第21話 どうじゃ!?為介

「これは決して事前におまえに云ってくれるなと、幾重にも念を押されてのこと。じゃがいまこうしておまえに伝えた。そのわけは、まろはおまえが愛しいからじゃ。さすがの大伴様も石上家におけるおまえの立場まではわからぬ。押勝の乱に連座した山科家をまろの妻も、また子らも、いたく恐れ嫌って、こちらに来ても決して母に会うな、縁を戻すななどと今おまえに迫っていること、またおまえが冠者の時以来、養子として舐めて来たた辛酸などをな」

「お、大臣(おとど)様…」

「父上でよい。ここには妻も子もおらぬ。おまえはまろが則子殿からあずかった大事な子じゃ」

「父上様、まろとても母君のことをみだりに忘れたわけではありません。ただ…」

「ただ、何じゃ」

「ただ、母と別れて早35年がたちます。文のやりとりだけはずっと続けておりましたが、それも15年ほど前からはぷつりと途絶えて消息知れず。しかし3年前になって奇しくも大伴様からの文で御無事を知り、また文の途絶えたわけをも知りましたがいまさら甲斐なきこと。たしかに押勝の乱も大いにはばかられ、ましてまろの子良介の入婿とも重なり…はたやはたと、正直苦渋いたしております…さて、つらつら考えまするに母とても人の子、こちら大宰府に来て以来、別の生活もあったことでしょう。ひょっとしてこちらで別の子などもうけてはいまいかなどと、ハハハ、そう思わぬこともありません。大伴様のお心使いは重々わかりますが、さて、母君こそはたして私を見分けられるかどうか…」

「左様な方とはまろには思えぬ。為介、則子殿からのおまえへの文はとんと読んだことはないが、おそらくその文面からも、まして、決して多くはなかっただろう女官への報酬から、毎月のようにおまえに絹地五反六反と送り続けてくれた、そのことからしても、おまえに母の真心がわからぬはずがあるまい。どうじゃ!?為介」

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