第69話 世界の変化
趣味と言ったら違うか?
いつまで経っても復興しないからちょっとこちら側で梃入れしようって話だ。
……後は純粋に、暇潰し。
我々、チームクズは、遊ぶときは常に全力だった。
勉強は片手間でできるが、遊びは本気じゃないとつまらないからな。
ガンガン遊ぼう。
さて、天海駅開通により、世界が『繋がった』後の話だ。
時節は春へと移り変わり、雪が溶けて、萌芽が見える三月。
小鳥達がチュンチュンと……。
三羽揃えば牙を剥く!!!いや、何でもない。
そんな中、世界の政府は、一斉に革新した。
一つ、崩壊世界当時に政権を取っていた政党の事実上の独裁。マニフェストは『資本主義の再開』だ。
二つ、ダンジョン省、ダンジョン大臣という新たな重要ポストの成立。それに伴う、他大臣のポストの削減。
三つ、国を挙げた冒険者の支援。
四つ、各国の『実質上の自治領』の追認。
この四つだ。
まず、一つ目。
これは、日本においては、この期に及んで建設的な意見を出さない××党の、実質上の追放命令だ。
海外では共産党、ネオナチなどが切られている。
そして、未だに、のうのうと配給で暮らしている連中を切る政策の方針だ。
今までは、どんなに頑張って働いても配給で一律同じものしかもらえなかったのだが、今後は、働きに応じた新世界通貨を渡される形式に変更された。もちろん、働けない人向けに最低限の配給は続けるが、これで貨幣活動が復活する。
二つ目は、ダンジョン担当大臣のポストの設立。
ダンジョン担当大臣を中心に、日本では大河原進之介大臣がダンジョン省に着任。ダンジョン省は、俺が去年に渡した大まかなダンジョンマップを元に、ダンジョンの管理維持、そして破壊の指示をする、実質的な軍部だ。
ダンジョン省には、ダンジョンの管理維持そして破壊の為にならば、総理大臣に代わって自衛隊を動かせるという、超強力な省庁だ。
また、冒険者ギルドと政府との直接的な窓口としても機能する。
そして、不要な省庁の収縮。
例えば、国土交通省なんかは大幅に人員を削減されたな。何せ、国土も交通網も破壊されてるもんだから。
三つ目。
冒険者の支援だ。
現在の世界において、冒険者は絶対に必要な存在……。
各国でも、冒険者の地位は高い。
それこそ、十レベル帯の初心者冒険者は、ドヤ街暮らしの日雇いくらいに扱われるが、レベル二、三十帯の冒険者はそれこそエリート外資系並みの社会的地位と収入があり、レベル四十帯を超えればプロアスリートのような扱いを受けるのだ。
冒険者の収入は、一度の仕事でレベル×1万円くらいだとされているが、これは嘘。高レベルとなると収入は指数関数的に増える。
高価な物を求めれば青天井ではあるが、その青天井についていけるくらいには余裕で儲かる。
中級のヒーリングポーションでも一本百万円はするし、キュアポーションとなってくると一千万円はするな。
今の時代、金持ち自体がそんなにいないから、価値はうまく説明できないのだが、崩壊前の物価で語れば、中級のキュアポーションは数十億円近い価値がある。
何せ、人類の社会で語られる『不治の病』は全て、中級キュアポーションで完治するのだから。
パーキンソン病、末期癌、白血病、遺伝性の病気から知的障害まで。
中級のヒールポーションなら、四肢欠損、内臓破裂、眼球、歯や爪など、ほぼ致命傷の怪我を治す。
どうだろうか、こんなポーションをポンポン使って経済を回してくれる冒険者……。
優遇しない訳がないよなあ?
四つ目、自治権の付与。
各国の地方都市は、実質的に自治状態にあった。
各国は、それを追認して、正式に地方都市の自治権を認めた。
国の中に国ができるようなものだ。
そのお陰か、元貴族の辺境伯とか、国内に共和国ができただとか、大変面白いことになってるようだ。
日本、天海街も、国から自治権をぶん投げられたから、旅館組合の長である揚羽の親父と、天海街警察署の署長、そして近くにあった円居大学の学長の三人の合議制で統治しているらしいよ。
でも、その上に俺が絶対命令権を持つ王として君臨させられている。
ハリアルシティもヴァイスベルグも同じようなものらしい。
……と、まあ、このように、世界は革新した。
崩壊前の富や名声はなくなり、世界はリセットされ、新たなルールが上書きセーブされた。
そう、富と名声のリセットだ。
経済活動は収縮して、学歴などというものも無駄になった。
新世界、まさに新世界なのである。
新世界では、かつて犯罪者だった訳でもない限り、フリーターもエリート外資系ビジネスマンも平等に扱われる。
新世界では、崩壊前の旧世界の貨幣は紙切れ。口座の残高もリセット。
新世界では、力でも知恵でもなんでも、優れている奴が偉い。血筋や家柄、旧世界の資産なんてものはゴミだ。
基本的に金<物資の世界になっている。
そんな修羅の国と化した世界で、俺は……。
「いらっしゃいませ、おや……」
「ぬおっ?!噂通りこの店は羽佐間さんの店だったのか!」
「フォルジュ辺境伯ですか。どうぞ、お好きなカウンター席へ」
喫茶店をしている。
「ご注文は?」
「ふむ……、メニューはどこかね?」
「あー……、めんどくさいんで、メニューは廃止しました」
「む?ああ、そうか。このご時世では、出せるメニューは決まってしまうから、日替わりランチなどが基本になるのだな?」
「ああ、いえ、基本的に、対応できるメニューは何でも出すんで。メニューにないものを注文する人があんまりにも多いんでね、ならいっそ、メニューは廃止しちゃおうかな、と」
「ふむ……?そうか……、では、日本ならではの料理は何かあるかね?」
「色々ありますが、何が良いですか?」
「ビーフの気分だな」
「ステーキと煮物、どちらにします?」
「ステーキで頼む」
となると……。
こうか。
「お待たせしました、和牛ステーキ御膳です。こちらのジャパニーズホースラディッシュをつけると、脂身がマイルドになりますよ」
「おおぉ……!」
鉄板の上にミディアムレアの黒毛和牛が。
「いただこう。……ほぉ、これは!」
フォルジュ辺境伯が目を見開く。
「こ、これは本当にビーフなのかね?!口の中で蕩けてしまうこの脂!」
「ご満足いただけたようで何よりです」
「このソースも良い、ライスと実に合う!素材も厳選されたものだが、調理の技法もその道のプロの技だ!」
はははははー、そうだろー。
「過分な褒め言葉ですよ」
「いや……、これは美味いぞ……!本当に!昔、ミシュランで三つ星だったレストランに行ったことがあるが、それに勝るとも劣らない!」
だろうな。
「ありがとうございます」
「んん!このミソスープも美味い!トーフの薄く香るソイビーンズの味と、ムースのような舌触りがなんとも!」
「いや、実に良かった、いくらかね?」
「新日本円で千円です」
「センエン?!!!これでセンエンだと?!!!これならばゴマンエンは取っても良いと思うのだが?!!!」
「まあ趣味でやってるんで」
「そ、そうなのか……。営業日はいつかね?是非、また来たいのだが」
「月火水の週三日(臨時休暇あり)ですね」
「少なっ?!!!」
「まあ趣味でやってるんで」
そんな感じ。
さあ、明日も喫茶店!
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