第3話 ステータスと才能

 レベルアップして、スケルトンから少しでも人間に近い姿を目指す。


 とりあえずの方針としては悪くないと思うのだが、問題は一体、今の俺がどれくらい強いのかということだ。


 もともとダンジョン協会から示された、俺の探索者シーカーとしての実力はF。一番下のGランクは探索者ライセンスを取得した時点で与えられるランクであり、Fランクとは、一度でもダンジョンに潜り、任務をこなした探索者シーカーに与えられるランクのことである。


 要はファッション探索者に与えられるランクがGということだ。

 ここで大事なことは、俺がファッション探索者ではないということ。同時に、最低限の実力はあるということ。


 ただし、それはあくまでダンジョン協会が定めたものであり、Fランクだからといって、新人がいきなりスライムやゴブリンを倒せるのかと問われれば、正直かなり難しいだろう。その点、探索者歴二年になる俺は、スライムやゴブリンの二体くらいまでなら……いや、一対一なら確実に勝てるだけの実力はある。


 ――弱い。


 なんてことは言わないでくれよ。

 だって仕方ないじゃないか。

 探索者シーカーには必ず才能タレントと呼ばれる能力が最低ひとつは備わっているものなのだが、俺の才能は、才能と呼ぶにはあまりにも酷いものだった。


 唯一才能ユニーク・タレント

 器用貧乏:あなたはスキル&魔法を覚えることはない。


 才能というより、もはや呪いとしか言いようがない。


 この才能のせいで、どれだけレベルを上げても、俺はスキルを覚えることがなかった。その上、レベルが上がっても、ステータスは『HP』『MP』『SP』『腕力』『耐久力』『魔力』『敏捷性』『知性』『運』いずれかひとつ、しかも1しか上がらない。


 もはや、自分でも笑えてくるレベルだ。


 受付の羽川さんいわく、ステータスの上昇値には個人差があるという。

 だとしても、死ぬ物狂いでレベルを上げて、ようやくステータスが1上がるだけ。レベルが上がって強くなったと実感したことなど、ただの一度もない。


 しかも、1年ほど前から俺のレベルがまったく上がらなくなった。レベル上限は12/30なので、まだまだ十分上がる見込みはある。にも関わらず、俺のレベルが上がらなくなったのには理由があった。単純に俺のレベルに対して、【墳墓の迷宮】に出現する魔物のレベルが低いため、得られる経験値が少な過ぎたのだ。


 一応、確認しておくか。


 スケルトンとなった、今の俺のステータスを確認してみることにする。



【不死川宗介】

 レベル:1/10

 HP:15/15

 MP:10/10

 SP:0

 経験値:0/30


 種族:スケルトン

 腕力:3

 耐久力:4

 魔力:3

 敏捷性:3

 知性:3

 運:1

 スキル:『ボーンアタック』

 魔法:なし


 唯一才能ユニーク・タレント

 墓荒らしの簒奪者:貴方は死者から力を奪い取る。



 ――よわっ。


 過去のステータスよりも大きく劣化している現実に、俺は絶望の色を隠しきれない。

 しかも、ステータスだけでなく、レベルが1になっていた。レベル上限10、これはさすがにゴミすぎて笑えない。


 【墳墓の迷宮】で二年かけて鍛え上げたレベル12も、今やすべてが水の泡と化してしまっていた。


 ――んん?


 しかし、まったくダメというわけではなさそうだ。以前は『器用貧乏』の呪縛でスキルを身につけられなかったが、なんとスケルトンにクラスチェンジしたことにより、新たに『ボーンアタック』というスキルを手に入れたようだ。更に、唯一才能ユニーク・タレントである『器用貧乏』がなくなり、代わりに『墓荒らしの簒奪者』という物騒な才能タレントに変わっていた。


 これに関しては、正直ありがたかった。

 ようやく呪いが解けたかのような感動がこみ上げてくる。

 いや、正確には呪いが上書きされただけなのかもしれないが……。


 人間、生きていれば何とかなる。

 何とかしてみせる。

 しなければ、たった一人の妹が、家族の命がかかっているのだ。


 最悪、俺はこのままでも死ぬことはない、と思うが、妹の命にはタイムリミットがある。レベルが下がったり、ステータスが下がった程度のことで落ち込んでいる場合ではない。


「とにかく、レベルを上げて進化だ!」


 ――おっ!


 骨だけになってしまったので声は出せないものとばかり思っていたが、普通に声が出せた。その事実に驚きが走る。


「骨、以外は普通なんだよな」


 その場で試しに屈伸運動をしてから、軽く跳びはねてみる。

 カタカタと奇妙な音がする以外には、特に問題はなさそうだ。


「あっ!?」


 レベル上げのために引き返そうとしたその瞬間、壊れかけの球体型自動撮影カメラが視界に入る。普段は宙を浮いているはずの追尾カメラも、ドラゴンブレスの風圧で壁に打ちつけられたのか、今は地面を転がっていた。


「完全にレンズが割れちゃっているな」


 これ、結構高かったのに……。


 しかし、完全に壊れているわけではなさそうだ。

 ビリビリとかろうじて、配信画面ライブウィンドウにはコメントが飛び交っていた。



 :不死みん無事なのか!?

 :さっきから何も見えないぞ。

 :おい最弱! 観てやってんだから返事くらいしろ!

 :まさか、死んだわけじゃないよな?

 :縁起でもないこと言わないでください!

 :もう1時間は経つよな?

 :ダンジョン協会は何やってんだよ。

 :連絡したんですけど……悪戯で処理されてしまいました。

 :は? なんでぇ?

 :低位ダンジョンでドラゴンとか、普通信じないだろ。

 :この映像観せたらいいだろ!

 :まだアーカイブないからな。誰が画面RECしてるやついる?

 :いるわけないだろww

 :だよな。



 視聴者数5人なのに、配信はいまだかつてないくらいに盛り上がっていた。

 みんなが俺を心配してくれていることが嬉しすぎて、何だか涙がこみ上げてくる。ウチのリスナーは本当に素晴らしい人たちばかりのようだ。


「みんな! 俺は何とか無事だ。心配かけてすまない」


 ギリギリ起動しているカメラに向かって話しかけると、少ない視聴者たちがコメントを書き込んでくれる。



 :不死みん無事なのか!?

 :マジで焦ったぞ。

 :最弱ダンジョン配信もこれで見納めかとヒヤヒヤしたww

 :どこも怪我はしていませんか?

 :ずっと暗いままだぞ。映像はよ。



 カメラが壊れていたおかげで、アンデッド化がリスナーに知られることはなかった。まさに不幸中の幸いというやつだ。


「さっきの衝撃でカメラが壊れてしまったみたいで、何とか音声のみで対応している状況なんだ」


 リスナーたちからは先程のドラゴンは何だったのか、どうやって生き延びたのかなど、様々な質問が飛び交っていた。すべてに答える余裕も、時間も俺にはない。


「すまない、色々説明したいんだけど、カメラのバッテリーがもうないんだ。今日の配信はここで終わらせてもらう」


 強引に配信を終わらせた俺は、レベル上げのため、魔物を探すべくダンジョン内を歩きはじめた。


 そして、歩き始めて五分ほど経った頃、俺は最初の魔物に出会った。


 相手は最弱の魔物と評される不定形の粘液――スライムだった。

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