎解きをしようとまでは思わないが、学術的な興味はある。


あと普通に、その超知性が茶々を入れてきた際に対応できるよう、なんらかの対抗策も用意したい。


そのための、データ集め。まずはここからだ。


データ集めの副産物として、電子掲示板やSNSなどの情報交換ツールを用意しておけば、世のため人のためにもなるだろう。俺達もその情報を集めて使えるしな。


さあ、新世界インターネット計画、始動だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る