第59話 帯広雪祭り

最近まで嫌ってほど暑かったのに、今はもう、段々と冷え込んできている。


女心は秋の空なんて言葉があるが、俺としては、女心よりも秋の空の方がよっぽど分からんな。女心はそれなりに分かるんだがな。


このまま放っておけば、来月にはジャンパーを羽織らなきゃいけなくなるだろう。


そんなこんなで、冬に向けての準備を始める。


冬。


冬になれば何が必要だろうか。


まず第一に、保存食だ。


実りの秋にたくさんとれた食料を、保存食にしなければならない。


確かに、ダンジョンを利用して作ったダンジョン農地のお陰で、冬の間も野菜が取れるが、それでも備えることは重要だ。


ダンジョン農地は広大だが、もしかしたらいつか使えなくなるかもしれない。保存食はどの道必要である。


第二に、暖房だ。


冬の寒さに耐えるための暖房が必要だ。


当然、薪割りなんてやってられない。


火の魔石と、雷の魔石発電によるヒーターで解決するつもりだ。


それと、布団や毛布、暖かい服も。


そして第三に、暇潰しの手段である。


これは一応あればいいなという程度の話だ。




秋。


秋の天海街は、活動時間が短い。


朝起きて、午後五時前くらいには皆家に帰る。


冒険者や衛兵警察以外は、暗くなったら出歩かないのだ。


何せ、明かりが貴重だからな。光魔石のランプもあるが、なるべく節約するものだ。


その分、住人達は早起きして、仕事に励む。


集まってやることは、保存食や服を作ることだ。


冒険者達が狩ってきたブラウンボアやビッグホーンの肉を、薄切りにして干し肉にしている。


瓶にピクルスを詰めて軒下に並べる。


ビスケットを焼いておく。


根菜類などの長持ちする野菜をストックする。


干し魚や凍み豆腐などを作る。


干し椎茸なんかもある。


例え雪が降らずとも、寒いものは寒いし野菜を作れないのも確かだ。


天海街、崩壊後初めての冬。


どうなるのだろうか。




一方、俺達は、雪が降ったので北海道で雪合戦して遊んでいた。


「そりゃ!」


「うわーーー!!!」


「死ね!」


「うわーーー!!!」


「む……」


「うわーーー!!!」


アーニーに雪玉をぶつけて遊んでいる俺達。


「僕の扱い酷くないかな?!」


「こんなもんだろ」


一通り雪遊びして飽きたので、全員でかまくらを作り、餅を焼いて食べた。


だが、俺達は思った。


「「「「折角雪降ってるのに、雪をエンジョイしてるのが俺達しかいねえ!!!」」」」


「参ったな、僕、一度でいいから雪祭りを見たかったのに」


アーニーが言った。


むむむ……、こうなったら、こうだ。




まずは、天海街、ハリアルシティ、ヴァイスベルグを、『ディメンションゲート』がエンチャントされたドアで結ぶ。


ついでに、北海道行きのディメンションゲートも設置して、北海道に無理やり人を呼ぶ。


そして……。


「札幌……、は滅んだので、この帯広で雪祭りをやります!」


そう言うことになった。


もちろん、普通にやったんじゃ参加者は集められない。


ならばこうだ!


「祭りは十三日間!その間、来場者の食事を無料支給してやる!」


「そして、優勝者からトップテンには、食料品を始めとする、豪華商品を用意したよ!」


「十日間で氷像を作り、三日かけてどの作品が最も美しいかアンケートを実施するわ。それで順位を決める感じね」


「む……、冒険者も、奮って参加してほしい」




そんな訳で、暇な道民(強制的に暇にした)と冒険者達による、帯広雪まつりが始まる……!


