5分で読めるホラー集
堀巣ひあ
第1話 小学校の空き教室
私の通った小学校には不思議な空き教室があった。廊下の突き当りから左に曲がって、何もない細い廊下を10メートルくらい進むと、押すタイプのドアの先にその教室がある。
他の教室からは遠く、隔離されたような場所で、ドアの窓から覗くとサイズがバラバラの机や椅子が積み上げられていた。どうも薄気味悪くて、オバケが出るとか友達の間で噂になった。
校長先生も、机が倒れてくるかもしれないから入らないように、と注意していた。男の子たちは度胸試しに入ろうとしたのだが、鍵が閉まっていたらしい。近くの廊下を掃除するときに、ちょっと窓ガラスから中を覗いたのだが、確かに机が背の高さより積んであり、カーテンも閉まっていて暗く、オバケが出ても不思議じゃないと思っていた。
ある日のこと。かくれんぼに誘われた。勝つと高いお菓子が貰えることになった。いつも母親にねだっても買ってもらえない、いつもの倍の値段はするお菓子だ。だから私は絶対に隠れきってやろうと思った。だからあの空き教室が頭に浮かんでも不思議ではない。
オニ役のひなちゃんが数え始めると同時に、私は走って例の空き教室に急いだ。廊下を曲がるので、あの教室なら見えにくい。私は空き教室のドアの前に座り込んだ。ここなら人が来ない。オニも来ないはずだ。
3分くらいしただろうか。オニのひなちゃんの声がしてきた。「どこなの〜?」 まずい。こちらに近づいてきている。隠れなきゃ。焦った私は小さな望みをこめて空き教室のドアノブを回した。
ドアはキュッと音を立てて空いた。意外にも、カギはかかってなかった。男の子たちは鍵が閉まっていると言っていたが、ビビって嘘をついたのだろうか。とにかくノブを回しきって、急いで空き教室の中に滑り込んだ。
空き教室の中は机と椅子が無造作に積み上げられていて、隅っこには大きな機械があった。じめっとした空気があり、ホコリと湿っぽい匂いがした。
中は真っ暗に近く、自分の手もよく見えない。私は怖さに震えたが、その場に体育座りをして時が過ぎるのを待った。オニのひなちゃんの声は少しずつ大きくなっていた。近づいてきている。
隅っこの機械が規則的にシューと呼吸するような音を出していて、それが恐ろしかった。その機械が生きていて、いつか私を襲ってくるような気がした。私は息を殺して床だけを見つめていた。
オニ役のひなちゃんの声は遠くなり、聞こえなくなった。少しすると、休み時間の終わりのチャイムがなった。私はかくれんぼに勝ったのだ!
元気一杯に飛び上がると、空き教室のドア思い切り開けた。すると、どこからかキャアー!と甲高い音がして、背筋が凍るような気分がした。慌てて、逃げるように自分の教室に走った。そしてヒナちゃんに高いお菓子をもらった。怖くて、空き教室のことは思い出さないようにした。
それから十年後だ。友人たちから突然メッセージが届いた。「これ見て!」なんだろうとリンク先を見ると、一人の校長が逮捕されていた。
その校長は教え子の小学生を犯していた。それも何人も。そしてその校長は、私が小学生のときの校長だった。空き教室が危ないから近づくなと言っていた校長だ。
「私たちの頃からやってたって!」友人からのメッセージが続く。ニュース記事を読むと、空き教室に女子小学生を連れ込んで犯していたらしい。
手が震えた。空き教室の、なぜかその日だけ開いていた鍵。湿っぽい匂い。隅の機械から聞こえた呼吸のような音。ドアを開けたときの叫び声のような音。
私が隠れたときも誰かが犯されていた? 暗くて分からなかったが、あの機械の裏に校長と誰かがいたのだ。その呼吸が聞こえていた。そして助けを求めて叫んだのだ。
私が気づいていたら…… しかし助けられた? 私も犯されていたのでは? 私はへたり込むと、震える手で警察に情報提供の電話をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます