セブンデイズチャレンジ #1

西野ゆう

第1話 砂の王国の砂

 砂の王国には王様がいないという。

 三千年前。まだ人々が空を飛べなかった時代。最後の砂の王国の王様が、王国の砂を持ち去って以来、国だけが残された。

「民たちはどうしたのだろう?」

「砂の王国の国民もまた、消えてしまったらしいね」

「それは王様が砂を持ち去ってしまったのと関係があるのかな?」

「さあ。最後の王様が国を去ったのは三千年前だって記録が残されているけど、国民たちがいなくなったのはいつか分からないからね。少しずつ去っていったのかもしれないし。忽然と消えてしまったのかもしれない」

 二人の若者が「水の都」と呼ばれていた都市遺跡の上空を旋回しながら三千年の時の流れに思いを馳せている。その水の都は現在、砂の王国の砂で埋め尽くされている。

「この湖の水は溢れ出して、その水で人々も、何もかも都市の外に流したんだよね?」

「そう言われているね」

「砂しかないのに今でも『水の都』か」

 地図に表示された地名に若者が苦笑した。

「うん。そして、砂の王国の砂だけが『水の都』の形を留めているのさ」

 上空から確認した目的の場所に向かった二人は、水の都に降り立つ。そして若者たちは砂の王国の砂を拾い集めた。

「それじゃあ、砂と王様と民がいなくなった『砂の王国』に行ってみよう」

 砂の王国は、水の都から西へ僅かに移動すると見えてきた。

 砂の王国には砂がない。積み木を積み上げたような切り立った岩盤に囲まれた、巨大な湖があるだけだ。

 王様がいなくなってからもこの場所は、ずっと砂の王国であり続けている。

 砂がなくなってからもこの場所は、ずっと砂の王国であり続けている。

「王様もいないのに『王国』だなんて」

 そのため息混じりの言葉に、もう一方の若者は笑った。

「しかも砂もないのに『砂の王国』だもんな。三千年間も。不思議というか、考えようによっては不気味な話だね」

 そんなふたりが乗る機影を「砂の王国」で暮らす「水の都」の末裔たちが船の上から見上げている。

 その様子を見たふたりの若者はお互いに笑い合って、砂の王国の砂をあるべき場所に戻し始めた。

 湖の水面で同時に湧き上がった無数の波紋が激しくぶつかり合う。波濤。それは全てを飲み込み、全てを吐き出した。砂の王国の砂を残して。

「さて、どっちが王様になるか決めよう」

「民もいないのに王様になってもね」

「いるじゃないか。君の目の前に。あるいは鏡の前に」

 こうして三千年の空白を文字通り埋め、新たな砂の王国の歴史が刻まれ始めた。

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