春を唄うぼくらは。
七星北斗(化物)
1.旅する僕らは。
平凡な人生とは、有り余る幸福だ。
何故ならば、適度な困難の中、平穏な幸福が約束されているから。
刺激とは果実、生命とは選択。
我々は、刺激の最中で、誰かの選択で生かされている。
その選択は、あなたのためではなく、己の幸福を満たす宝くじ。
あなたは今、幸せですか?
光星歴三百年、八月一日。旅人のアルは、砂漠の真ん中を歩いている。
ナバと呼ばれるその土地では、人間同士が争い荒廃してしまった。
砂漠には、この環境に対応した害獣、ハームが彷徨いている。ハームは、人に害を与えるため、砂漠を歩くには危険が伴う。
目的地は、砂漠の北西にある都市サハラである。国境を通らず、砂漠を越えようとする人間は数多くいる。
なら安全な国境を通ればいい話であるが、通行料が高く、とても民間人が払える金額ではない。
フードを深く被り、少年アルは砂埃に噎せた。
こんな場所を歩く、妹のアガリが心配になる。
スラム出身の兄妹には親がおらず、親代わりのじいちゃんは、一週間前に死んだ。
どうやらじいちゃんには、借金があり。僕ら兄妹に払えるわけがなく、こうして夜逃げをしているのだ。
「もうすぐだからな、疲れたら兄ちゃんにすぐ言えよ」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私まだ疲れてないよ。まだ歩ける」
この暑さだ、汗が滝のように出る。
アガリは、心配をかけないようにしているが、足を引きずってヒョコヒョコ歩いており、顔色が悪く疲れが見える。
僕が不甲斐ないばかりに、妹へ苦労させしまっている。
美味しい食べ物でも食べさせて、柔らかいベッドで寝かせてやりたい。
今は少しでも、アガリを休ませなければならない。
「兄ちゃんちょっと疲れたから、あそこの岩場のある所で休憩しないか?」
「お兄ちゃん大丈夫!体調悪いの?」
「いや、少しお腹が空いただけだよ」
「なら、良かった。でも、ご飯もうあんまりないよ」
「大丈夫、明日の昼にはサハラに着くよ。朝の分さえ残せばなんとかなる」
「そうかな?」
心配するアガリだが、やはりお腹を空かしていたようで、空腹のアラームが鳴る。
「それに今日は、黒パン一個しか食べてないだろ。もうすぐ夜がくるし、体を温めないと」
「わかった」
許可が出たので、小さな鍋と木の器を用意する。火打石で枯れ木に火を付け、水筒の水を鍋に入れた。
鳥骨を煮て出汁を取り、少しばかりの乾燥させた野菜と干し肉を鍋に入れる。
しばらく火にかけ、食べ頃になると器に移して、スープを啜った。
砂漠は、夜になると気温が下がる。寒くて眠れないため、二人くっついて暖を取り、ようやく眠りに就いた。
春を唄うぼくらは。 七星北斗(化物) @sitiseihokuto
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