第54話 デート 前編
まだ八月の頭、ジリジリと焼けるような日光を浴びる。日光浴にしては威力が高すぎる。サバゲーで実弾を使うようなものだろこれ。
レーザービームみたいな太陽光線が空から降ってくる地獄の中、何でこの俺がわざわざ外にいるのか。
その答えは簡単だ。
デート。
デートである。
おいおい聞いたかよジェーン、こんなクソ暑い中外でデートだってよ?
聞いたわトム、こんな天気の中でデートとかあり得ない!
……ふざけやがって畜生が!こんなクソ暑い中外に出すなよ俺を!
学生時代ならまだしも、俺も今年で29だぞ?
真夏の外で遊ぶ為に出歩くような歳じゃない。
え?この前四人で、南の島でバーベキューしてた?うるせえな、それはそれ、これはこれだ。大人ってのは心に棚を作る生き物なんだよ。
とにかく、この俺を、デートなどというくだらない理由で野外に出したことは許せない。ふざけやがって。
まあ、権能の中に暑さ耐性スキルが入ってるからなんともないんだが、それでも、感覚的には暑い。
暑さ耐性はあくまで、暑さで体調を崩さなくなるスキルだ。暑さ、湿気の不快感をなくすことはできない。
熱中症にはならないが、暑いものは暑い。
そんな中、外に連れ出した揚羽。
「お前は許さない」
「ええ?!夏ですよ?!海ですよ?!」
「知らん、帰らせろ」
「ほ、ほらほら!水着ですよー!華のJKの水着ですよー?!」
「あとでmp4で提出しろ」
「あ、見たくはあるんですね……」
そりゃ女子高生の水着姿は見たいが、外には出たくないのだ。
となると、あとで動画を提出してもらった方が楽じゃねえかな。
まあ、そんな訳で、最近は街の愚民共に見せつけるが如く、揚羽と、羚と、昌巳と、月兎と、デートデートデートデート、またデート。
かったるいことこの上なし。
何なのかと問えば……。
「……あの、ですね。実は、義辰さんのことを狙ってる女の人がたくさんいて」
「やらせときゃいいだろ」
嫉妬か?めんどくせえな。
「その、ちゃんとした人ならまだしも、明らかに、その、寄生目的な人が多くて……」
なるほど?
「それと、私達にも、寄生目的の男の人がたくさん……」
ふむ?
「お互いの虫除けの為に、見せつけるようなデートってことか?」
「はい……」
ふむふむ。
確かに、それは由々しき問題だな。
冒険者への寄生は、今、様々なところで問題になっている。
冒険者の大きな稼ぎに寄生して生きようと言う魂胆のクズが非常に多いのだ。
このご時世で専業主婦やら上級国民なんざやってられない、子供も、女も、老人も働かなきゃならない世界になってるんだよな。
それでも、なんだかんだと理由をつけて働かないクズが、金を持っている冒険者に寄生しようとするのは当然のことだった。
俺も他人事じゃないな。
変な女に絡まれたら面倒だ。
それを、若くて美しい四人の愛人がいるとアピールすることで、「お前の席ねぇから!」と言外に示せる訳だ。
え?シーマ?
あいつはなんというか……、愛人ってか友人って認識の方が強いかな?まあ、抱いたことはあるけど、俺はどちらかというと友人気分だ。
シーマには、友人としても男としても好きだと伝えられたが。
まあ、とにかく、虫除けが必要だって案には賛成だな。
「ほら」
「あんっ」
俺は、割と人のいるビーチで、揚羽を抱きしめてキスした。
よし、今月は愛人と過ごすか。
聖川揚羽、十七歳。
県立峰岸高校二年生。
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ん?なんの数値か?さあ、何だろうな?
身長は160cmほど、体重は45kgくらい。
顔は、アイドル系ソシャゲのセンター役みたいな顔と言えば伝わるだろうか?つまり、可愛いが特徴はないってことだな。
髪型はセミロングで色は黒、少々あざといような仕草をすることがある。
クラスのマドンナではないが、一番「可愛い」子は誰かと聞かれた時に真っ先に名前が挙がるようなタイプの女だ。
そして……、レベルは50、天海街最高の『ヒーラー』である、白魔導師だ。
天海街で最高と言えば、それはすなわち日本最高であるということ。
白魔導師ということは、回復魔法を中心に属性魔法をも使いこなす、稀少な『戦えるヒーラー』であること。
つまりは、最高の人材であることが分かる。
見た目も能力も、ついでに人格も最高という訳で、多くの人間に頼られ、尊敬されている。
それと同じくらい妬まれているが。
本人は割とメンタルが弱いので気にしているらしい。
そんな揚羽は、この俺、羽佐間義辰に惚れている。
接点としては、俺の喫茶店で揚羽がバイトしていたということ、揚羽の実家の旅館によく出向いていたということが挙げられる。
そうして、交流を重ねるうちに、揚羽は俺に惚れ込んでいたらしい。
俺は顔が良い。頭も良い。性格は悪いが、女の前で性格の悪さを全面に押し出さない。
究極的な話、まともな感性をしている女は、俺と交流を重ねれば、憎からず思うことは想像に難くないだろう?
