夜会にて婚約破棄を言い渡された私のために、彼の弟がその場に飛び込んでくれました
麒麟堂 あみだ
第1話
◇◇◇
お父様が言った。
「フラン、本当にやるのかい?」
お父様は本当に甘々で心配性だ。
私は既に準備は終えている。
「はい、お父様。私、やられたら絶対にやりかえしますの」
「お前というやつは……」
父が苦笑いを浮かべた。
けれどお父様、そんな顔しても駄目ですよ。
「お父様からの教えです」
だってそもそも、『やられたらやり返せ。躊躇いも情け容赦も無用だ』というのは、伯爵家の当主である父からの教えだ。
今日、学園卒業前の大イベントである王国主導の夜会がある。
そこで私は、婚約者であり、この国の王太子でもあるリュド様より婚約破棄を言い渡される。
「それではお父様、行ってまいります」
◇◇◇
王宮に着き、当たり障りなくその場で過ごす。
けれど、周囲の好奇にまみれた視線が私に向けられているのを肌で感じる。それもそのはず、私の婚約者であるリュド様が、私ではない別の女性を側に侍らせ、誰が見ても親しげに振る舞っているのだから。けれど結構。そういったふざけた行為も今日で終わる。
「フラン様っ」
呼ぶ声の方を向くと、柔和な笑顔があった。
「エドガー様ではございませんか」
彼はリュド様とよく似ている。それもそのはず、エドガー様はリュド様の一つ下の弟なのだから。
「フラン様……大丈夫ですか?」
彼が眉を下げて私へと問うた。
「何がでしょう?……と尋ねるのは野暮なのでしょうね」
彼の言いたいことはわかる。婚約者からは蔑ろにされ、多くの者の好奇の視線に晒されて平気かと言っているのだ。
「大丈夫ですわ……と胸を張って答えられたら良いのですが、あいにく私も、それほど強くはないみたいです」
私の返答に、エドガー様が面を伏せた。
「ごめんなさい……フラン様……僕が、僕がこうなる前に、クラリッサ嬢や兄さんの暴走を止められていたら、今頃こんなことには───」
「やめてくださいまし。
「でもっ! 僕が非力だから……」
エドガー様が顔に手を当てくしゃりと拳を握りしめた。
「僕がフラン様の婚約者だったなら、絶対にフラン様にこんな苦しい思いはさせないのに……それに、僕なら、絶対に、絶対にフラン様を幸せにしてみせるのに……」
彼は悔しさを滲ませた顔で、言い切った。
「エドガー様、そのようなことを言ってはいけません。私達の婚約は国が定めたものです……ですのでいくらエドガー様でも、その発言を誰かに聞かれたら……」
「ごめんなさい……」
「構いませんわ」
そう。もはや彼が何を言おうが、そんなものは些事だ。
だってこれから───
「みんなっ! これからみんなに重大な発表があるっ!!」
離れた所にいたリュド様の声がホールに響き渡った。
聞く者の心を揺さぶる、自信に満ち溢れた声だった。
「兄さん……」
「……」
私とエドガー様も会話を中断し、リュド様の方へと視線を向けた。
「私は、ここで宣言する」
彼の視線が、私を捉えた。
そして、リュド様が周りを見渡すようにして声を張り上げた。
「この私───リュド・トロット・ヨーハン・フォン・ウィトゲンシュタインは、フランチェスカ・イズ・フォン・フリーデンとの婚約をこの場をもって破棄する!!」
先程とは比較にならないほど大勢の視線が私へと向けられた。
エドガー様が、蒼白で心配げな顔で私を見つめた。
大丈夫。大丈夫よ、フランチェスカ。
ここからが、勝負だから。
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