第2話・ルチエ嬢……男の体の神秘に困惑する
数日後──男になったルチエは、生き別れていた双子の弟『バッキャロ・ウ・セイ』として。
私立ジュラシー学園に転入してきた。
男子生徒寮の与えられた部屋に入ったルチエは、最初に部屋の窓を開けて新鮮な空気を室内に入れた。
「今日から男としての学園生活が、はじまるのですね……この部屋は二人部屋ですから、どんな殿方がルームメイトになるのか楽しみですわ」
窓から見える学園の登校風景──首長竜類が整備された恐竜専用の道を歩き、その道を乗馬ならぬ乗竜で登校してくる生徒たち。
空に目を向ければ、校則で女子生徒のみに許された、魔法のホウキに乗って登校してくる生徒がいるかと思えば。
学園前に作られた、学園前駅に到着した蒸気機関の客車から降りてきて、校門に向かう生徒たちの列もあった。
ルチエが呟く。
「見慣れていた登校風景ですけれど、こうして男子寮の窓から見る風景も新鮮ですわね。女の体の時は、恐竜が引く竜車で屋敷から登校していましたから」
ルチエの後方から、女性の声が聞こえてきた。
「ルチエさま、お荷物はここに置けばいいのですか?」
振り返ると、男子生徒の制服を着た。恐竜から人間に魔法進化した恐竜人類のショートヘアメイド──『アスナル』が、ルチエの重そうな荷物を床に置いて額の汗を手の甲で拭っていた。
肘から先と膝から下がまだ恐竜のような手と足で、尾骨からは恐竜の尻尾が生えている。
尻尾の先はスパイクがついた、棍棒のようなヨロイ竜の尻尾だ。
いつも「明日こそは人間になる、明日こそは人間になる、アスナル」と、口癖のように呟いている。
アスナルが、男装させられている男子生徒の制服の襟を、鋭い爪がある指先で摘みながらルチエに訊ねる。
「どうして、メスのボクまで男の格好をして、男子寮のルチエさまの隣の部屋に入って学園の授業を受けないといけないんですか?」
アスナルはルチエが変身魔法の実験で、屋敷でペットとして飼われていた恐竜を人間の女の子に変身させた恐竜娘だった。
「あなたは、いろいろと学んでいかなくてはいけません。それにわたくしの近くにいてもらった方が、なにかと好都合ですから」
惑星エンヴィーには、恐竜から直接進化したトカゲ顔の恐竜人類もいる。
魔法で人間の姿にさせられた、アスナルは
ルチエが言った。
「男子寮内とか人目がつく場所では、わたくしのコトは『セイ』と呼びなさい……それからアスナルに、一つだけ注意しておきたいコトがあります」
「なんですか? ルチ……じゃなかったセイさま」
「メスであるコトを学園の男子生徒に悟られないように注意しなさい……あなたがメスだと知られたら、どんな目に合うか」
「ひぇぇぇぇ! 明日こそは人間になる、アスナル」
その時、開いていたドアを軽くノックする音が聞こえ。ルチエが主治医として、学園に連れてきた闇医者が立っていた。
「もう、お話しは終わりましたか……わたしの荷物は、すでに隣の部屋に運び入れてありますが……お体の調子はどうですか? 慣れない男の体ですから、何か不都合があれば気軽に相談してください」
ルチエが早速、闇医者に相談する。
「歩く時に、女の時には無かった股間のモノの異物感が……なんとかなりませんか?」
「そればかりは、慣れてもらうしか……他には?」
少し考えてルチエが闇医者に訊ねる。
「殿方のアレは、普段は左右どちらの位置に、寄せればよろしいのですの?」
「アレとは? 男のシンボルにはメインとサブがありますから……メインの棒状器官ですか? サブの塊状器官の方ですか?」
「メインの方ですわ」
「ポジションの問題ですね。それは、お好みで……たいがいの男性は、自然に左右のどちらかの位置が決まってくるモノです」
興味津々でルチエが、さらに闇医者に質問する。
「中央がベストポジションの殿方もいるのですか?」
「いることは、いるでしょうね」
「勉強になりましたわ……ところで、あなたのお名前はなんですか?」
「闇医者なので、匿名希望でお願いします」
「それでは、お名前を呼ぶ時に困りますわ……偽名でもよろしいので名乗ってください」
腕組をして考えてから闇医者が口を開く。
「それでは、偽名で『キリ・キザム』でお願いします。キザムと呼んでいただければ」
「わかりましたわ」
アスナルが、闇医者を凝視しながら不安そうな声で言った。
「ボク、大丈夫ですか? この闇医者の人と隣の部屋で同室で」
キザムが、好奇心に満ちた笑みを浮かべながらアスナルに言った。
「大丈夫ですよ、目覚めている時は、解剖なんてしませんから安心してください」
「ひぇぇぇぇ! アスナル」
こうして、男のセイとなった、ルチエ嬢の学園生活がはじまった。
本格的に授業を受けるのはキザムの助言で、男の体に慣れる三日後に決まった。
それまでは男子寮で、新しい体に馴染むための準備をルチエは行った。
◇◇◇◇◇◇
翌朝──ルチエの部屋に置いてある、キザムを呼び出す手持ちベルが鳴って、寝着姿のキザムが何事かとルチエの部屋に駆け込んだ。
「ど、どうなさいましたル……じゃなかったッセイさま?」
上体を起こしてベットの端に座っていたルチエは、指先で自分の股間を指差して震える声で言った。
「な……なんですの、コレは?」
ルチエのパジャマの男の股間部分に、見事なテントが張られていた。
即答するキザム。
「〝朝立ち〟ですね」
「朝立ち?」
「男性の生理現象の一つです……男のシンボルに血流が集まっているわです、元気な証拠です」
「なんとかしなさい」
「そう言われても、その現象は病気ではありませんので……とりあえず、トイレで放尿でもしてきたらどうですか」
「トイレですわね……わかりましたわ」
トイレで放尿を済ませて、スッキリとした顔で戻ってきたルチエが言った。
「収まりましたわ、ところでオシッコをした後は、先端を紙で拭いておけば良いのですか?」
「いや、軽く振ってしずくを払っておけばいいですよ」
「そうでしたの、殿方は簡単ですわね……振る方向は上下左右、どの方向で?」
「それは、セイさまのお好きな方向で……基本は上下ですが」
「わかりましたわ……ところで、前から聞きたいと思っていましたけれど、男の体になった次の朝……淫夢を見て、気がついたら下着の中に変な体液が付着していましたが……あの体液はなんですか? 病気では?」
キザムは少し考えてから。
「それも病気ではありません、TS処術をした体が正常に機能している証拠です。セイさまがご自分の男の体に馴染んでから、体液の正体についてはお教えします」
そう言って、その場を誤魔化した。
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