ポストアポカリプス×ダンジョン〜世界はダンジョンに呑まれましたが、俺は元気です〜

飴と無知@ハードオン

第1話 クズ社長、無職になる

「羽佐間社長、もう我々は貴方にはついていけない!」


「で?」


「貴方を解任し我々が経営を……」


「馬鹿言ってんじゃねえよ。てめえらみてえなアホが経営したら、会社は腐り落ちて終わりだ」


「貴方がやるよりは良い!あんな、何処の馬の骨とも知れない中卒の若造や外国人を雇用するなど!」


「馬鹿か?若いから、外国人だから、だとかそんなもんは関係ねえ、有能かどうかだ」


「わ、私達だって有能な筈だ!」


「……はー、もう良いよ、お前ら。大体予想してたしな、こういうの。全部終わらせたから関係ないけど」


「全部、終わらせた……?」


「技術も権利も何も、全部知り合いの企業に売っぱらった。廃業だ」


「な、なんてことを!!!」


「俺の会社を俺が終わらせただけだぞ?手続きも株主の許可も得た。法的に問題はない。じゃあな」


「こ、この、殺してやる!!!」


卓上のカッターナイフで襲いかかってくる社員。


カウンターで拳を顔面に叩きつける。


「ピギャ」


「で?話がないなら俺は楽隠居させてもらうが?」




俺……、羽佐間義辰。26歳。百人規模の大きなベンチャー企業の社長……、だった。昨日まではな。


今日からは楽々ニート生活ってところだ。


都会に住んでいたんで、せっかくだから田舎の方に行ってみるか。


実はこんなこともあろうかと、田舎町に建てておいた別荘がある。そこに移り住もう。


幸い、金は億単位である。売り払った会社の技術がかなりの額になったんだよな。


別荘は、某ゾンビゲームを意識した洋館。実にレジデントでイービルだ。


しかし日常生活に困るような面白ギミックは流石にない。移動するたびに四種類の鍵を使い分けたり、像を押したりするのはだるいので……。


「んー、26で楽隠居は早まったかね?次の仕事を探そうか……?」


となると……、近くの田舎町でカフェでもやるか。紅茶とコーヒーの淹れ方なら、自分で言うのもなんだが、天下一だぞ。


……ん?


『ピギー』


ふむ……。


「特に疲れてもいないはずだが、明らかな幻覚が見えるな……。老眼か?いやまだ26だぞ」


『ピキギー』


こいつは見るからに……。


「……スライム?」


銀色の水玉だ。


『ピギー』


足にぶつかってきた。


「これはあれか?敵意があるのか?」


髪の毛を一本抜いて、スライムに突っ込む。


『ピギ』


「消化してる……。触れたものを溶かせるのか。つまり今、俺はこのスライムに襲われてるってことか」


『ピギー』


うーん。


となると。


「死ね」


蹴り飛ばす。


『ピギャ』


スライムは破裂して死んだ。


その時。


《レベルアップ!》


「うおっ?!」


頭の中に声が響いた。


「え?は?……え?何これ?」


幻覚?クスリなんてやってねえぞ?


夢?目は覚めてる。


ドッキリ?あんなスライム、人間が作れるか?


しばし、思案して……。


「そもそもどっから出てきた?」


洋館の周りをぐるりと一周。


「あ」


裏庭に穴が。


人一人楽々通れそうな割とデカイ穴。ビッチの穴のようにガバガバだ。この家の管理体制もガバガバ。工事した会社に苦情を入れてやる……。


いや、待てよ?


「うーん、まともな建築業者なら、こんなデカイ穴を放っておいたりはしないだろ……?」


となると……、自然に空いた?


……自然にこんなデカイ穴が空く訳ねーだろ。


「ん?」


『ピギー』


……さっきのスライム?が穴から湧いて出た。


「となると……」


穴に入る。


「中は洞窟、か?」


『ピギー』『ピキギー』『ピギー』


数体のスライムが飛び跳ねている。


うーん。


取り敢えず、家の中から、消火斧を持ち出す。


我ながら浅慮だと思うが……、家の裏にあんな空間があっては、おちおち寝られない。


蹴り一発で死ぬスライムと言えども、寝ている間に顔に張り付かれたら窒息死だ。


それに、警察を呼ぶにも、「家の裏に謎のスライムの巣があるんです!」などと言ったら、来るのは警察ではなく、下手したら黄色い救急車だ。


兎に角、今日、ゆっくり寝るためには、裏の穴をどうにかしなけりゃならない。




「そらよ」


消火斧でぶん殴ると。


『ピギャ』


軽く弾けるスライム。


水の入ったゴムボールみたいな感触。


《レベルアップ!》


さっきから聞こえる幻聴。


「全く、何がレベルアップだよ。ゲームみたいに強くなれんのかよっと……?!」


『ピギュァ』


いや、これは……?!


