@Yoyodyne

ゼミナール

講演のためのメモと音声データがMF教授の部屋から見つかった。研究対象としていたテキストは現在に至るまで見つかっていない。

その後教授は講演に向かう途中にある公園の公衆便所で首を吊った状態で発見された。

首に付いた跡以外に目立った外傷はなく事件性もないため本件は自殺として処理された。

音声データの記録から教授は前日まで講演の構想を練っていた事がわかった。

録音時の環境音や判別不能な声と教授がしきりに会話してる様子から教授は一人でなかったようだが、一緒にいた人物は特定も目撃もされておらず不明である。

以下は講演のためのメモとデータと問題のテキストの抜粋である。

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ここにある数奇な運命を辿ったテキストがあります。悪名高く頻繁に色んな媒介で言及されていますので皆様ご存知だと思います。

これは今は整理され並んでいますが最初発見された時はバラバラに放り出され、丸められ劣悪な保存状態に置かれていたため欠落部分がありとてもそのままでは意味ある文章を見出すことができない代物でした。

それだけでなくこの一連の草稿は全く校正を施されていなかった上お互いに矛盾する記述が散見されたため、我々は意味を汲み取れるようテキストを補い組み合わせ手を加え誤字を修正し欠落した単語や情報の候補を随時吟味し矛盾を解消できるように努めましたが、その度に新たな矛盾や齟齬、乱丁が発生し、その影響は現実の我々の生活や生命まで脅かすようなものでした。

こういった作業は本来必要ないかのように思えます。このような文章にそこまでの労力やコストをかける価値がホントにあるのかと皆様はお思いになるかもしれません。結局は草稿を攻略しても危険を齎すだけでないかと。

しかしこれら草稿集は文章そのもの以上にそれ自体が特異な性質を、それも危険な性質を、持っていると思われるため━━といいますのもその性質が事実として確認可能なものでなく、残されている記録も不充分なため我々も自信を持って客観的にその現象があるとは言い難いのです━━我々研究者の関心を集めてきました。

それは半ば強制的に自身に関心を寄せさせるための作用を行使していると言っても過言でないかもしれません。

まず、先ほど劣悪な環境に置かれていたと言いましたがいつからそれが置かれていたかわからないのです。炭素年代測定では矛盾した数値が計測され、文体から時代背景を類推しようとしても

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