君は、冬の夜に隠れた

那須茄子

失恋

 冬の雨に濡れた自転車で、僕は走り出した。


 この掌に感じる乾いた雫を、未だに想う。



 真夜中の闇が根こそぎかっさらった、そんな肌寒さ。


 片隅に忘れ去られたように、ぽつんと佇む街灯。

 灯りの香る熱に、いつか光に向かう羽を背負う虫たちが集り寄る。



 不気味と不思議はなんだか似てる。

 不意に現れては、目に見えない透明になってゆく。


行方知らずの別れ人のように。









 冬の雨に濡れた自転車で、僕は走っていた。


 後ろに股がる、もう一人の影はいないまま。寂しい夜を駆けていかなくちゃいけない。


止まらないブレーキ加速させて、直線もわざと飛ばして遠回り。


 この掌に感じる乾いた雫を、未だに想う。



 ....真夜中の闇が根こそぎかっさらった、そんな肌寒さが今日もある。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君は、冬の夜に隠れた 那須茄子 @gggggggggg900

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