第71話 屑籠屋開店
「「「「わっはっはっはっはっ!!!」」」」
花見をしている。
連日、多くの人々で賑わうはずの桜の名所も、今なら人っ子一人いやしない。お得!
この桜の名所を俺達だけで独り占めだ!
「あのさー、思ったんだけどさー」
「んー?」
「金余ってるよね?」
「余ってるね」
「これで、天海ポータルの前にどどーんと何でも屋建てね?」
「なんで?」
「いやほら、思ったんだけどさ、冒険者って、自分の使わないアイテム拾わないのよ」
「つまり?」
「例えば、侍は、ダンジョンでレイピアを見つけても拾ってこないのよね、使わないから。でも、軽戦士からすれば、ダンジョン産のレイピアとか、高い金払っても欲しいじゃん」
これは、折角世界がローグライクなのにつまらん展開だ。
「あー」
「だからさ、冒険者からのアイテムをなんでも買い取って、なんでも売る店があっていいと思うのよ」
「なるほど……」
「やろうぜ」
「「「やるか」」」
問題はまず、冒険者の『どうぐぶくろ』はすぐにいっぱいになってしまうと言うことだ。
そして、いわゆる、『のろわれたぶき』の存在。
そこで俺達は、チームクズは一般人パーティと名乗りながらも、もう別に能力を隠すつもりはないので、色々な便利アイテムを野に放つことにした。
「まずはアイテムボックスだな」
「龍の探求風に言えば『ふくろ』だね」
ランクをつけよう。
「大きければ大きいほど高価。そして、内部の時間を停止させるモデルが一番高価で、遅くするものが次に高価、時間経過は変えられないものが比較的安価」
「まあ、そうなるね。現状では、内部の時間を停止させられるほどの『ふくろ』は見つかってないけどさ」
「俺達なら作れるけどな」
次。
「鑑定のスクロールと解呪のスクロールの量産」
「いやー、無理っぽくない?魔導書作成はレアスキルだよ?」
「じゃあ、回数制限ありのアイテムか?」
「そんな感じで」
次。
「ダンジョンからの緊急脱出スクロール」
「いやー、転移のスクロールは魔導書作成(中級)からだよ?キツくない?」
「いやいや、これは絶対に欲しい。冒険者に死なれると困る」
雑魚モンスター掃除もめんどくさいのだ。
雑魚モンスターを掃除してくれる冒険者は基本的に生かしたい。
次。
「武器と防具」
「まあ、適当に」
次。
「雑貨」
「適当」
オーケー、これでバッチリだ。
×××××××××××××××
俺の名前は伊藤和雄!
レベル二十五の冒険者だ!
司祭の水樹、魔法使いの恵、騎士の暗子とパーティを組んで、仕事に励んでいるぜ!
まあ、冒険者だから、毎日仕事って訳じゃなくって、週に一、二回くらい依頼を達成すれば食っていけるかな。
大体、一回の依頼で四十万円くらい稼げるから、四人で割って一人十万くらい。
俺達は、上を目指すとかじゃなく、ただ生活できればそれでいいから、そんなに強敵に挑んだり、連続して戦ったりはしない。
街を攻めてくるゴブリンやオークを退治したり、可食モンスターを仕留めたりして生きているのだ。
貯金もそれなりにあるし、この調子で金を貯めて悠々とした老後を過ごすんだ!……年金、多分もらえないだろうしな。払ったことはないけども。
さて、今日は駅前の広場に行って、直売所で飯にするかな!
ん……?
んんー?
んんんんんー?!!!
「な、なんだこりゃ?!!!」
駅前広場に、突然でかい店が生えてる!!!
ええと、『屑籠屋』……?
まさか本当に屑籠を売っている訳じゃねーよな。
店構えからしてそんな訳ない。もっと立派なやつだ。
まるで、石切場からそのまま切り出してきたかのような白亜の石壁。黒い石の装飾。
芸術家の家のようにも見えるが、外には屑籠屋と看板が出ているから、何かしらの店なんだろう。
店の前側には、上等なショッピングモールのように、マネキンが並び、武器や防具を展示している。
と、とりあえず、入ってみるか。
「お、お邪魔します」
「む、いらっしゃいませ」
「う、うわあ!《アルマトゥーラ》だ!」
何故ここに?!
……いや、例の、世界最強のパーティ『廃棄物』の息のかかった店なのか?!
『廃棄物』はいつもそうだ、遊びと称して世界を引っ掻き回す!
