バレンタインローズ

Arare

バレンタインローズ

 バレンタインデー。戦争で結婚を禁じられた若い兵士の結婚式を内緒で執り行っていたキリスト教司祭が処刑されてしまった日。そんな日に愛を伝えるために女性が意中の男性にチョコを送る日。

 そんな日に義理チョコをもらうだけの俺。義理チョコをもらい続けて5年目。ただ愛されてないだけなのに、なぜか感情のないチョコだけをもらうことに罪を感じる。

 その罪の苦しさに苛まれて、家に帰ってもなにもやることがないのに、定時に逃げるように会社を出てしまった…


「また来てね~。まってるよー!」

 そう営業スマイルを浮かべる嬢。罪を重ねる。空の愛。2回目。来るんじゃなかった。俺は一つでも空の愛を捨てたくて

「バレンタインデーだから…」

 そういって、嬢にカバンの奥にしまっていた義理チョコを渡した。


 店から少し離れた大通り。ただ意味もなく30分。空を見つめていた。

 ふと店に目線を映すと、そこには少しイケてる男性。こんなイケメンもバレンタインデーにこんな店に来るのか。

 と安心したのもつかの間、男はカバンからチョコを取り出し、食べた。俺が嬢にあげたチョコを。


「あ…俺のチョコ…」

 ただの義理チョコで、嬢にも愛なく渡したチョコなのに、俺はつぶやいてしまった。

 俺と男は目が合って、男は俺からチョコ、すこしチョコを見つめ、そして俺に目線を戻す。

「チョコ…おいしいっすよ」

 男はさわやかに笑って、俺に告げた。その笑顔が、俺の心を穏やかにしたから、なぜか

「じゃあ、ホワイトデーもあげますよ」

 なんて答えてしまった。男はおかしそうに笑っていった。

「僕がもらったんだから、ホワイトデーは僕があげますよ」

 

 そして、俺たちは出会った。

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バレンタインローズ Arare @arare252

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