第6話

『グォオオオオオオオーーッッ!!!!』

「出たか! 待ってろ魔物ォ!!」

「あ、ちょっと君! 待つんだ!!」


 森の奥から轟いてきた何かの咆哮。ようやく歯ごたえのある敵が現れてくれたようだ。

 俺が声の主めがけて駆け出すと、シュシュも背中を追ってくる。草木を掻き分けて進むとそこには、巨大な生物が佇んでいた。


 真っ赤な鱗に大きな翼、喉の奥は赤く燃え盛っている。レッドドラゴンだ。


『グルァア……!!!』

「肩慣らしには、ちょうどいいな……」

「っ!? な、なんだこの威圧感は……!?」


 なるべく抑えていた気配と殺気を解放すると、シュシュだけでなくレッドドラゴンもたじろぐ。

 一体俺がどんな姿に見えているのかは知らないが、なるべく楽しませてくれることを願おうか。


『ガァア!!!』

「【魔力障壁】」


 口から炎を吐いてくるが、透明な板を展開してそれを完璧に防ぐ。

 体全体を包んでいるが……魔力消費が激しいから頻繁に使うのは避けた方がいいか。守りは最低限で、俺はガンガン攻めるのが性に合ってるっぽいな。


『ガァァア!!!!』

「炎で俺に勝てると思ってんのか〜!? 口から出た炎全部使わせてもらうぜ! 【炎縛えんばく】!」


 ドラゴンが吐いた炎を操り、紐のような形にしてドラゴンを捕縛する。剣を鞘に納めて構え、腰を据え、抜剣した。


 ――キンッ。


『ガ、ァ…………』

「ふぅ〜〜。ドラゴンの三枚おろし、調理完了だぜ!! 持って帰ってジジイに料理してもらおー」


 ドラゴンはズルりと肉体が裂かれ、三枚におろされる。

 この程度の魔物だったら瞬殺できるな。魔術も使用も扱いやすくなってきたし、体も鍛え上げられてきて大抵の魔物だったら相手にならなさそうだ。


 一息ついていると、プルプルと震えているシュシュの姿が目に入った。


「ドラゴンを一瞬で……!? レッドドラゴンはドラゴン種の中でも最弱だが、複数人で狩るのが普通だ……。どうなってる……?」

「(……あっ、やべぇ。シュシュがいんの忘れてたぜ……)」

「き、君!」

「な、なんだ?」


 ズンズンと俺に近づいてくるシュシュ。

 これはやらかしちまったか……。でも手を出すわけにもいかないし、潔く怒られ――。


「君の剣技に一目惚れをしてしまった! 頼むっ、っ!!!」

「…………huh?」


 今、なんて言った? 弟子にしてくれ、だと? 待て待て待て、なーんもわかっちゃいねぇぞ。俺が。

 シュシュは主人公の剣技を鍛える師匠ポジになるキャラクターだ。誰かに仕えることなく、媚びず、クールだが少しおっちょこちょいなキャラのはずだ。

 それが俺の弟子に……? くっ、情報が完結しないッ!


「君の……いいや、貴殿の名はなんというんだ!?」

「え……ウシュティア・フラムだが……」

「ウシュティア師匠……!!!」

「誰が師匠だっ!? 弟子を取るつもりはねぇぞ!! じゃ、じゃーな!!!」


 〝縮地〟でこの場を一瞬で去り、自分の屋敷へと戻る。冷や汗をぬぐって深いため息を吐いた。

 さすがに主人公の強化キャラを奪う(?)のはよくないだろうよ。悪いなシュシュ、主人公の方に行け。頼むから。


「ふむ、ここが師匠の家なのですね」

「あぁ、まぁな。…………っ!!?」


 思わず二度見をしてしまった。

 後ろにはいるはずのないシュシュの姿があったからだ。


「なんっ……でテメェここにいんだよ!!?」

「ふっふっふ……。私は獣人ですよ? 鼻がいいんです! 褒めてください師匠っ!」

「すげぇけどストーカーすんな!?」


 ギャーギャー騒いでいると、屋敷の中から武装したジジイやメイドたちがぞろぞろとやってきた。


「お嬢様! ご無事でしたか! 今から爺やたちも向かおうかと思って……と、そのお方は一体……?」

「あー……っと、そうだなぁ……。も、森で拾ったぜ。飼っていいか?」

「えっと、そうですなぁ……。ちゃんとお世話するならば構いませんが……」

「やったぁ! えっへへ、師匠、よろしくお願いしますね!」


 シュシュはぎゅっと俺に抱きついて頬ずりをしてくる。どうやら離れてくれそうにないらしい。


 こうして、主人公の師匠になるはずのキャラクター兼ヒロインの一人は、俺の家でお世話をすることとなった。

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