生きていたくない人の話
ChilL
第1話
初めての記憶は、妹が生まれた時のものだった。
高い壁と、その上に窓があった。背伸びをしてもよく見えないままいたら、おばあちゃんが抱っこしてくれた。
「あれがあんたの妹だよ」
窓の向こうにはいくつもの透明な箱があって、その中に赤ちゃんがいた。小さな小さな赤ちゃんだった。
今となってはもう当時の感情も思い出せないけど、多分、嬉しかったんだと思う。
次の記憶は、妹とテレビを見ている記憶だ。ママがかけたビデオを、私たちはテレビの前にちょこんと座って、じっと見ていた。
もうこれいっぱい見たのに。けど表す言葉がわからなくて、ムズムズした。
いつもパパとお風呂に入っていた。今までは妹は一緒じゃなかったけど、今日からは一緒らしい。けどお風呂に入って少ししたら、湯船に茶色い塊が浮いている。
「妹ちゃん、うんちした!」
パパも私もあたふたしたのを覚えている。パパは「きっとお風呂入って気持ちよかったんだね」と言っていた。
ある時、ストーブの上で焼いてたお餅を素手でとって火傷した。私の悲鳴を聞きつけてママが来て、水でずっと冷やしていたのを覚えてる。
パパと一緒に、落ちてた木の枝とタコ糸とカエルのおもちゃで釣竿を作った。パパが釣りしてきなと言うので、水がちょっとだけ流れている側溝にいたけど、何も釣れない。
ちょうど釣竿を持った親子が前を通ったのでついていったら海だった。海に釣竿を垂らしてみたけど、周りの人のと違って、カエルが浮いて下まで落ちなかった。
何も釣れなくてお家に帰ったら、パパとママに叱られた。あそこは立ち入り禁止で何人も死んでるんだと言われた。知らなかったので、今度からはしないようにしようと思った。ごめんなさいと言った。
ママが料理中に私のことを呼んだ。何だろうと思って来てみると、フライパンで何かを焼いていた。ママは私の腕をとって、そのまま手をフライパンにつけた。
「あついね、ほら、あついでしょ」
あつくて手を引っ込めようとするのに、ママは強くつかんで離してくれない。力が強すぎて腕が痛い。私は泣いているのにママは笑ってる。
ただただ怖くて、嫌だった。
生きていたくない人の話 ChilL @leavescattering
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。生きていたくない人の話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます