第11話 母様、おさらば

「(咳払いの声)」

「何じゃ」

「は。唯今大宰府より使いの者が。新羅特使の歓迎の宴、整いましたとのこと。至急お戻り願いたいということでございます」

「よし、判った。馬を引いてまいれ」

「は」

「(軽笑)いや、お婆、帰京を前に私も何かと多忙でな。ゆっくりそなたの話を聞くこともできぬ。私なきあとの暮らし向きは今と寸分違わぬよう、適当な数の封戸を付けて置く。身がきつければいつでも大宰府へ参れ。その旨監の役人に申し付けて置いた。また時々ここに見廻りに来るようにともな。だから何も心配は要らぬ」

「お心使いのほど、最後までありがとうございます。

都でのさらなる御栄転のほどをお祈りいたしております」

「うむ」

戸を開けて表に出ると手綱を引かれた駿馬と、さらに騎馬数騎が控えております。金覆輪の鞍、厚総(あつふさ)、鞦(しりがい)の赤も夜目にあざやかな駿馬にまたがると、見送りに出た則子にいまひとたび鷹揚にうなずいてみせます。

「若様、どうかつつがなく。お幸せに」

「最後まで若様か(笑う)。ではお婆、いや母様、おさらばでおじゃる。いつの世もまた孝養つかまつりたし。では」

掛け声勇ましく腹を蹴ると騎馬4騎はたちまち走り出し、瞬く間に闇の中へと消えて行きました。

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