第33話 アーノルド・ガルシアの場合 その3
『アーニー!お前の予想通りだ!ダンジョンのパンデミックが起きた!』
『分かった!』
準備を始めて丁度一年くらい過ぎたある日、タツからの遠話魔法が脳内に響く。
遂に来た、か……。
その時は夜だった。
僕は急いで防具を着ようとして、止まる。
ドラゴンの革なんて、絶対に出所を疑われる……。
レベル四十相当の素材のローブとハット、そして槍を持って、外に飛び出る。
探知魔法……、モンスターの反応だ!
不味いな、これは!
既に自宅は完全に寝泊まりする場所でしかない。放棄しても構わないだろう。
私物は全て、洋館の私室に持ち込んでおいた。
問題はない。
「さあ、行こうか……!!」
家から出て、まだネットワークが繋がっているうちに、社員や知り合い全員にメールを送る。
『落ち着いて聞いてほしい。今、世界は未曾有の大災害に見舞われている。家にいるのは危険だ、家族を連れて洋館に逃げ込め。これはジョークじゃない。死にたくないなら銃と貴重品を持って逃げろ』
題名に『緊急連絡』と付けたメールはすぐさま数千人に届き、その殆どが困惑しながらも了解の意を示し、その通りに行動するようだ。
いやあ、僕のカリスマも捨てたもんじゃないね。殆どみんなが信用してくれた。
取り敢えず、街のモンスターの掃討だ!
「撃て!撃てー!!」
「ぐああ!」
「ベン!畜生!ベンがやられた!」
「負傷者をこっちへ!」
「弾は?!弾はどうした?!」
「バリケードが破られるぞ!!」
警察がバリケードを組んで奮闘している……。
しかし、レベル二十を超えるモンスターに対しては、携行できるレベルの火器では分が悪い。
相手はレベル二十帯域のモンスター数体。僕からすれば眠ってても殺せるけど、一般人からすれば銃を持っても中々敵わないような脅威だ。
行こうか。
おっと、使うのは火属性魔法を最小限、風属性魔法を最小限、飛行魔法を最小限だ。
このくらいなら見せてもいいだろう。
あとは随時調節していく感じで。
僕は飛行魔法で空を駆けて、槍でモンスターを貫く。
「な、何だ?!!」
「通りすがりのウィザードさ!この紙の住所の洋館へ市民を避難させてくれ!食料と水、毛布がある!」
そう言い残して飛び去る。
……即座にモンスターを掃討して、洋館周辺のモンスターを殺す。
一晩殺して回ったらモンスターの数も大分落ち着いた。
体力には自信がなかったが、レベルが上がるとどうやら目に見えないパフォーマンスも向上するらしく、二十代後半とは思えないくらいに若々しく、気力も体力も漲っている。
一晩戦うくらい、なんてことないよ。
そうして、朝に洋館に戻ると、洋館の中や周りに人と車がこれでもかと集まっており、疎開のような有様だった。
「ただいま!」
「ああ!アーニー!良かった……、本当に良かった……!」
「無事だったのね!」
パパとママにハグされる。
「アーニー!」
「ローラ!良かった、無事だったんだね!」
「アーニーのおかげよ、貴方がメールをくれなきゃ、私は今頃モンスターのお腹の中だったわ」
ローラも無事だった。
ローラを失うのはかなり困るからね。
しかし、聡明なローラなら、モンスターを避けてここまで逃げて来れると思っていたよ。信頼していたってことさ。
まあ……、大事ならいの一番に助けに行くべきかもしれないけど。
でも、僕は知り合いの命に格付けをするような真似はしたくなかった。
ローラだけを優先して助けて、他の誰かが死んでいたとしたら……。
僕はそれが嫌だった。
言うほど信じているわけでもないけど、誰が生き残るかは神が決めるべきじゃない?僕に選ばせないでよ、責任が生じちゃうじゃん。
……ぶっちゃけて言えば、蘇生魔法と探知魔法が使えるから、生き返らせれば良いや、みたいな気持ちになっているのもあるけどね。
「どうなってる?」
ローラに状況を聞く。
「今はみんな、テレビやSNSで警察や軍隊がモンスターと戦う姿を見てるわ……。でも劣勢みたい。みんな不安そうにしているわ」
「そうか……」
「取り敢えず、昨日の夜は、貴方の両親が避難してきた人達に毛布を配るって言うから、社員で連携して毛布を配ったわ。それと、仮設トイレもあったから、それの設置もしたわ」
「そうか、ありがとう、助かったよ」
さて、そろそろ、避難民が起き始めるな……。
「ローラ、悪いけど手伝って。社員を集めて、水と食料を配って欲しい。複数の列を作って、並ばせて配って」
「ええ」
「それと、インスリンとかもあるから、糖尿病患者とか、持病がある人に薬を配って欲しいんだけど、その前に医者を探して欲しい。医者がいたら、医者に薬を配らせて」
「分かったわ」
「あ、この缶詰、中身はシリアルとかスープとかパスタだから。しっかりふやかせば幼児や老人も食べれる。それと粉ミルクと哺乳瓶もあるから、倉庫から探して。乳幼児連れてる家族は洋館の中へ、キッチンは自由に使わせて良いから」
「ええ、それじゃあ行ってくる。貴方はどうするの?」
「見回りに行ってくる」
「一人で?!危険よ!」
「平気さ、あとは任せたよ」
「アーニー!!!」
飛んでいく。
ハリアルシティ郊外。
郊外、と一口に言っても、広い。
日本やドイツとは違って、アメリカは広大だ。
街一つを柵で囲うなんてできない。
いやまあ、その気になればできるけど、それをやったら力がバレるからやらない。
取り敢えず、モンスターの残党を殺して掃討し、ダンジョンの位置を記憶して、手持ちの地図に記載する。
ふむ……、ハリアルシティ郊外の周辺にあるダンジョンは十五箇所。
レベルは七から三十六ってところかな。
ハリアルシティの中心地にはレベル五十のダンジョンもある。
レベル五十ともなると、迫撃砲や機関銃どころか、ミサイルや戦艦の主砲すら効かないレベルだ。
偵察終わり、と。
ああ、そうだ、魔導書を作って持って帰ろうか。
アイテムボックスに素材と道具は入っているからね。
まず魔導書を作ろうか。
そうだな、生活魔法の魔導書にしよう。
必要なのはレベル二十帯域のモンスターの皮紙と、ダンジョンの木々や鉱物などから作るインク(より高度な魔導書ではより貴重なインク)だ。それを糸で縛り、丁重な装丁をする。
インクは油性で、魔力を込めて作るために水に強い。どれくらいで劣化するのかは不明。
何で本にするのかといえば……、魔導書はインストーラみたいなものだからだ。
魔導書というプログラムを目で見てスキャンすることで、魔法というアプリをインストールする……、みたいな感じだ。
故に、魔導書の言語は「書いている自身である僕も、内容が理解できない」。
ただ、言えるのは、この魔導書を最初から最後まで読めば魔法が使えるようになるってことだけだね。
一度作れば何度でも、誰にでも使える。
その代わり、魔導書はかなりレアなアイテムだ。
ダンジョンには時折、宝箱が落ちているんだけど、それの中には色々とアイテムが入っている。罠の場合もあるけど。
そんなダンジョン産のアイテムの中でも、魔導書はかなり手に入りにくい部類だね。
滅多に出ない。スクロールなら割と出るんだけどね。
取り敢えず、生活魔法と火属性魔法(初級)の魔導書を作って持って行く。
さて、お腹が減ったな。
帰って食事にしよう。
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