確かに、顔や能力が全てじゃないと人は言うが、そもそも顔が悪けりゃ注目すらしないし、性格が悪けりゃ人は離れていく。能力がなくても人は離れていくんだよ。
揚羽が俺に惚れ込んだ理由となる明確なエピソードはないが、揚羽の周りには俺よりも良い男はいない。
そして、ダンジョンの中で軽くリードしてやると、簡単に、コロッと堕ちた。
そんな完堕ちの揚羽とデートをする。
デートと言っても、特に行くところはないのだが。
一緒に散歩をするくらいのものだ。
温泉街である天海街にデートスポットなどと言うものはないしな……。
こうして一緒に散歩をするだけでも、お互いに相手がいるから異性お断りだと示せるだろうか?
「えへへぇ、義辰さーん」
まあ、本人は楽しそうだな。
ダンジョン産の、ホワイトトレントの弓杖と魔導具の弓筒、ミスリルのナイフとミスリルの鎖帷子の上にバロメッツのローブ、ダイアウルフ革のブーツ。いつもの格好だ。
弓杖とは、杖を兼ねる弓のこと。一応魔装具らしく、杖形態と弓形態に変形する武器だそうだ。
魔導具の矢筒は魔石を入れれば光の矢を生む。ゴブリンの魔石一つで矢を6本くらいの変換効率らしい。
ナイフは剥ぎ取り用のもので、ミスリルの鎖帷子とアクセサリーは丈夫な上に魔法効果のある魔導具だそうだ。
バロメッツってのは綿のモンスターだな。バロメッツのローブは魔法耐性が極めて高い。一応、これも魔導具らしく、弱い対物理と対魔法の障壁を常に展開しているとのこと。
さて……、それはさておき。
「実家はどうだ?」
「しろがね屋ですか?」
揚羽の実家の旅館、しろがね屋はどうなっているのだろうか?
「今は、冒険者さんがいっぱい来てますから、ものすごく繁盛してるみたいですねー」
成る程?
「今は本当に人が多いんで、旅館をどんどん増やしてるみたいです」
そうなのか……。
冒険者と宿屋か。
確かに、関係がありそうな組み合わせだ。
俺もそれなりにテレビゲームなんかをやる方だが、初期のコンピュータRPGそのまんまだよな。
ハクスラ要素、ローグライク感……、何か作為的なものを感じる。
「ファンタジーですよねー、冒険者が宿屋にいるとか!」
「そうだな」
「そう言えば……、大体、義辰さんくらいの年齢の冒険者さんは、ウィザードリィ?がどうこうとか言ってますけど、ウィザードリィって何ですか?」
「ああ、昔の有名なテレビゲームだよ。冒険者が色々なJOBに就いて、武器や防具を拾って、ダンジョンを攻略するゲームだ」
「へえ、じゃあ、今、まさにこの世界はウィザードリィな訳ですね」
「それは……」
ん?
そうだな。
考えてみれば、作為的なくらいにウィザードリィだ、ローグだ。
この世界の人間が思うファンタジー世界そのものだ。
おかしいよな?俺達が思うドラゴンと、ダンジョンのドラゴンは何故同じなんだ?
何か繋がりがあるのだろうか……?
「義辰さん?」
「いや……、この世界のダンジョンについて考えていてな」
「そうですねえ……、ダンジョンですからねえ」
「作為的なものを感じないか?この世界の神話などで語られるモンスターや亜人がそのまま、同じ姿で現れるとは」
「えっと……?」
「つまり、俺達が知っている姿のモンスターや亜人がそのまま出てくるのはおかしいと言っているんだよ。知らない世界のモンスターや亜人なら、もっとこう、宇宙人のような悍ましい姿でもおかしくないはずだろ?」
「あー……、そうですね?でも、それだと気持ち悪くて嫌ですよ」
気持ち悪くて嫌だ?
「それはお前の決めることじゃ……、いや、すると、誰が決めたんだ?神がいるのか?それとも、人間の集合意識とかだろうか?」
「集合意識!多分それですよ!」
「何故そう思う?」
「え?えーっと、私が昔やってたソシャゲで……」
「あ、分かった、もう良いから黙ってろ」
「辛辣?!」
アーニーのアカシックレコードでも、この世界にダンジョンが現れた明確な理由は分からなかったからな。
分かったことは、ダンジョンのあった世界は滅んだこと、ダンジョンは前の世界にいた亜人を中に入れたままこの世界に転移してきたこと。
つーか、アーニーのアカシックレコードって情報量が薄いんだよな……。
本人に聞いたところ、ウィキ並の情報量って言ってたから、百パーセント何でも分かるとかじゃないらしい。
それに、未来の情報は不確定だとも言っていた。
権能にも限界はあるんだな。
そんなことを考えつつ、旅館、冒険者ギルド、ゲームセンターなどを、揚羽と共に周る。
さて、これで虫除けになれば良いのだが……。
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