幼馴染のウザいギャルにチョコを渡さなかったお話
ゆー。
幼馴染のウザいギャルにチョコを渡さなかったお話
「はぁ……今年どうしよ…」
私はスマホを見ながらそうつぶやいた。
明後日はバレンタインデー。カップルが騒ぎまくるお熱いイベントだ。
私には別に想い人とかめちゃくちゃ仲の良い友だちとかがいるわけじゃない。いうなればオタクの友達ぐらい?だから本来であれば私にとっては無関係なイベントだ。
しかし、私には毎年チョコを送る相手がいる。
それは幼馴染の女の子。
その子は私とは正反対のギャルで大人っぽさと可愛さを兼ね備えた学年一の美女と呼ばれる存在だ。頭は残念なものだが、おしゃれだし、後輩からも慕われている。
彼女とはたまに行き帰りで会って一緒に登下校したりとか、彼女が急に家に押しかけてきて漫画だけ読んで帰るとかそういう感じの関係性で特別、親友とかそういう関係ではない。普通の幼馴染。
ならなぜ毎年チョコをあげるのかって?
それは私のお母さんが『今年はあの子にどんなの送るの?』とか『今年はお母さんにも作って〜』とか言ってくるもんだから、作らざる負えないというか……。
まぁとにかく、毎年の恒例みたいになってるから仕方なく作ってるんだよね。
それで本題は今年のチョコだよ!
毎年作ってて思うけど、案外作るのって面倒くさい!時間かかる!
相手は幼馴染のあの子だし、もう作らなくってもいいんじゃない?あの子だってお返し作るのとかだるいだろうし、何とも思わないよね?
「…よし!決めた!」
今年は作らない!
そう決めると一気に肩の荷が下りる。お母さんには申し訳ないけど市販でいいでしょ。テスト期間も近いし、作るの時間かかるもんね!あっでも親愛なるオタク友達にはあげてやろう。市販の大袋でも買おうかな。
というわけでバレンタインも終わって放課後。オタク友達たちは『義理チョコすらもらえなかった…』と凹んでいたので市販チョコでもかなり喜んでくれた。
まぁ、私もクラスでたまに話す女子ぐらいからしか義理チョコ貰ってないんだけどね……。
やはり、世間はバレンタインムード!駅の方へ歩いているといつもより男女かっぽぉが多くて嫌になっちゃう!お幸せに!爆破しろ!
「あ!いた!」
トボトボと歩いていると聞き覚えのある元気な声が聞こえてきた。
「一緒にかーえろっ!」
案の定幼馴染のギャルだった。
彼女は両手に紙袋を持っていて、中には可愛らしいチョコやらクッキーやらが覗いていた。流石学年一の美女…。
「えへっ!みんなからたくさん貰っちゃったぜー!」
彼女は眩しい笑顔でピースをしてみせた。元気だね…。
「ねぇ、みゅうは誰かに渡したり、貰ったりした?」
『みゅう』……。それは私のあだ名で昔口が回らない彼女が『みゆう』を言えなくてそう言っていたのが今はあだ名として定着したのだ。
「う〜ん…友達に市販のあげたぐらいかな?あ、でも鈴木さんがくれたから鈴木さんにもあげたよ」
「そっか!みゅうってお菓子作り得意なのに、市販なんだぁ」
彼女はニマニマとしながら私に体当たりをしてくる。紙袋に入ってる箱の角が脇腹に刺さって痛いんですけど……。
「ねね、今日みゅうのお家行っていい?」
「いいけど…」
「やったー!貰ったチョコ一緒に食べよっ!」
彼女が貰ったものを私が食べるなんて……って毎年思うけど、明らかに一人で食べ切れる量じゃないし、毎年二人で分けて食べてたりする。ま、まぁ…仕方ないよね…。
というわけで私の部屋についたわけだけど、彼女は私の部屋に貰ったチョコを並べて何してるんですかね……。下着泥棒の押収品みたいになってますけど…。
「…何してんの?」
「こーやって撮って!イソスタのストーリーにあげるんだよんっ」
彼女は恐ろしく早い指さばきでストーリー投稿完了の画面を見せてきた。すぐさまいいねとかが押されていって、彼女がいかに人気かというのを思い知らされる。
彼女の並べたお菓子たちを袋に入れるのを手伝い、早速私のベッドでだらける彼女のお尻に蹴りを入れる。
「いったぁ!」
「手伝ったんだからお礼ぐらいはいいなよ」
「ありがとうございますみゅう様ぁ!!!!!」
な、なんかこの光景変態みたいだな…。
「と、ところで…みゅう様…」
彼女は改まった様子で私の前に座る。
「……なに?」
「あ、あの…今年のあーし分は?」
「あんたの?」
何を言うかと思えばチョコの話らしい。こんなにたくさん貰ってるのにまだ欲しがるなんて…欲張りだなぁ…。
私が何も言わないでいると彼女はソワソワとしながら、不安げにこちらを見上げる。
「あ、あれ?あーしのチョコは?」
「…ないけど」
「はぁ?!」
彼女は勢いよく立ち上がって私にすがりついてきた。
「な、なんでないの?!」
「え、だって…幼馴染だし、あげなくてもいいかなぁって」
「幼馴染だからこそあげるべきでは?!?!」
「それに…お返し作るのも面倒くさいでしょ?」
「面倒くさくないよぉ!!!!!」
彼女は頭を抱えてその場にうずくまる。そ、そんなにショックだったの?