しかし、冒険者の原型になったのも、他種族との交流の足がかりになったのも、全てはチーム『廃棄物』のお陰だ。
一概に悪いとは言えない。
となると、この店でも、何かでかいことをやるつもりなんだろうな……。
冒険者の始祖にして亜人と手を取り合った最初の交渉人、チーム『廃棄物』パーティ。
彼らの悪質な遊びとは……?
「………………」
「あの……」
「何だ?」
「ここは……?」
「む、屑籠屋だ」
クソっ!駄目だ!
俺も割とコミュ障だが、《アルマトゥーラ》もコミュ障だった!!!
「な、何のお店なんでしょうか?」
「何でも屋だ。冒険者に役立つものは何でも売っている」
何でも屋……?
「そこにある鑑定眼鏡を好きに使え」
「あ、はい」
えーと……。
店内を見回す。
明らかに外見と不一致な広さだ。
建物の大きさはブティックくらいなのに、中に入るとショッピングモールより広いくらいだった。
恐らくは《ムンドゥス》の空間操作だな……。《ムンドゥス》は空間を支配するらしい。
取り敢えず、目につくのは両開きの黒い扉。ここは入り口だ。ガラス張りの黒い縁で……、シックで大人っぽいオシャレさだな。俺とは縁のない世界って感じだ。
レジは四つ、入り口の横にある。このご時世に電池式じゃない、コンビニで使われるような大型レジを使うだって?
レジ前にはガムや飴、魔石なんかが置かれている。
入り口から見て、右が食品、中央が雑貨、左が武具のようだ。
武具コーナーから見ていこう。
武具コーナーは……、まあ、武具コーナーだ。
借りた鑑定眼鏡で見たところ、レベル六十帯までの様々な武具が揃っている。
うわうわうわ!これ魔剣じゃん!値段は……、五千万円ッ?!!高い!でも魔剣は冒険者の憧れだよなあ。
片手剣に中型シールド、メイス類に投げナイフ、弓矢などのメジャーどころから、三節棍、ジャマハダル、ランタンシールド、チャクラム、ガンブレード、魔力駆動式レーザーブレードのようなものまで。
試し切り、試し打ちコーナーも完備。
………………。
「す、すいません、このレーザーブレード、試し切りしても良いですか?」
「む、どうせ買わんのだろう?まあ、五分くらいなら構わんが……」
「ありがとうございます!」
おおー!ぶぉん!ぶぉーん!たのしー!
中央の雑貨コーナー。
キャンプセットや調理器具……、おおっ!レアなアイテムボックス袋に……、マジックスクロールまである!
俺のパーティはダンジョンアタックとかしないから、この緊急脱出のスクロールとかはいらないけど、アイテムボックス袋は欲しいな!
五十万円、時間停止機能なし、容量三トンか……。
これがあれば可食モンスター狩りが捗るぞ……。よし!
「これください」
「五十万円、ミスリル硬貨でも紙幣でも構わない」
「じゃあ、十万円ミスリル硬貨を5枚」
「む、確かに」
へ、へへへ、アイテムボックス袋買っちまったぜ!
じゃあ、最後に食料品コーナーから何か買っていこう。
「うおお、なんだこりゃ?!」
惣菜コーナーが黒い闇に包まれている?!
あ、注意書きだ。
ええと、何々……?
『食料品コーナーは時間停止結界の中にあるので、この中にある食料品は賞味期限が無限です。ここから持ち出した時に食料品の時が進むので、手に取った商品は棚に戻さないでください』か……。
なるほどな、ここの食料品コーナーが、時間が止まっているとすれば、賞味期限切れによる廃棄は出ないってことだ。
ご丁寧にイートインスペースまでありやがる。
何か食ってくか。
『カレーうどん 500¥』
カレーうどん……。
久しぶりにカレーうどん食いたいな。
よし。
「あと、これもください」
「五百円だ」
「はい」
よしよし。
おっ、イートインスペース、ドリンクバー無料じゃん!
リアリティゴールド飲もう。
……うめー!久しぶりに炭酸ジュース飲んだぜ!
カレーうどんは……、熱々で美味い!
この器……、材質はプラスチック……みたいな錬金術で作られた樹脂か。
ダンジョンで使い捨て出来るみたいだな。
ダンジョンは生き物以外を吸収するから、ゴミとか捨てても平気なんだよ。
でも、例外的に、魔力の多く含まれた物質は吸収されにくい。だから、宝箱とかがある訳だな。
崩壊前の物質や死体なんかはダンジョンに吸収されるけど、崩壊後の魔法的な物質やアイテムは吸収されない。
つまり、ダンジョン内ではポイ捨てオーケーだと思ってもらえれば。
はあ、美味かった。
またぞろ凄え店だなあ……。
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