第28話 リザードマンの村

『天海街ブラックリスト』


天海街で迷惑行為や犯罪を犯した者は、天海街のブラックリストに写真と名前が載る。


そいつらは街に入れなくするそうだ。


××党の議員の多くはブラックリスト入りして、出禁になった。


お陰で天海街は平和になったと、街の人々は喜んでいる。


その分、警備隊の仕事は増えた。


まあ、そもそも、移動に使う報道ヘリの燃料が無駄だからって言って、段々野党の議員もこちらに来れなくなってきた。


俺でも名前を聞いたことがあるクラスの野党政治家が来ていたはずなのに、相当困窮してるんだなあ。


……困窮していても、既存権益を捨て切れない老人達は、天海街を新たな寄生先にします!といきり立って「政治活動」をなさっている野党を激烈プッシュしてるんだろうな。というか、そうするしかないんだろうよ。


まあ、基本的には天海街は平和だ。


……やっぱり俺がやらなくても政治は回るじゃん。なんだよ、できるのに俺にやらせようとしてたのかあのおっさん達?酷い話だな。


そんな感じで、ブラックリスト(笑)を作って、クソボケ野党議員とはいえ、議員様を街から出禁にした苛烈な施政をやっている悪者は、天海街を統治しているおっさん達だ。


揚羽の親父と、大学の学長と、警察署の署長。


この三人のおっさんが全部悪く、俺は国家の方針に従う単なる経営者です。


……もちろん、資本家なので、国家の方針に『意見』がある場合、色々とやらせてもらいますが、それって有権者の権利ですよね?


仮に国家が滅んだとしても、形式上だけでも従っていたというポーズは大事だ。


俺達より強い存在なんて、いつか出てくる。経営者が殺し合いでの最強を維持できるとは中々思えないしな。


そんな時に、パブリックエネミーではないというのは非常に大事。


殺したくても殺せない立場になる。戦わずして勝つ。当たり前だよな?


ま、とにかく、良かったね。丸く収まったんじゃない?




と言う訳で今回は大倉教授と羚を連れて滋賀県へ。


行き先は、琵琶湖のリザードマンの集落だ。


最近はね、読む本がないからね。


大倉教授に論文を書かせなきゃね。


前の『ワーウルフの文化』のレポートは実に出来が良かった。


積んである本はかなりの量あるが、読みたい本が多いのは良いことだ。


大倉教授が言うには、十年後までに、ワーウルフ、ハーピィ、リザードマン、アルラウネ、アルケニー、ヴァンパイア、マーマン、エルフ、メカノイド、エンジェル、デーモンへの取材をして、『亜人種各論』という本を書くのだそうだ。


亜人種各論においては、亜人種の主な文化、風俗、言語について調べた本で、数多く存在する亜人種の中でも代表的な種族についての本とのこと。


大倉教授が言うには、多くの種類がある亜人種を大別したいそうだ。


人間で例えるなら、白人、黒人、黄色人種、のように、大まかな分類がしたいとのこと。


暫定的な分類はこの通り。


・獣人種

ワーウルフ、サテュロス、ケンタウロス、ミノタウルスなど、獣、特に哺乳類的な特徴を持つカテゴリ


・翼人種

ハーピィ、ワーオウル、ワーイーグルなど、鳥類の特徴を持つカテゴリ


・爬人種

リザードマン、ラミア、ワーフロッグなど、爬虫類や両生類の特徴を持つカテゴリ


・魚人種

マーマン(マーメイド)、マーシャーク、サハギンなどの魚の特徴を持つカテゴリ


・草人種

アルラウネ、ドリアードなどの植物の特徴を持つカテゴリ


・虫人種

アルケニー、ワーアント、モスマンなどの虫の特徴を持つカテゴリ


・屍人種

ヴァンパイア、デュラハン、バンシー、レイスなどの不死的存在を表すカテゴリ


・機人種

メカノイド、オートマタなどの無機物の特徴を持つカテゴリ


・魔人種

デーモン、サキュバス、ラセツなどの闇の魔力に優れるカテゴリ


・天人種

エンジェルのことで光の魔力に優れるカテゴリ


・妖人種

フェアリー、エルフ、ドワーフ、ハーフリング、アスラ、オーガ、ティターンなどなど、兎に角人間ではないが、他のどのカテゴリにも属さないカテゴリ。言うなればこれこそが亜人


この様な大カテゴリに分けられるそうだ。


これについてはワーウルフの賢人達の助言や、俺が取材してきた他の種族達の言葉から大別された。


また、興味深い話として、亜人がどこから来たか?という話がある。


亜人は、皆、口を揃えて言うのだ。


『世界が終わった』


と。


世界が終わったので、皆でダンジョンに立て籠もっていた、らしい。


ダンジョンの中は異次元空間だから、世界が終わっても平気だったとのこと。


世界が終わった、とは……?


詳しく聞くと、こことは別の世界があって、そこが何らかの理由で崩壊、この地球という世界に逃げてきた、というような感じだった。


実に興味深い話だ。


亜人達の話が正しいとすれば、地球とは別の世界が存在したということだ。


そこにはモンスターがいて、人間がいて、亜人がいる世界だったそうだ。


では、そちらの世界の人間はどうなったんだ?と尋ねると、分からないと皆言った。


人間は滅んだと言うものもいた。


まあ、その辺りの謎は誰に聞いても正しい答えは出てこないな。


ダンジョン、モンスター、亜人は、別の世界からの来訪者、ってことは確かだ。


だから、この世界の物理法則で語るのはやめておこう、って話だな。




さて、車を走らせ丸一日程。


滋賀県の琵琶湖の漁港に着いた。


「おお……!素晴らしいですね!」


「リザードァン、ギョギョウィンゾク」


「成る程……、水の中に入ると言うことは両生類?」


大倉教授、大倉教授の婚約者のワーウルフ(名前はルリャ)、そして羚の三人を連れてやってきた。


木造の船で、天然素材の網を使って漁業をしているのが見られる。


俺達に気付いたリザードマンは、槍を片手に数人で話しかけてくる。


『鱗無き者、何用か?』


リザードマン。実にリザードマンだ。


深緑のイグアナ人間と言ったところか?身長も200cmはあるだろう。筋肉もあり、強そうだ。


褌のような麻らしき繊維の前掛けと、獣の皮を纏っている。


手には槍。


『俺達は遠くの街から来た賢人とその護衛、助手、通訳だ。賢人として、この国に現れたリザードマンを調べたいそうだ』


『ふむ……、確かに、この辺りは鱗無き者達の生活の跡があった。もしや、鱗無き者達の街だったのか?』


『ああ、そうだ』


『我々は出て行かなければならないか?』


『いや、人間は多くがモンスターに殺されていなくなったから、土地は余っている。この街に人間が戻ってくることは当分ないだろう。お前達が使っても問題はない』


『そうか、感謝する。賢人と言ったな?我らには賢人はあまりいないのだ。礼を欠くかもしれぬが、そちらが望むなら村を案内しよう』


『大丈夫だ、こちらも文化が違う故に問題が起きるかもしれないが……』


『理解している。我々の種族の賢人にも是非会って欲しい』




奥へ案内される。


どうやら、見た限りでは、リザードマン達はワーウルフのように狩りをすることはなく、漁業や……、漁業や……。


「う」


羚が一歩引く。


ザルの中には、一匹三十センチは超えるであろう、巨大なゴキブリが、生きたまま脚と羽を捥がれてギィギィ鳴いている。


グロい……。


「ほう、リザードマンは虫を食べるんですか」


大倉教授が言うには、一部のアジアなんかでは、食用のゴキブリやサソリ、クモなんかを食うことがあるらしい。


リザードマンは、漁業に加えて、虫の養殖をして暮らしているみたいだ。


その虫は、ゴキブリやコオロギ、芋虫のモンスターで、もう、なんて言うか、もう、グロい。


あと土も食うらしい。


……土?


「おかしなことではないね。ネイティブアメリカンなど、世界中で土を食べる文化があるよ」


へえ。


『なんで土を食べるんだ?』


『ダンジョンの土を食べると、腹の具合が良くなる』


整腸剤みたいなもんなのかな……?




そして、まずはリザードマンの村長に挨拶しに行く。


村長は、片目に大きな傷がある隻眼で、他のリザードマンよりも30センチは大きい、強そうな男のリザードマンだった。


『鱗無き者と獣人の賢人と、その連れが来ただと?うぅむ……』


『こんにちは、村長』


『こんにちは、鱗無き者よ』


取り敢えず挨拶。


『……鱗無き者よ、すまぬが、街は返せない。少し待ってくれれば、ここから出て行こう』


『いや、その必要はない。人間は殆どが死んだ。ここに戻ってくることはないだろう』


『そうなのか?』


『この世界の人間は弱いから、殆どが突然現れたモンスターに殺された。ここは好きに使っていいと思うぞ。まあ、百年二百年経てば、人間が増えて戻ってくる可能性もあるが』


『なら、暫くはここにいて良いだろうか?』


『俺に決定権はないが、恐らくは問題がないと思うぞ。今、人間は、殆どが死に絶えて、国の機能が麻痺している。もうこの世界は人間の天下じゃないってことさ。あんた達がいても問題はないだろうよ』


『そうか……』


そんなこんなで、一週間の滞在を許可された。


さあ、生態調査だ。

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