「う、うぅ……みゅうのチョコぉ………あーしのチョコぉ……」
「そ、そんなにショック…?」
「今日はみゅうのチョコを楽しみにして学校に来たんだよ!」
し、知らなかった…彼女にとってこんなにも私のチョコが大切だなんて…。
彼女は私のベッドに飛び込んで、私の枕に顔を擦り付けながら暴れていた。ホコリたつからやめてほしいんだけど……。
「……はぁ…じゃあ次の休みに作ってあげるからそんな暴れないでよ…」
「ほ、ほんと…?」
「ホントホント」
「じゃあ…作るの見てていい?」
「いいけど…つまみ食いはなしだよ?」
「しませんっ!」
彼女はさっきまであんなにも暴れていたのが嘘のように元気になって、ベッドの上をゴロンゴロンと転がっている。
私は彼女の隣に腰を下ろして、ため息をついた。
「そんなに私のチョコを欲しがるって……あんた私のこと好きすぎでしょ」
ふと、彼女の動きがピタリと止まって固まった。
彼女はギギギっと顔をあげると驚くほど真っ赤になった顔でこちらを見上げる。瞳は潤んでいて、まるで発熱しているようだった。
え?まさか図星?
「な、なん…ぅ…え?」
彼女は言葉にならない言葉を発していて動揺が丸見えだ。
「え?まさか本当に私のこと好きなの?」
「お、幼馴染として当然じゃん?!」
彼女は上擦った声で弁明をする。
「…恋愛としては?」
「…………」
彼女はかなり正直なもので、目をそらして黙りこくった。
私はいつもとは全く違う彼女がなんだか面白くって少しからかってみることにした。
「…黙っちゃうんだ」
「…………」
「私のこと好きなら素直にそういえばいいのに」
「…………っ」
「私、あんたからの好意が嫌だとか言ったことないのになぁ」
彼女は限界が来たようでガクブルと震えて、冬だというのに汗をかきはじめている。
「……なんも言わないの?」
「…………」
彼女はすっかり無反応になってしまったので、私もやれやれといった様子で立ち上がる。
彼女は私の行動をどう捉えたのか、焦った様子で立ち上がった。
「ちょ、まっ!」
行く手を阻むようにたった彼女は私の動きを止めようと私の手をつかもうとした。
私は反射的に手を引いてしまったので彼女は勢いのまま、私の胸に顔面からダイブした。
運動不足の私は彼女を受け止められるほどの体幹はないためそのままベッドに押し倒されてしまった。
「あ、ごっごめn」
「……えっち」
私は彼女の顔がぶつかった自身の胸を隠しながら彼女に言い張った。
彼女は私の上で固まった状態のままだ。
「ね、ねぇ…そろそろどいt」
「さ!誘ったのはそっちだから!」
彼女は何を思ったのかおもむろに私のお腹の上に馬乗りになってシャツのボタンを外しはじめた。
「ちょ、何して!」
「逃げないで」
私は幼馴染にチョコをあげなかった結果、私自身が美味しくいただかれてしまった。
ちなみにファーストキスはチョコレートの甘い味でした。
幼馴染のウザいギャルにチョコを渡さなかったお話 ゆー。 @yu-maru
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