90センチメートル

伊藤行李

90センチメートル(起)

 小学生の頃、村営のグラウンドで小さな競技大会があった。村という規模だったため、参加人数は当然少なかった。電車一両に全員乗ったとして、満員になるかならないかくらいだったと思う。


 私の種目は走高飛びだった。2本の支柱にかけられた棒を、助走をつけ跨ぐようにして飛ぶ。背中から飛ぶ技術もあるらしいが、子供の私には恐くて出来なかった。飛ぶときは着地点だけを見た。足を引っ掛けて転ぶ想像をしてしまうため、跨ぐ棒からは目を逸らしていた。着地点が見えていると恐怖が薄れた。


 運動が好きだった。走ることも。泳ぐことも。もちろん走高飛びも好きだった。飛ぶことは気持ちがいい。着地の際、足を着くマットの感触は普段味わえない新鮮な柔らかさがあった。ベッドの上で飛び跳ねたり、トランポリンで遊ぶのとはやや違う。少しずつではあったが、飛べる高さも上がっていった。この調子なら本番は上級生を抜いて1位だって狙えると、私は無根拠ながらそう考えていた。

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