「まさか……!!」


手当たり次第にスライムをぶちのめす。


《レベルアップ!》


「よし……!!」


思い切り消火斧を振る。


すると。


『ピギュァァ』


間違いない、明らかに攻撃の威力が上がっている!


ちょっと走ってみる。


「うおっ?!」


自分が思ったより1.5倍くらいは速い!


レベルアップは身体能力が上がるのか?


「いやそんなゲームみたいな……」


だが、事実、強くなっている。


身体能力はそれなりに自信があるが、今の俺ならプロ格闘家として天下取れるくらいだな。


そうやって、下へ下へと進んでいく。


……何故か灯りがあることとか、ツッコミは入れちゃいけないやつなのかこれは。あからさまにおかしい明るさの光苔とか、何故かある松明とか。


つまりこれはダンジョン、ってやつか?


ってことは……。


『ピキピキピー!』


「ボスキャラ、ってやつか……!」


普通のスライムはバスケットボールくらいの大きさなんだが、この、恐らくはボスと思われるスライムは、バランスボールくらいのデカさだ。


それが、割と結構な速さ……、スクーターより遅いくらい?で突っ込んでくる。


おいおい、普通に危ねえよ。あれだけの質量で突進されたら怪我するわ。


避けて、すれ違いざまに消火斧を叩きつける。


一撃じゃ死なないな、何度か繰り返す。


そして。


「いい加減死ねぇ!!!」


『ピギャアアァ!』


よっしゃやった!


《レベルアップ!》


強かったな……。


そして、奥の行き止まりには。


「んー、壊して下さいと言わんばかりの水晶」


怪しく煌めく水晶が、これまた怪しげな台座に。


「よし、ぶっ壊そ」


取り敢えずやってみる。


行動力はベンチャー企業で最も大事なんだよ。


「もう社会人じゃねーけどなぁ!!!」


消火斧を水晶に叩きつけ、破壊する。


すると。


《称号:ファーストエクスプローラー獲得!》

《ダンジョン踏破ボーナス!スキル:空間支配獲得!》

《最初のダンジョンクリア者ボーナス!スキル:完全複製獲得!》

《最初のダンジョンクリア者ボーナス!スキル:ダンジョン生成獲得!》

《最初のダンジョンクリア者ボーナス!スキル:究極地図獲得!》


「ぐっ……?!」


一瞬、猛烈な頭痛が。


なんだこれ……、いや、分かる。


スキルの使い方が分かるぞ。


試しに使ってみる。


「空間支配」


空間支配は、テレポーテーション、アイテムボックス、スペースブレイク、ディメンションバリアなどの複合スキル。等級は最上級。


空間を自在に操り、一瞬で認識下に転移すること、時間が停止した異次元に生物や物質を保管すること、空間そのものを破壊し、防御が不可能な超強力な攻撃を繰り出せる、空間を歪ませてどんな攻撃も防ぐなど、応用力と威力があるスキルだ。


完全複製は複製系スキルの最高峰、等級は最上級。


生物や物質、現象を劣化なしで複製できるスキルだ。


空間そのものを複製するコピーアンドペースト能力だな。故に、空間系スキルの分派というか、一種である。


ダンジョン生成ももちろん最上級。


その名の通り、ダンジョンを作るスキルだ。しかし、自分のレベルより強いモンスターや施設は作れない。


今俺に作れるのは……、広さ300メートル四方の、三階層。洞窟と平原のみ。出せるモンスターはスライム、ウルフ、スケルトン、ゴブリン……、雑魚ばっかりだな。


これは、ダンジョンという異次元空間を創造するスキルだな。これもまた空間系スキルの一種。別世界生成、とも言える。


究極地図も最上級スキル。


グ◯グルマップの究極版みたいなの。ありとあらゆる土地の情報が手に入る。


空間を把握するスキルだ。


空間系スキルの補助スキルのうち、最高級のものらしい。知覚拡大系のスキルだ。


で、どうすりゃいいんだ、このスキル……?

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