初日、近所のババア衆を呼び寄せて餅入り豚汁バター七味とうがらし付きを大鍋複数で作る。


思ったより人が集まった。これは期待できるな。


どうやら、札幌からの避難民や、帯広の道民は、世界崩壊前に雪祭りをやるつもりだったらしく、あらかじめデザイン画があったみたいだ。


冒険者達はバラバラの行動で右往左往している。


二日目は下準備だった。


バター付きカレーうどんで腹を満たした道民と冒険者は、雪を固めて準備していた。


やはり、デザイン画も既にあり、雪祭りに慣れている道民は強い。これに対して、冒険者達は一致団結することにより対抗するつもりらしい。


冒険者はなんだかんだ言っても層が厚い。元デザイナーの魔法使いがデザイン画を描いて、元建築業者の戦士が巧みに雪を切り分けている。


三日目は、雪の切り分けが本格的に始まっていた。


味噌バターコーンラーメンをすすりながら、雪を切り分ける参加者達。


四日目。


祭りだと聞きつけて、近隣住民が集まってきた。


鶏団子ごろごろすいとん中華スープが無料だからと言って、多くの人が食べにきた。


その近隣で、焼いた干し肉や魚、チーズなんかを売り始める人が現れた。


酒も売られ始めたので、急遽、手の空いてる冒険者を雇って会場の警備をさせる。


これくらいの金はある。


五日目、会場の警備を、遅れてきた北海道警察に任せる。


警官達も、警備もそこそこに、長ネギワンタンスープをすすりながら、久しぶりの祭りの雰囲気を楽しんでいた。


六日目。


田舎風ポトフのソーセージにかじりつきながら、雪像の大まかな形を作る参加者。


酒が入っているが故に、ちょこちょこと諍いがあるが、まあ許容範囲内だ。


怪我人も今の所いない。


七日目。


水餃子入り五目スープで温まりながらも、雪像の細部を作り込み始める参加者。


幸いにも性格が悪いクズはおらず、他の参加者を妨害しようとするバカはいなかった。


平和だ。


八日目。


魚介たっぷりクラムチャウダーにパンを浸しながら、作業を続ける参加者達。


飯が無料だからと言って、仕事を中断して飯だけ食いに来る住民も多数いた。


九日目、全体の仕上げ。


五目おじやを食べつつ、雪像の最後の仕上げにかかる参加者達。


十日目、雪像の完成。


野菜たっぷりトマトスープを食べながら焼きソーセージをかじる道民と冒険者は、誇らしげな顔をしている。


十一日目、お披露目。


ピリ辛サムゲダンで温まりつつ、雪像のお披露目だ。


来場者にアンケートボードを持たせて、雪像を見て回ってもらう。


道民達は、自分の雪像の隣に、知り合いの飲食店を配置して稼いでいた。


狡っからいな……。


しかし、これくらいのふてぶてしさがなけりゃ、この崩壊後の世界では生きていけないのかもな。


十二日目。


与党の議員の一人が現れた。


なんでも、たまたま近くに来ていたから寄ったらしい。


今回のようなイベントは、経済の活性化と、なによりも住民の息抜きになって、いい事だから来年もやってほしいとのこと。


もちろん、食材の費用など、諸経費は国が出すから、是非来年もやろう、だそうだ。


俺は別にどうでもいいのだが、やってみて気づいたのは、祭りの運営は面倒だってことだ。


次からは丸投げさせてもらうと宣言した。


議員は、苦笑いしつつも、ビーフシチューを楽しんで帰った。


十三日目、最終日。


ピリ辛ユッケジャンスープと肉巻きおにぎりで華麗にトリを飾る最終日。


結果の集計をした。


結果は……、冒険者グループの優勝だった。


冒険者グループは、ファイアドレイクと戦う冒険者の雪像を作っていた。


確かに、技術的には道民達に一歩及ばないが、そのモンスターや雪像の冒険者達の躍動感は、実際にモンスターと戦った者にしか出せないものだった。


優勝グループには賞金三百万円と中級ポーション詰め合わせセット(大)に米二百キロ。


準優勝の道民グループには賞金二百万円と中級ポーション詰め合わせセット(中)と米百キロ。


そんな感じで賞品を渡して、解散する。




総評、楽しかったが、二度と仕切り役はやらん。

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