最悪から最高へ
しがと
第1話 きっかけ
小学生からサッカーを始めた私は、メキメキと上達し、地元で1番と言われるほどの力があった。将来はサッカー選手になりたいとも思っていた。
小学校4年生の時。自分たちの試合が終わった後。他のチームの試合を観ていた時、丸脇選手を見つけた。周りをよく見ている彼は、試合を作っていた。小学生とは思えないほど視野が広く、的確なパスを出して、勝利に導いていた。そんな丸脇選手を応援し始めるとともに、いつか私を見つけて欲しい、と思いさらにサッカーを頑張ると決めたのだった。
しかし、小学校5年生の時。交通事故に遭ってしまい、サッカーを辞めた。練習も試合もできるけれど、サッカーをしていて大きな怪我をしたら、歩くことが難しくなると言われたから。それからは、チームの監督や一緒にプレーしていた仲間の要望で、戦術を組み立てるようになった。他のチームの研究をしたり、練習を考えたりした。サッカーができなくなっても、他の形で大好きなサッカーに関われて、チームに貢献できてすごく嬉しかった。
小学校を卒業して中学生になった。中学生の時も、サッカー部のマネージャーをした。女子サッカー部のマネージャーとして私は、できることをした。無駄を省き、部員がサッカーだけに集中できるようにした。監督やコーチに相手チームの情報を伝えたり、戦術の提案をしたりした。小学生の頃の地元のチームでの評価は県内に知れ渡っていたので、みんなが私の役割を認識し、提案をよく受けてくれていた。
選手たちの頑張りもあり、それまでは試合に出てもほとんど勝てなかった私たちは、1年で強豪と言われるまでになった。それにより、さらに上を目指そうという選手たちの強い思いに感化され、私もより一層努力したのだった。
そうして3年生になり、高校を考える時期になった。中学の時は、学区があって数校の中からしか選べなかったけれど、高校は違う。自分の行きたいところに行ける。だから私は、1つ上の丸脇選手が通っている高校を選んだのだった。通学時電車で1時間ほどかかるけれど、親は許可してくれた。丸脇選手の役に立ちたい。その思いで勉強をし、無事合格したのだった。
高校生になった。丸脇選手が所属する男子サッカー部のマネージャーをやりたかったのだけれど。
「なんでっ!」
今年、サッカー部にイケメン御曹司くんが入部するとかで、彼目当ての女子たちがマネージャーを希望した結果。前代未聞のマネージャー抽選が行われ、私は落選した。
「どんまい」
小学生からの友人の
「誰だ、そのイケメン御曹司は!」
「まあまあ、仕方ないじゃん」
「まあ、そうだけどさ。でもどうしよう。部活に入らないといけないんだよね」
そう。この高校は文武両道、を掲げており、生徒は必ず部活に入らなくてはいけなかった。幽霊部員になることも選択肢の1つだけれど、せっかくの高校生活。やるならちゃんとやりたい。そう思っていたら亜紀が
「んー。バレー部は?」
と提案してきた。
「バレー部?」
「そ。私の幼なじみがさ、バレー部の3年でキャプテンやってるんだけど。今マネージャーが3年生しかいなんだって。だからさ、どうかな」
「えー。バレーとか名前しか知らないんだけど」
「まあまあ。ちなみにもう連絡したから、今日見学に行ってみてね!」
なんと強引なこと。まあ、亜紀にそこまで言われたら行くしかないか。
そう思って放課後体育館を覗いた。亜紀の幼なじみだという
「初めまして。亜紀から話は聞いているよ。その、残念だったね」
「はい。でもいつまでもくよくよしていられないので。まだバレー部に入るかは分かりませんが見学だけでも良いですか?」
「もちろん。少しでも興味あったらぜひ」
そう言って先輩は部活に戻って行った。
部活を見ている時。マネージャーの3年生の2人がちょくちょく話をしてくれた。何としても私に入って欲しいみたい。先輩たちは話しやすくて面白くて、楽しかった。どうしようかな、バレー部にしようかな。迷っていたそんな時。
バシッ
ミニゲームでの一場面。ある人が打ったスパイク。
きれい
その人のスパイクに惚れた私は、その日のうちにマネージャーとしてバレー部に入部することを決めた。
そして入部届が受理され、次の週からバレー部の一員となった。
「初めまして。1年の
みんなの前で挨拶をしてマネージャーとしての活動が始まると思ったのだが。
「バレー知らないくせにマネージャーとかなめてんのか」
下げていた頭をあげるとすごく不機嫌そうな顔をした人がいた。
「おい、
「何すか。事実でしょ。強豪校の俺らにど素人のマネージャーなんていらないでしょ」
三坂と呼ばれたその人は、何とバレー部に入部することを決めたきっかけのスパイクを打った人だった。
「マネージャーは今3年しかいないんだ。1年生が入ってくれるのがどれだけありがたいか」
「ど素人ならいなくても変わらないと思いますけど」
三坂先輩は植木先輩と言い争いを始めてしまった。マネージャーの先輩に、「いつものことだから気にしないで」と言われたものの、私のせいで植木先輩に迷惑をかけるわけにはいかない。そう思った私は、三坂先輩の方に歩いて行った。
「三坂先輩」
「……」
顔をこちらに向けてくれた。話を聞いてはくれるらしい。
「初めまして。浦瀬です。バレーに関しては素人ですが、選手を支えることに関しては素人ではありません。それをきちんと証明して見せます。このバレー部に必要不可欠な存在だと必ず証明して見せますので、どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げた。植木先輩は慌てているし、他の部員たちも驚いて息を呑んだ。
「勝手にしろ」
そう言って先輩はコートに向かった。
とりあえず辞めなくてはいいみたいだな。そう安心していたら植木先輩に話しかけられた。
「浦瀬さん、ごめんな。あいつ、
「大丈夫です。絶対に必要だと言わせて見せるので」
初対面であんなことを言われた私は、先輩に必要だと言わせる、と燃えていたのだった。
次の日から誰よりも早く体育館に入った。部員がすぐに練習を始められるように、マネージャーの3年生の先輩たちに仕事内容を聞いて、自分ができることをした。部活中は、選手たちがバレーだけに集中できるよう、仕事内容にないけれどやったほうが効率が良いであろうことにも手を出してやっていた。
家ではバレーの勉強をした。まず、ルールの確認。ルールが分からなければ何もできない。そして、今までの練習や試合のデータを借りて、部員の分析、戦術の理解をした。それからは、試合をみて他校の分析。世界的な選手がしている練習を見たりもした。
そして。夏休み前には、監督やコーチ、植木キャプテンとともに、練習内容や戦術の組み立てに関わるようになっていった。私も練習内容や戦術に関わっていると知ったらしい三坂先輩に「お前、良いセンスしてるな」と褒めてもらえた。よし。褒めてもらえた。嬉しい。そうして私はさらに頑張ろうと決意した。
最近、先輩は変わった。なんというか、柔らかくなった。話しかけるなよオーラが消えた。それで部員は話しかけやすくなったのか、本人からアドバイスをもらえたことで今まで以上に成長していた。そして。女子にモテていた。今まで、「怖い」と恐れられていたのに、「怖くないかも」と、印象が変わっているのだ。同じ学年の子には、「三坂先輩の連絡先教えて」と頼まれることもしばしば。まあ、先輩の連絡先、知らないんだけどね。それでなぜかモヤモヤしていた私は、中庭に亜紀と先輩を見つけ、先輩がわずかに笑っているのを初めて見て、恋を自覚するとともに失恋をしたのだった。
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